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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
18/64

#12 魔法の名と、七つの鍵①

「・・・い、おい!!しっかりしろ!!夜君!!!」


脳が揺れる。いまだかつてない程の、最低最悪な夢心地。それが、當真の全身に駆け巡った感情。


真っ暗な視界、いや、違う。目を、閉じているだけだ。体中が、痛い。ぼーっとする・・・なぜ?


(・・・なんだっ、け、俺、何してたんだっけ・・・?)


「夜君!?気がついたかい!!?」


當真が目を開けると、そこには見知った顔。


整えられた髭、眉、オールバックのヘアスタイルが嫌と言うほど清潔に感じるほどの爽やかな顔立ち、だがその体つきは海外の警察官のように強靭でがたいもいい男、陣内正蔵が心配そうにこちらを見つめていた。


いつ何時出会っても、“立派”で“まとも”な“”きちんとした大人”で、警察内でも確固たる信頼と地位を築き上げているこの人が、自身の父親と“同期”で“親友”であることが不思議でならない。


「正蔵さん・・・なんで?」


當真のその言葉に、陣内はようやく少しだけ安堵の表情を見せる。


そして、ゆっくりと當真の体を支えながら起こすと、無理のないようにその場に座らせた。


「それはこっちのセリフだよ?急に電話をかけてきたかと思えば無言電話だし、折り返しても出ないし、心配になって君の家に向かう途中で、騒ぎになっているこの店に寄ってみると傷だらけになって気を失っている君がいて・・・」


(・・・傷だらけ?あぁ、だからこんなに体中が痛いのか・・・頭にも包帯巻かれてるし・・・でも、なんで、俺、こんななってるんだっけ・・・)


痛みと同時に、思い返すたびに錯綜していく脳内の景色。


思考が、ゆっくりと、正常にリバースしていく。そして。


「-ッ!!!!そうだ!?パレット!?あぐっ?!痛ッ!!!」


ようやく現実世界に、思考が追いつく、そして自身を巡る感覚の“理由”も。


「パレット?と言うか待って!!急にそんなに動いちゃだめだよ夜君!!」


表情を一変させ叫ぶ當真に対し、慌ててその体を支える陣内。


しかし、當真も自身の傷の痛みなど省みず、口早に現状とこれまでの経緯を話す。興奮して話し続ける當真の様子を察したのか、陣内も黙って耳を傾けた。



「なるほど。つまり先程までそこに倒れていた男がジャック=シュクルテル・・・・・“C級”魔法犯罪者マジカルクライシスか」


當真の話に耳を傾けながら、取り出したスマートフォン(市販されているようなものではなく、おそらく警察機関内で支給されているであろう特殊なもの)を使用しながら、何かを調べていた陣内が告げたその言葉に対し、當真は驚きを隠せずにいた。


「“C級”?」


「ああ。『世界魔法機関』のデータベースによれば、国際的にというよりもヨーロッパでは指名手配されている裏家業の人間みたいだな・・・いくつかの事件は起こしているが、魔法レベルで言えば【魔法名】がついてるわけでもないし、まぁ、国際的に言えば“低レベル”の指名手配犯というわけだが・・・」


(あんなに凶悪で、凶暴で、イカれた奴が、“低レベル”・・・!?)


