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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
15/64

#9 来訪者④

気がつくと。


ファミレスからは賑わいが全くと言っていいほどなくなっていた。店内のBGMが淡々と歌い続ける。


向けられた視線、声。


吐き気にも似た緊張感が体の底から込み上げてくるのを、當真は感じていた。


それと同時に、彼の中にある防衛本能が、二人の男とパレットの間に壁を作る事を命令したかのように、當真は自身の腕をスッとパレットの前に差し出し、一歩を踏み出す。


「やっぱり知り合いだったんじゃないか。君、警察に嘘をつくのはいただけないな」


ガタイのいい年配の男が、わざとらしい笑顔を作りつつ距離を詰めてくる。


始めて見た時には、そこまでの大きな“異物感”は見いだせなかったが、當真の心と体が強烈な嫌悪感と拒否感を年配の男から感じ取っていた。


さらに、その後方で冷静に、いや、冷酷な無表情でこちらの動向を見つめる男に対しても、同様の感情が生まれていた。


視線を店内全体に向ける。入口付近、こちらの様子を伺いつつも、慌てて外へと走り出す店員と客らしき人影が視界に入り込む。


ここまで自身の状況が一変していることに気がつけなかった事に、當真は後悔の思いを馳せたが、今はそれどころではない。


パレットの前に差し出した腕とは逆の手を、ポケットの中にしまい込んだスマホに伸ばし、そのまま手に取り、目の前の男たちに気づかれないように自身の背後に回す。


「まあいい。とにかく、その後ろに匿った少女を引き渡してもらおうか」


年配の男が距離をさらにジワリと詰めてくる。當真は指先で操作するスマホに意識を割きながらも、視線と言葉で警戒を示す。


「それは、出来ない!そもそもあんた達、何の理由があってパレットの事を狙ってんだ?」


「理由?だから言っただろう?その少女は、ある事件の被疑者を探す上でー」


「嘘はいい!あんた達が“ニセモノ”だっていうのは、もう分かってんだよ!」


當真の声が店内に木霊するように響き渡る。


年配の男の歩みがそこで止まる。ただし、その距離はもう2メートル弱程しかなく、簡単に逃げ切れるような距離では、もはやない。


「・・・まあ、そうだろう。だから、その後ろに隠した左手で“ホンモノ”の警察にでも連絡したのか?」


「!?」


男の一言に、鼓動が脳内でボリュームを上げていく當真。スマホを握る力も、自然と強くなっていく。


「まあ、別にそれは対して問題ではないんだがな。“ホンモノ”は今頃、それどころではないだろうからなあ。くくく」


年配の男の言葉の真意が読み取れない。ただ、その口元から漏れる笑い声と、作られた笑顔が、より鮮明に“リアルさ”を帯びていく。


「・・・どういう意味だよ?」


「この国は実に平和だな、という意味だよ。だからこそニュースで流れた不法入国者などといった情報に踊らされ、そしてたったひとつの電話を“真に受ける”。それがこの国の“ホンモノ”の警察という組織の在り方なんだろうな。こんな“魔法”が蔓延る世界において、“魔法”を使ってその真偽を確認する素振りさえ見られねえし、国としての“魔法“レベルもたかがしれてるしな、」


羅列される言葉に、これまで日常では体験したことないような、嫌な空気が當真を徐々に蝕んでいく。


「どうせ今頃、誰もいもしない廃ビルに総動員で向かっていて、こんな街のちっぽけなファミレスの事など二の次であろうよ?」


一切の隙も、逃げ場も絶たれていくような感覚。


いや、実際に事実として、今この瞬間に追い詰められている状況なのだ。


パレットが、背後から當真にだけ届くように小さな声で呟く。


「ないと、もう大丈夫だから?ね?わたしが行けば・・・」


「そんな事!出来るかッ!!」


たとえ、何が出来る状況でなくとも、“その選択肢”だけは當真の中には一ミリもなかった。


(考えろ俺!なんとか!なんとか時間を稼ぐ!奴らが俺が連絡したのが警察だと思っている間が勝負だ!)


