食堂の口げんかと迷宮へのこころがまえ
それから、ちょうどお昼の時間になったので、わたしはハンゲツと一緒に食堂へ行くことにした。
既に食堂にはアカツキとミカヅキがいた。
わたしが達が席についても、どちらも口を開かない。
アカツキは普段と変わらない顔だけど、ミカヅキはちょっと機嫌悪そうだ。
いつもだったら触らないけど、今回はそういうわけにもいかないだろう。
「もしかして、なにかありました?」
「別に」
フッと視線を外しながらミカヅキが言う。
「ミカヅキがちょっと不機嫌だな」
「あんたが変なこと言うからでしょ!」
いきなり口げんかしてる。
見たところそれほど深刻そうじゃないけど。
「えっと、何があったんですか?」
「使い魔の鹿を連れていくのかって訊いたんだ」
またセンシティブな話題を。
でも事情を知らなかったんだからしょうがない。
「えっと、ロクサイも一緒に迷宮に行きますよ」
「行き先が森ならわかるけどな。大丈夫なのか?」
「そんなこと、あんたに言われるまでもない」
むすっとした声でミカヅキが言う。
本人もロクサイのことを不安に思ってたはずだけど、他人からはうだうだ言われたくないんだろう。
「まあ、問題なければいいけど」
アカツキはあっさりとそう言って、こちらの方を見た。
「もしかして、ハンゲツも来るのか?」
「あ、いいえ。わたしは行きませんよ」
あわててハンゲツが手をぷるぷると振る。
「そういえば、あらためて訊いておきたいんでけど、迷宮ってどんなところなんですかね。必要な装備とかあれば知っておきたいんですけど」
とりあえず話題を変えてみたら、アカツキが眉間に皺を寄せてちょっと考えるような顔をする。
「うーん、なんていうか。普通?」
全然答えになっていない。
「必要なものは準備して背負い袋に入れておくから、後で取りに来なさい」
ミカヅキは親切だったけど、こっちも答えてはくれなかった。
食事を終え、自分の部屋に帰ってきて手荷物を確認する。
背負い袋を借りるから、荷物はほとんどいらないだろう。
持って行くのは腰に下げた短剣くらいで、ちょっと考えてから皮の外套を着た。
地下は気温が低いかもしれないし、多少の防具代わりにもなる。
不要だったら入る前に置いていけばいい。
「クルッ」
イナリが肩の上に飛び乗ってきて、首の周りをくるりと回った。
いつものマフラー状態だ。
わたしは指先でイナリの顎下を撫でた。
「何かおかしな事があったら教えてね」
「クルッ」
任せてって言ってるみたいに鼻をヒクヒクさせている。
いつもそうだけど、イナリの感覚は鋭い。
動物的な勘なのかもしれないけど、異変があったらすぐに気付くみたいだ。
とはいえ今回は地下の迷宮で、たぶん魔法の力に支配されてる場所なんだと思う。
そこでもイナリの鼻がいつも通り効くのかはわからない。
とにかく注意深く行こう。
リンドウのためにも、迷宮についてなるべく沢山情報を集めないと。
わたしはあらためて心の中で気合いを入れた。