淡々と説明する陣内に対し、當真はただただ頭の中でその説明をリフレインすることしか出来なかった。


自身を襲ったあの脅威が、“そういう基準”の中ではあくまでも“低レベル”に過ぎないと判断されるのだ。


「まぁ、もちろんこの国で言えば“C級”でも十分すぎるほどの脅威ではあるけどな。だがしかし、今問題なのは“そっち”じゃない」


そこで、陣内は一息入れる。その表情に緊張が走ったように當真も感じ取る。続け様にスマートフォンを操作し、そしてある画面で操作する指を止める陣内。


「夜君の話が事実であって、もしも“もうひとり”の男がコイツであれば、“大問題”だ」


陣内はスマートフォンの画面を當真に渡し、ある画面を見せる。そこに映し出されていたのは。


「コイツ・・・?!」


まず目についたのは、白に近い銀髪。むしろ當真の記憶の中にあるのは、一瞬その視界に映った銀髪だけだった。


そして、當真が初めて正確に目にしたその顔立ちは。


見たままの印象だけで判別するなら、性別も分からない程に整った中性的な顔立ち、鼻も高く、つり上がった目つきさえも異国のモデルのような清廉ささえも感じるほどで。


しかし、そういったひとつひとつの正の印象を一切凌駕するほどに、その赤い瞳だけは生気をまるで感じない程に冷酷な印象を當真に与えるのであった。


「夜君はー」


ふいに、陣内がその口を開く。


「ー昨日の不法入国者のニュースは見たかい?」


「・・・そう言えば、そんなニュースを見たような気も・・・」


「昨日の時点では、実はそれに対する確固たる証拠はなくてだね、ただ、どこからかその情報がリークされ報道されていたし、中には“S級”の魔法犯罪者だなんて噂も出ていてね・・・警察でも捜査を進めながらも半信半疑になる者もいたのは間違いないんだが・・・今日匿名で一本の電話があったんだ、“郊外の廃ビルに怪しい奴がいる”、ってね」


(それって・・・さっき、アイツがいってた・・・)


「万が一にも備えて、警察が総動員でその廃ビルに向かったよ。昨日の今日だからね、警察内の噂も鑑みて、“上”は何の疑いも持つことなんてなかったよ」


そこで一息、だが確かに陣内は舌打ちと溜息をしていた。この国の警察機関の、そうした平和慣れした現状を憂いているかの様に。


そして、再び口を開き言葉を続ける。


「・・・結果そこにいたのはホームレスが数人いただけ。拍子抜けもいいところだよ。そして、そのタイミングで夜君、君から電話があって今に至る訳だが・・・夜君の話を聞いて、そしてこの写真を見る君の反応を見て、確信に変わったよ。不法入国者は間違いなくこの国にいて、そしてあながち“噂”も間違いではなかったということをね」


當真は改めて手にしたスマートフォンの画面に視線を向ける。そして画面を少し下方へとスクロールさせると、そこには英語で銀髪の青年の名前と、“CLASS【S】”の表記があった。



「・・・『アイド=ゼクスブリック』・・・」



呟く當真の手からスマートフォンを受け取り、陣内が一呼吸の後、話し始める。


「大前提として。【S級】魔法犯罪者ともなると、何かしらの情報があるんだが・・・例えば、アメリカの最低最悪の詐欺師“シーク=ハイディアス”、オランダ国王殺害未遂事件の最重要被疑者“ジャクソン=オーロー”、今世紀最後の大怪盗“ルームズ=アルシャロック”・・・確か、日本にもいたね。まぁ、何にしても、その誰しもが少なからず名前を聞いたことがあるようなヤツらばかりだし、彼らの“魔法”にはほとんど【魔法名】がつけられていてね、」


【魔法名】。


“魔法”がこの世界に生まれてから幾星霜、紡がれてきた人類の歴史上において、その人物たる所以を象徴する“魔法”に、いつしか“特別”を持たざるものたちが、冠した呼称。往々にして、【レベル・2】に相当する“魔法”に対して、それらは名付けられるのだが、


(・・・そう言えば、パレットも“魔法”使う時に口にしてたよな・・・って事は、やっぱり“それ”が追われてる理由、なのか・・・?)