実際に。當真が連絡を繋いだのは警察“自体”ではない、“個人”である。


父親の友人であり警察でもある、パレットの保護を任せようと考えていた人物、陣内正蔵である。


幼少期からの付き合いであり、信頼に足る陣内への直接的な連絡は、あくまでも緊急の時にしか繋ぐことのない手段であり、だからこそ今のこの状況においては唯一の突破口であると考えていた。今の當真に出来うる最善は、それしかなかった。


「まあ、しかし、理由ね。理由など、実に簡単な事だよ。それが我々の“仕事”だからだよ。そこいる少女の確保、引き渡しが我々の仕事。その仕事に対して、依頼人が金と言う名の報酬を支払う。単純なことだよ、」


一瞬の間。空気がヒリつくのを、肌で感じる當真。そして。


「いいか、クソガキ?社会っていうのはそういう風に出来てんだよ?だからさあ、正義感振りかざしてヒーローぶるのはやめろ、虫唾が走る。穏便に済ませてやるから、さっさとそこをどけよ?」


男の口調が急に変わる、いや、きっとこちらが本性なのであろう。


殺気立つその声は、先程からも一転してトーンがグッと下がり、不協和音のように下腹部に響いてくる。


だが、しかし。退くわけにはいかない。


當真は体をグッと前に出し、男を睨みつける。スマホをポケットにしまうと、拳を強く握りしめる。


(時間を、とにかく少しでも時間を稼ぐ。おそらく・・・銃とかは持っていない、はず。この状況において、こんな見たまんまの高校生のガキに脅しでさえも使わないのは、俺みたいなのがパレットの前にいること自体が、そもそも奴らにとって計算外だからだ。それならまだ、百パーセントの負け戦ってわけじゃねえ)


「へえ。意外と肝が据わってんだな、クソガキ?ただこんな平和ボケした国で、少しばかり喧嘩慣れしてるだとか、自分の“魔法”に自信があるとかだったら、そんなちっぽけなものはそのまま胸にしまっておくがいい・・・と言いたいところだが、そのしょうもないお前の無謀さに免じて、少しだけ本当の絶望と“世界”を見せてやろうか?」


年配の男が、ふいに身を包むトレンチコートを投げ捨てる。


その骨格は、當真が抱いていたよりもはるかに厳つく、いや、むしろバランスがおかしいほどだった。まるで、顔だけが、体格に不釣り合いなほどに老けている印象に変わるかのような・・・


「この仕事の依頼人、言っておくがお前みたいなクソガキじゃ想像も出来ないほど大きな闇の世界の住人だ。まあ、“おそらく”だが。そして、そういう奴らが大金を払ってまで人攫いを要求してるんだ、つまり我々も“そちら側”の世界の住人であるということを教えてやろう」


言葉の終わりと同時に、年配の男が右手を自身の左頬に持っていく。


と、次の瞬間。



メリメリッッッ。



鳴り響く不協和音。いや、それ以上に、刻一刻と様変わりする目の前の光景に、當真の感情が恐怖に侵食されていく。


まるで映画のワンシーンのような、いやアニメや漫画と言った空想や創造の世界でしか見たことのない光景が、目の前に広がっていった。



年配の男の、その顔が、皮膚が、“剥がれた”。



「これが世界のリアルだよ、クソガキ」



剝ぎ取った皮膚を床に投げ捨てた中年の男、いや、薄黒い皮膚、そして黒目の比率の高いツリ目、左頬から下顎にかけて大きな傷跡の残る軍曹顔の男が、そこにいた。


この国の人間の顔つきではない、戦争映画に出てくるような外国人。年齢の印象が一気に若返ると同時に、先程まで感じていた以上の緊張感と嫌悪感を當真は感じていた。


(・・・なんなんだ、これ。ほんとに現実かどうか分かんなくなってきたな、てかなんだよ、この外国人まで日本語ペラペラってどういう事?やべえ、もう、なに考えてるか分からなくなって・・・)


