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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
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#11 来訪者⑥

「ないとーっっっ!!!!!」


叫び声が、聞こえる。


グワングワンと言霊が頭の中で反響して、正直心地はよくない。


小さな体に支えられている体。そこでようやく、自分自身が一瞬気を失っていたことを當真は理解した。


視線の先には、涙ぐむパレットの顔。


「・・・あぁ。えっ、と。これ、終わっ・・・?!」



そして、當真は気がつく。視界に入った一人の男が、ぬくりと立ち上がるのを。



「クソ、クッソ、クソガキがぁぁ、調子に乗りやがってぇ・・・殺す殺す殺す、コロスッッ!!!!!!」


立ち上がるジャック=シュクルテル。鼻から流れ出る血を拭き落しながら、息を荒げ、そしてゆっくりと二人の元へと歩み寄ってくる。


(クソっ・・・俺、なんかじゃ、足止めすら出来ねえ、のか・・・)


力を、振り絞る。もう出来る事なんて何もないのかもしれない。


それでも、本能の赴くまま、當真は体を起こし、パレットを自身の後ろに匿おうとした。


が。その當真を庇うかのように、小さな少女が少年の前に立ちあがった。


そして、両手を目一杯に広げ、今度は少女が當真を守る小さな壁となった。


「・・・はあ?どけよ、俺はそこのクソガキをまず殺してえんだよ!!」


「させない。もう、ないとを傷つけさせないんだよ。」


震える声。でも、揺るがない少女の意志。


その瞬間、當真は目に映る少女の小さな背中が、とても大きく見えた。


「・・・わたしを連れていくのが、あなたたちの仕事なんだよね?それなら、わたし、あなたたちについていくから。」


「っ!?パレット、だめ、だ!!」


必死に右手を伸ばす當真。だがしかし、体に力が上手く伝わらない。


そんな當真を後ろ目に、パレットは少しだけ微笑む。


「ないと。もう大丈夫、だからね?わかんないけど、でも、きっとわたしは大丈夫だよ。」


「わか、んないって、お前ー」


「いっぱい痛い思いさせちゃって、ごめんね。」


それは、哀しい少女の笑顔。心がまるで笑えてない表情。


當真にとって、それがどんな痛みよりも心に重たく響いた。



だが、そうした二人の空気を、荒ぶる言葉が遮る。



「いやいやいや。勝手に俺様のルート決めてんじゃねえよ?関係ないからもう。クソガキは殺すからよぉ?」


「!!?」


悍ましい殺気を放ち、自身の右拳をこれまでないほどの不可思議な空気で包み込みながら、二人に近づくジャック=シュクルテル。


その怒りの矛先は、もはや當真にしか向けられていなかった。


「わ、わたしはついて行くから、ないとにはもう手を出さないで!!」


「はあ?なんで俺様がお前の言う事聞かなきゃならねえんだよ?お前はただの“荷物”なんだから黙ってそこからどけよ・・・て言うか、いっそ、お前から黙らせてやろうか?」



その瞬間。



ジャック=シュクルテルの視線と、暴力の矛先がパレットに向けられる。


右腕を引き、そして一気にその拳がパレットに向かって振り下ろされー


「パレット!!!!」



その瞬間。



當真の声が響く。パレットも思わずその両の目を閉じ、しかし必死に両腕を広げたまま、少年を守るための盾となりー



「おい。ソイツに傷をつけるのは“契約外”だぞ?」



その瞬間。



その声が。まるで時間を止めるかの如く、空間に響き渡る。



決して、大きいわけではない。


ただ、突如として、この空間を切り裂いたその“違和感”は、パレットに向かっていくジャック=シュクルテルの右拳をパレットの眼前で止めるのに十分な理由となった。



声の主は、ジャック=シュクルテルの後方で腕を組み立ちすくむ、もう一人の男だった。



発せられた声の雰囲気と違い、見た目にはなんら変化が見えない男。そう、“見た目”には、だ。


だが。発せられたその声は、まるで“氷”のような冷たさを印象付ける声で。そして、その声は間違いなくこの空間を震わせていた。


だからこそ、ジャック=シュクルテルもその手を止めたのだ。


振り返り、眼光を後方の男に向けるジャック=シュクルテル。


「・・・はあ?契約、だぁ?てか、いきなり何だお前?なに偉そうに指図してんだ、お前?」


「事実を述べているだけだ」


熱を上げていくジャック=シュクルテルに対し、淡々と告げる後方の男。


「はあ?なんだよそれ?いきなり口を開いたかと思えば、何をワケわかんねえこと言ってんだ、コラ?契約?知ったこっちゃねぇよ!!とにかくそこのクソガキを俺は殺してぇんだよ!!それを邪魔しようとするヤツがどうなろうと俺様には関係ねえんだよ!!」


