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そんな魔法ならいらない  作者: door
Chapter 1:The Golden Fateful Encounter
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#8 来訪者③

「さてさてパレットさん。俺はね、君に聞きたいことや言いたいことが山ほどあるんですよ?」


「ねえねえ。ないと。このボタンを押すと、あのお姉さんがわたしにもたくさんご馳走を持ってきてくれるんだよね?じゃあ、押してもいい?」


商店街から少しだけ離れた、この街の中心街の一角の、とあるファミレスにて。


當真とパレットはようやく一息をつき、向かい合って座っていたのだが。


「いやいや。接続詞が“じゃあ”っておかしいだろ?パレットさん?と言うか、さっき俺の家でホットケーキ食べたばっかりじゃねえか!?」


「ないと。ごはんとスイーツは別次元なんだよ?ほい、ぽちっと。あ、ねえねえ!お姉さん!」


「別次元って何!?そんで、ボタン押した瞬間に店員さん呼び止めてるんじゃねえよ!?どんだけ忙しないの?!腹ペコガールなの!?」


當真の怒涛のツッコミも気にすることもなく、パレットはメニュー表を片手に意気揚々とオーダーを告げていく。


「ん?ないとも何か頼む?」


「一般男子高校生の財布にそんな余裕はございません!!店員さん、ドリンクバー二つだけで大丈夫です、それ以外は全部キャンセルでお願いします!!」


「はうっっっ!!?ないと、こんなにか弱い可憐な美少女を、あんなに狭い路地裏やら人込みの中を無理矢理連れまわして、走り回らせて、疲弊させといて!?ドリンクバーだけ!!?」


「おいいい!!語弊だらけッ!!?人聞きの悪い事をこんな公の場で叫ぶんじゃありません!!店員さん、フライドポテトつけてください!!それで勘弁してください!!」


叫び駄々をこねる外国の少女を必死になだめる少年を苦笑いで見つめながら、店員のお姉さんはその場をそそくさと去っていった。そこでようやくパレットも諦めたのか、小動物のように頬を膨らませながら不服そうに背もたれに体を委ねる。


そして、ようやく、當真も一息をつくことが出来た。



「なあパレット、お前さ、何か隠してるだろ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


當真の一言に、食べかけのフライドポテトを落とすという、あからさまな動揺を見せるパレット。


そんな分かりやすすぎるパレットの反応に、當真は一呼吸を置き、話を続ける。


「わざわざ警察のフリをしてまでお前を探してるなんて、しかもこの日本で外国の少女を、だぜ?それ相応の理由がないと、そんな事普通しないだろ?」


「け、け、警察の、ふりって、な、なんで、ないと、そんなこと分かるの?ほら、やっぱりさ、見知らぬ可愛い美少女が迷子だったから、助けてあげなきゃ―って、ね?思ったんじゃないかなーって。」