目の前の光景に、思考回路が迷子になっていく當真。だが。


瞬間。少年は、自身の背後の空気を感じ取った。そして。


湧き出る感情が、少年の思考を冷静に引き戻していく。眼前の敵に、力の限りの視線で威嚇を示す。


たとえ、この状況がどんなに非現実であったとしても、そこから逃げ出すわけにはいかない。


「ほお?分かりやすく敵意むき出しの視線だな?だが、まあ、落ち着け?まずは自己紹介でもー」


と。余裕の空気を醸し出す軍曹男の言葉を遮る、當真は自分でも気がつかないうちに、一歩を踏み出していた。


いや、もはや特攻に近い形相で軍曹男に立ち向かっていた。先手必勝、相手の体裁など考える余裕など、今の當真にはない。


「うおおおおおおおおおッッッ!!」


声を発したのは、本能だ。


喧嘩慣れしているとは到底言えない當真にとって、それは威嚇はもちろん、自分自身を奮い立たせる為。當真に出来る唯一の武装。


右拳に力を込める、眼前の軍曹男の顔面に向けて真っすぐ放つ・・・直前。


「おいおいおい。話は最後まで聞けよ、クソガキが」


軍曹男の表情から作り笑いが消える、そして當真の全力の右ストレートを、まるで何事もなかったように容易に躱す、と、同時に軍曹男の右腕が、向かってくる當真の体めがけて放たれる。


「ゴフッッッッッッッ!!?」


當真の体内にだけ鳴り響く鈍い音。


それと同時に、一気に体内の空気が腹から口へと押し返されるような圧迫感、などとそんなものを理解し認識する間もなく、自身の体が宙に浮き、一瞬にしてパレットの側まで吹き飛ばされる當真。


目の前の景色が一瞬にしてファミレスの天井へと様変わりする。そして。一気に、遅れた激痛が當真の全身を駆け巡る。


「ぐあぁぁぁぁぁっ」


「ないと!!!!!」


「おーおー、五月蠅い声出すなよクソガキが。ちょっとはたいただけだろうが。ほんと威勢だけは立派なもんだな、平和ボケした国のヤツは」


冷めた口調で見下ろす軍曹男、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


寄り添うパレットの手を静かに払い、なんとか体を起こす當真。パレットと軍曹男との間に、少しでも壁を作るために立ち上がる。


膝がすでに笑う。たった一撃、だがしかし、まるで巨大なハンマーで思いっきり殴られたような感覚。


恐怖が芽生えていないなどと言えば、全くの嘘になる。だが、ここまでくると、その感覚すらももはや麻痺してくるようだ。


そして。それ以上に、目の前の男を背後の少女に近づけてはいけないと、少年の本能が叫ぶのだ。


「はっ、ははは、心配すんなよパレット、い、痛がったフリだよ?なかなかリアルな演技だった、だろ?見た目によらず全然ヘナチョコパンチだったからさ、つい演技するのに力が入っちまったぜ、なあ、おっさん?」


出来る限りの嫌味だ。笑い続ける膝に手をあて、口の中が鉄の味で染まっていく中でも、當真は決して軍曹男への警戒だけは怠らない。


「減らず口だな。まだ俺は“魔法”すら使ってないんだが?あとな、おっさんではない。ジャック=シュクルテル様だ」


「・・・いやいや、あんたの名前なんかどうでもいいんだけど?」


口の中に溜まった血を吐き捨て呟く當真。ファミレスの店内でそういった行為をする事は、世間体的には常識外の行為だが、そもそもこの現状がこの国の一般男子高校にとって常識外なのだ、気にしている余裕など、ない。


「くくく。俺様の流儀を教えてやろう。こういう状況においてな、相手に名前を名乗るのは意外と大事なことなんだよ。なんせ相手に自分の命を摘んだ人間の名前くらい教えてやらないと失礼だろう?なあ?くくく」


(・・・気色悪い、コイツ。平然と何言ってんだ・・・だめだ、絶対にこんなヤツをパレットに近づかせちゃいけない)