「“契約”の内容以前に、そもそもの目的すら忘れたのか?」


「ごちゃごちゃごちゃごちゃうるせえんだよ!!指図すんじゃねえ!!俺様がルールなんだよ!!お前は今まで通りそこで黙って見てればいいんだよ三下小僧がよおおお!!!」


そして。ジャック=シュクルテルはもう一度右腕を振り上げ、躊躇することなく一気に振り下ろす。


その矛先はまっすぐと少女へと



ゴッッッッッ!!!!!



「ないとっ!!!!!?」


ジャック=シュクルテルともうひとりの男の束の間の会話、その僅かな時間で回復した全ての力を使い、當真は自身の体を少女の前に“持って行った”。


そして、パレットに向けて振り下ろされていたジャック=シュクルテルの凶撃が、そのまま當真のこめかみへと打ち込まれる。


重撃に重なる衝撃に、今度こそ當真の意識は遠のく。全身から全ての力が抜け落ちていき、そのままその場に平伏す當真。


「ないと!ないとっ!!なんで!!?」


ジャック=シュクルテルに背を向け、倒れ込む當真を涙ぐみながら抱き寄せるパレット。を、見下ろすジャック=シュクルテル。


そして、注視する、気付く、平伏す少年にはまだ意識も呼吸もある事に。


「クソが!!急に飛び込んできやがってクソガキが!!中途半端に殺り損じたじゃねえかよお!!」


ジャック=シュクルテルの右拳に再び不可思議な空気の層が纏われていく、淀んだ空気、そこに在るのは明確な殺意。


「ないと!ないと!!ないとっっ!!!」


「あーーーーッ、うるせえなあ、おい。もういいよ、どけとか言わないからさあ、そこのクソガキと一緒に死んでくれよおおおお!!!」


「!!!?」


ジャック=シュクルテルの咆哮のような怒号に、パレットが振り返った時には、すでにジャック=シュクルテルは右腕を振り上げ、そして勢いそのままにその殺意の一撃をパレットめがけて振り下ろしていた。


命の終わりを覚悟する時間など微塵もない。ただただ、自身に降り注ぐ悍ましいその光景から逃げる為に、本能の赴くままに目を閉じるパレット。


強張る心、不安と緊張と、そして恐怖と言う名の感情全てが、一瞬にしてパレットの全身を駆け巡る。


意識の薄れゆく當真の右手を強く握りしめ、パレットは“死”を意識すー



「チッ・・・“契約外”だ、スマートじャねえ」



ミシリッ。



何かが、割れるような、軋む音。そして、一瞬の風。パレットが感じ取ったのは、空気、そして音。



少女は目を恐る恐る開ける、そこに在ったのは異様な光景。


「ク・・・カ・・・ガ・・・!!?」


パレットの目の前で、苦悶の表情を浮かべるジャック=シュクルテル。


白目になり、意識すらもはやない・・・そして、パレットは気がつく、


ジャック=シュクルテルの巨躯が“不可思議に浮いている”・・・!?


だが、すぐさまその理由は明白となる。同時に困惑も生み出したのだが。


「な、なんで!?あなたたち、味方じゃない、の?」


「あァ?味方じャねえよ、“契約”も守れねェような“三下野郎”は」


その声の主は、もう一人の男だった。


表情は一切変わらない、ただただ冷静に呟く男。そして、その男の右手がジャック=シュクルテルの首を掴み、“いとも容易く”ジャック=シュクルテルの巨躯を持ち上げていたのだった。


そして。数秒も経たぬうちに、ジャック=シュクルテルは泡を吹き、両腕をだらりと振り下ろし気を失うと同時に、男はまるでゴミを投げ捨てるようにジャック=シュクルテルを床へと投げ出す。


重力に抗うことなく無気力なままに、床に平伏すジャック=シュクルテル。


見える景色に困惑しかないパレットだが、“死”が直前にまで迫っていた状況から少なくとも免れた現状に、心の奥底でどこか安心してしまっていた。



それゆえにー



「あァ。でも間違ッても安心してくれるなよ?お前の味方でもねェから?」



ミシリッ。



その瞬間。パレットの視界から男の姿が、消えた・・・


いや、違う、“気配”。それを少女の感覚が理解した時、少女のすぐ側に男は立っていた。


「お前、まだ意識あるよな?」



ドッ、ガガンッッッッ!!!!