「この状況でも自分の事、可愛い美少女って言っちゃうのねお前?・・・親父の仕事柄さ、そういうのは分かるんだよ、俺。だからあれは間違いなくニセモノだよ」


當真の落ち着きのある、確信に満ちた対応に、言葉をつまらせ俯くパレット。


急に、こうもしおらしい態度を見せられると、どうもむず痒くなる感じがして、當真は言葉を切り出す。


「まあ、俺みたいなどこにでもいそうな高校生だし、まして“魔法”も使えないしさ、俺も全てを解決してやれるなんてことは言えないかもだけどさ、」


當真は、まっすぐとパレットを見つめる。それは、彼の揺るがない信念。



「でも、どんな理由があっても、目の前で困ってるやつを見て、見ないふりなんかしねえよ」



「ないと・・・」


「記憶喪失、って言ってたよな?本当に何も心当たりないのか?」


當真の真剣な言葉に、顔を上げ、心配そうな表情で見つめ返すも、一呼吸、パレットは意を決して言葉を紡ぐ。



「記憶喪失っていうの、あれね、ほんとはちょっとだけ嘘なの。」


「嘘?しかも、ちょっとって、どういう事だ?」


「“誰か”に追われてるっていう、“状況”の記憶はあるんだけどね。その“理由”が全く思い出せないんだよ。」


一瞬。ファミレスの店内の音が、全て遮断されたかのような空気感を感じる當真。


パレットの言葉の意味を、一呼吸おいても上手く理解できていなかった。


「生まれた場所も、誕生日も、言葉や知識はもちろん、わたしの中のそういう記憶はちゃんと残っているんだよ?でもね、いつ、なんで、日本のこの街の近くで気を失っていたかが分からないの。気がついて、真っ先に頭に思い浮かんだのが“逃げなきゃ”って感覚だけで・・・」


「パレット・・・」


これまで見たこともないほどに、神妙な面持ちで語るパレット。自ずと緊張で當真の表情もー


「しかも。お腹すいて力も出ないし。」


「そんな状況でも真っ先に食欲がくるのな、お前?」


ー変わらない、間髪入れずに冷静にツッコミの役割を全うする當真。



「はあ・・・でも、ちょっとややこしい感じだな。てかさ、それならなおさら、なんで最初からその事話さないんだよ?」


「そんなの!決まってるじゃん!!自分でも追われている理由が分からないのに、初対面のないとをそんな面倒な状況に巻き込んじゃいけないって思ったんだよ!!」


少し涙ぐみ、憂いを帯びた声、自分の危機であっても相手を思いやる心遣い。


少しだけ、これまで見てきた少女とのギャップのある姿に、當真は今度こそ胸を締め付けられ・・・


「・・・いや、待て待て。見ず知らずの少女の為に、晩ご飯の弁当をあげたり、一晩泊めたり、朝食にホットケーキ作らされてる時点で、十分すぎるほどに俺はもう巻き込まれてるんだが?」


「てへ♪」


「てへ♪じゃねえよ!?あやうくちょっと心打たれかけたわ!!」


悪戯そうに微笑むパレットに、相も変わらず間髪入れずにツッコミをいれる當真。


「そもそも冷静に考えて、そういう状況の中で、奏姉ちゃんとのやり取りもだし、人目につくような場所に堂々といれたのな、お前?」


「あ、あれはだって!あんな素敵な音楽や、“魔法”を識っちゃったらさ、ワクワクして声かけたくなるじゃん?人の原始的欲求みたいなものだよ!」


「お前、頭いいのかわるいのか、気が回るのかそうじゃないのか、よく分かんない性格なんだな」


「素直なんだよ、わたしは。」


(モノは言いようだな、ほんと)


腰に両手をあてて、エッヘンと言わんばかりのパレットの姿に、年相応の“らしさ”を初めて感じた當真は、諦めるかのように大きくため息をひとつ。


「まあ、おかげですぐにお前の事見つけられたわけだし、そこのお咎めはなしとしとくか。でも・・・」


(外国生まれ、記憶喪失で、誰かに追われていて、食欲旺盛・・・属性盛りすぎてて、いよいよアニメのキャラクターみたいだな、コイツ。ほんとに現実か?)


パレットの手元の皿に残るフライドポテトに手を伸ばしつつ、當真が少女の顔を見ながらそんなことを考えていると、ほぼ同時にー


「ん?なにひとの顔じろじろ見てるんだよ?ないと?」


當真の視線、そして思考を読み取ろうとするかのように、体を乗り出し顔をグッと近づけてくるパレット。


少し勢いをつけすぎたのもあったが、當真の手を伸ばしたタイミングと、あまりにも同時だったが故に、まるで熱を測るために互いのおでこをくっつけるかのような、はたまたまるで恋人同士が口づけをかわすかのような、そんな様子にも似たシルエットが、そこに生まれた。