再び右拳に力を込める當真。出来る事なんて多く在るわけではない。


だからこそ、迷う必要もない。取るべき行動は、ひとつだ。


「ああ、そうそう。ただしお前は名乗らなくていいぜ?クソガキ?殺すヤツの名前をいちいち覚えててもキリがないからな」


「ごちゃごちゃと!うるっせんだよ!!」


駆け出す當真。体中に走る痛みなど、気に留める余裕などない。


距離を詰め、右拳を突き出す。だが、ジャック=シュクルテルは鼻で笑いつつ、先程と同じように身を躱す。


「だーかーら。ほんとに威勢だけー!?」


と、言葉を摘まらせるジャック=シュクルテル。


拳の振りが、つい先程のそれよりも、“明らかに短い”!?


「うおおおおらあああッッ!!」


躱される、“前提”だった。


當真は初めから、そうなることを踏まえた上で、右腕を伸ばし切る前に、全神経を自身の左拳と視線に集中させていた。要は、ジャック=シュクルテルが“どちらに躱すか”、だ。


當真から見て左側に体を躱すジャック=シュクルテル。それと同時に、當真は腰を回転させ思いっきり勢いをつけたまま左拳を突き出す。狙うのは、ジャック=シュクルテルの顔面。


同時に、ジャック=シュクルテルも自身の両腕を交叉させ防御姿勢をとる。だがしかし、當真の左拳も確実に届く。


「ぐっ!?クソガキがぁぁ!?」


触れた左拳を伝ってくるのは、嫌な軋み音と衝撃。だが、休むわけにはいかない、隙を与える暇もない、ただ、ただ、必死に攻め続ける。


「おおおおおおおおおおお!!!!!」


當真は怒号と共に、自身の両拳に力を込め、攻め立てる。全てとは言わない、ただ一撃だけでも致命的なダメージが与えられればー


「甘い甘い甘い甘い!!甘ちゃんなんだよおおおクソガキがあああ!!!」


當真の繰り出す両拳での連撃を、今度は一縷の油断も見せることなく躱し続けるジャック=シュクルテル。その図体からは到底信じられないような、機敏な動きを見せつける。


「くっそおおおおおお!!!!」


當真は右脚を大きく振り上げ、一番当たる面積が大きいジャック=シュクルテルの胴体真ん中にめがけて、蹴撃を放つ。


しかし


「そろそろこちらも仕掛けるぞ?クソガキ?」


ジャック=シュクルテルは言葉と同時に、當真の右脚を左手でいとも容易く受け止めるだけでなく、掴む。


「!!?」


そして。當真はその瞬間、ジャック=シュクルテルの右拳周辺が、“不可思議”に歪む、いや、何か、“空気を纏う”のを目にした。


當真がそれを理解する間もなく、掴んだ右脚ごと當真を引き寄せ、態勢を崩した當真の胸元に一直線にジャック=シュクルテルの右拳が炸裂する。


完全なるクリーンヒット、カウンターと呼べる一撃・・・“だけではない”。


先程受けた一撃の重さが“比にもならない程の爆発的な衝撃”が、瞬間で當真の全身を駆け巡り、まるで投げ捨てられるゴミ袋のように、いとも簡単に吹き飛ばされる當真。


脳が、揺れる。視界が、ぼやける。全身を駆け巡る“不可思議”な重すぎる衝撃と、痛み。


駆け寄って来たパレットの叫ぶ声が、上手く脳にまで届いてこない。


だが、視線を声のする方に向けると、涙ぐみながら口を大きく開け叫ぶ様子の少女の顔がー。



それだけで。當真の心は、決まる。



(そんな顔されて、退けるか・・・動けよ、俺!!立てよ、俺!!)



自分が、何でも解決してやれるような、風を自在に操って窮地を一瞬で変えてしまうような誰かみたいな、ヒーローみたいな人間だとは、恐れ多くたって言えない。


それでも、少年は本能のままに体を叩き起こす。


たとえ勝てる可能性が限りなく『ゼロ』だとしても、何度だって立ち向かう。


守らなければいけないのは、自分が“守りたい”と願うのは、少女、そして自分自身の中に駆け巡るこの気持ち。



迷う必要など、何もない。



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