パレットがその声に反応し横を振り向いた瞬間、男の振り被られた蹴撃が、すぐ側でかろうじて意識を保っていた當真の腹部へと叩き込まれた。


そのあまりの早さ、勢いは、當真の体をいとも容易く吹き飛ばす。


「!!!!ぐ・・あ・・・」


「あァん?まだ意識あんのかよ?『ゼロ』のくせに、ほんとタフな奴だな」


當真がその衝撃に、かろうじて発した嗚咽にも似た声を聞き、男は倒れうずくまる當真への元へと歩みを進める。


パレットは、もはや言葉を発することなど出来なかった。


目の前の景色が、まるで理解できないでいた。


當真へと歩みを進める男の後ろ姿に対して込み上げる感情は、彼女がこれまで感じたことのないほどの“恐怖”。


それに感情を支配されたパレットは、ただもう男の姿を目で追う事しか出来なかった。


「・・・あァ、そうか。もうくだらねェ“演技”も、“コレ”もしてる意味ねェな」


男は、當真へと歩むその小さな道すがら、その右手を自身の顔へと持っていく。そして。



メリメリッッッ。



それは、つい先程も耳にした不協和音、そう、顔の皮が“剥がれていく”音。


それと同時に、男の黒髪も一緒に剝ぎ落され、そこにはこの国で生まれた人間からは生まれるはずないほどの純白の、いや銀髪が現れた。


銀髪の男が、當真のすぐ側で歩みを止める。そして、何の前触れもなく、右脚を上げる。そのまま振り下ろされると、それは間違いなく倒れ込む當真へとー


「や、やめて!!!!!」


その先の結末は、恐怖に支配されていたパレットの頭でも容易く理解できた。


震える体、心。それでも必死に声をあげ、制止を呼びかける。


一瞬。銀髪の男の足が止まる。パレットの声が届い



「ああん?何か言ッたか?」



銀髪の男の右脚は、そのまま振り下ろされた。冷酷無情の一撃。


そして。まるで“何事もなかった”かのように、パレットの声に反応し振り返る銀髪の男。


振り返った銀髪の男の印象は、最初のものとは全く違っていた。


投げ捨てられたトレンチコートから現れた体つきは、やけに細く華奢に見える、年齢も遥かに若く感じる。その肌は色白く、高い鼻筋、整った顔立ち、つりあがった目尻、見方によっては外国の少年にも少女にも見えてしまう銀髪の男、いや、“青年”だった。


しかし。その眼光にはまるで生気が感じられない。血のように赤い瞳が、ギロリとパレットに向けられる。


瞬間。パレットは自身が銀髪の男に抱いていた感情が様変わりするのを感じた、“恐怖”から“拒絶”へと。


「あ・・・いや・・・ないと・・・」


「命は取らねェよ、そういう“契約”だからな。ただ、記憶飛ばすくらいはしとかねェと後々スマートじャねえからな」


銀髪の男は淡々と言葉を並べ、視線を再び當真へと戻す。再び、右脚を振り上げー



「だめぇぇぇぇ!!!!」



パレットは気がつくと走り出していた、言葉を発すると同時に。そして、當真と銀髪の青年の間に体を投げ出すように割って入り、當真を抱きかかえる。


痙攣しつつもかろうじて意識の残っていた當真だが、声を出すことも、力を入れることももはや出来ない。されるがままにパレットの小さな体に身を委ねる。


一方で、銀髪の青年もパレットのその行動だけは予想外だったのか、右脚を軽く上げたまま、じっとパレットを見下ろし、ほんの“一瞬”、まるで“何か”を思いたったような表情を、僅かに見せる。


その“一瞬”に。僅かながらの疑念を抱きつつも、震えながら、目に涙を浮かべながら、強く銀髪の青年を見つめ返すパレット。


「・・・まァ、いい。お前を連れて行くのが“契約”だからな」


銀髪の青年は右脚を下ろすと、そのまま振り返りゆっくりと歩き出す。


「変装も解いたし、俺もお前もこの国じャ目立つ容姿だ、スマートに事は運びてェ・・・“契約”だ、【お前が俺におとなしくついてくるなら、俺はこれ以上その男に危害は加えない】、いいな?」


そこに。選択肢はなかった。


當真の手を今一度強く握り、離し、そして立ち上がり、歩みを進める銀髪の青年の後を、ゆっくりと追いかけるように歩き出すパレット。


薄れゆく意識の中で、當真が最後に記憶したのは、少女の哀しい笑顔だった。



遠ざかる二人の足音。それに同調するかのように、當真の意識はそこで完全に絶たれた。



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