もちろん。生まれ育った国の文化の違いなのか、パレットからは異性であろうが(そもそも當真の事をそういう対象ですら見ていないのかもしれないが)、その状況に全くの恥じらいなど見えない。


が、しかしだ。この国で生まれ育ち、これまで一度も他の国には行ったことのない當真少年は、まごうことなき一般的などこにでもいるような日本の男子高校生なのである。


つまり、だ。相手が誰であろうと、ふいに女の子に距離を縮められることに対しての抗体など、當真には備わっていないのだ。


逸る心臓の鼓動、ゼロ距離にも近いこの距離で改めて見ると、パレットの容姿は外国の人形のように綺麗に整ったもので、体の芯から恥ずかしさが溢れ出してくるのを、リアルタイムで當真は実感した。


「ねえ?なにを考えていたんだよ?ないと?」


「な、なんもねーよ!てか、お前、く、口元にケチャップついてっから!!」


「むむ?ほんと??」


もちろん。それは、咄嗟に口から零れ出した嘘ではある。が、パレットはそのまま乗り出した体をひくと、テーブルの上に常備されていた紙ナプキンを掴み、ゴシゴシと口元を拭き出した。


當真もグラスに手を伸ばし、注がれたコーラを一気に飲み干し、自身の熱を落ち着かせる。


「・・・とりあえず、事情はなんとなく分かったし、じゃあ、まあ、そろそろ行くか?」


「え?行くって??」


立ち上がる當真にの姿につられ、慌てて残りのフライドポテトを口に頬張りながら、パレットが疑問を口にする。


「とりあえず人目につくような場所なら、あいつらも大事には出来ないだろうけどさ、一か所に留まってるのも良くないしな。とりあえず、親父の知り合いの刑事さんに連絡して・・・」


「ちがう!そうじゃなくって!!」


支払いを済ませるために席を離れようとする當真の腕を掴み、引き留めるパレット。


「やっぱりだめなんだよ!さっきまでふざけたりもしたけどさ、やっぱり巻き込みたくないっていうのはほんと、だよ?理由すら分からない、不確かで、もしかしたら危ないかもしれない状況に、わたし、ないとを巻き込みたくないよ?」


「え?・・・あー、いやパレットさん、そんな真剣に心配しなくても、というかほら?さっきも言ったけどさ、ホットケーキ作ったりポテトやドリンクまでおごったりですでに巻き込まれてますからね俺?だからもう今さらそんなこと気にしなくても・・・」


それは。明るく、冗談交じりで、當真は応えたつもりだった。


そもそも、いまさら突き放したり見放したりするつもりなど、當真には微塵もなかった。だからこそ、笑顔でそう応えたのだ。


しかし、パレットの手を振り払おうと、振り向くと。今度こそ真剣な顔つきで、心配そうに當真を見つめるパレットの姿が、そこにはあった。


「だからなの!初めて会ったばかりのわたしにも優しくしてくれたあなただから、ないとだからこそ、巻き込みたくないんだよ!気持ちだけでさ、すごく嬉しいから、ね?」


そんな哀しい笑顔を見せられて、なおさら退けない。


だから、ゆっくりと少女の手を取り、當真も真摯にまっすぐと伝える。


「だから俺も言っただろ?目の前で困っているやつを見過ごしたりしないし、そもそも出来ない性格なんだよ?だからこれは、俺が好きにやっていることなんだからさ、気にすんなよ、な?」



「・・・やっぱり、わたしが可愛い美少女だから、ないとは見返りをー」


「求めてねえから!?ポジティブのタイミング間違えてるからな、お前!?」


と。思わず目を合わせ、お互いに笑い合う二人。緊張に包まれていた空気が、少しずつ解けていく。



「じゃあ、そろそろ本題に入ってもいいかな、おふたりさん?」



當真とパレットに向けられた、その声。二人の視線の向かう先に、いつのまにか二人の男がいて。



空気が、ふいに、張りつめた。



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