陣内の言葉を享受しながら、當真は思考を巡らせる。


その“魔法”の真偽を當真は実際に目にすることは出来なかったのだが、パレットの言葉が真実であり、本当に彼女の“魔法”が【魔法名】を冠する代物だとしたら、確かに“それ”は十分な理由にもなりえる。


當真の思考が整理されていく中で、陣内は言葉を続けた。


「ただ。そんな【S級】の魔法犯罪者の中にも、【魔法名】すら未だ判明していないヤツらも何人かいてね、その一人がその男、“アイド=ゼクスブリック”。その情報の少なさから、“白銀の亡霊(スノー・ファントム)”とも呼ばれている男だ」


(白銀の、亡霊・・・)


「現時点で分かっているのは、コイツがドイツ出身であろうという事だけ。そして、“噂”では、超高額の報酬と引き換えに交わされた“契約”を、これまでただの一度たりとも失敗したことがないという、考えるだけでも悍ましく残酷な“噂”しかない」


情報が、いや、陣内の言葉が、ただただ當真の脳内を通り過ぎていく。


少年にとって、昨日今日と、ここまでの時間全てがあまりにも濃密すぎて。ただ、それでも、体中を駆け巡る痛みが、彼に現実を理解させていた。


陣内は、手にしたスマートフォンからどこかへと電話をかけ、口早にこれまでの状況を説明していた。そうしたやり取りが何件か続き、そしてようやく自身のスーツのポケットへとスマートフォンをしまうと、その視線を當真に戻し口を開く。


「夜君。とにかく俺はこれから“アイド=ゼクスブリック”の捜索に動く。もちろん、パレットちゃんの事もね。だから後の事は警察に任せて、夜君はこのまま病院にー」


「ー俺も!!行くよ!!パレットを一緒に探す!!」


言葉が、意図せず溢れ出していた。無駄に叫ぶような形で、ただただ自身の思いを告げる當真。


だが、一間も置かず、陣内がこれまでにない程の強い口調で、當真の“駄々”を諫める。


「無茶を言うんじゃない!!夜君、ここからは警察の仕事だ!!遊びじゃないんだ!!相手は【S級】で、その中でも“特別”で!!国家レベルの問題にも繋がりかねないんだぞ?!酷な事を言うようだが、この国の高校生の君に出来る事なんて、何一つないんだよ!!」


両肩を押さえつけられ、陣内に突き付けられる現実が、當真の体と心に重く圧し掛かる。


強く、拳を握る當真。だが、瞬間、痛感する。


痛みと共に、その握りしめた拳がまるで届きもしなかった現実を。


何も、言葉が出てこなかった。握った拳さえ、ゆっくりと解けていく。


そうした様子を眼前にした陣内は、ゆっくりと當真の両肩から手を放す。一呼吸だけ間を空け、口を開く。


「・・・言葉が、少し過ぎたな。すまない。君はもう十分闘ったんだよ、夜君。後の事は警察を・・・いや、俺の事を信じて待っていてくれ。必ず“アイド=ゼクスブリック”を見つけ出してみせる!!」


當真をその場に残し、駆け出していく陣内。その背を見送ると、ファミレスのBGMがふいに鮮明に聞こえてきた。



一歩を。踏み出す。


その度に、体中の骨が全て軋むような、気味の悪い感覚が全身を駆け巡る。



「・・・違う、」



呟く。この感覚は、全身の痛み“なんか”が、原因ではない。



『必ず“アイド=ゼクスブリック”を見つけ出してみせる』、陣内のその言葉を、信じないわけではない、でも



「そうじゃ、ないだろ、」



當真の脳裏に浮かぶのは、少女の哀しい笑顔。ただ、それだけ。



だが、それこそが『最大の理由』。



目の前にいたのに、手が届く場所にいたのに、救えなかった、何も出来なかった、あんなに哀しい笑顔をさせてしまった。



だからこそ、このまま黙って現実を見過ごす事なんて出来るはずがない。



「“アイド=ゼクスブリック”を見つけるんじゃない、『パレットを助ける』んだ!!!」



當真の眼光が蘇る。自身の感情と向き合い、もう、揺るがないその意志。



迷わず一歩を、駆け出す。



當真は自身のスマホを取り出すと、慣れた手つきで操作し、耳元に添える、意志を抱いて踏み出したその歩みを止めることなく。


(正直、“コイツ”を頼るのは嫌なんだけど・・・でも、そんな事言ってる場合じゃねえしなー)



「ーもしもし?」



『はっはー!お困り事ですかい?“ナイトちゃん”?』



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