VSゴースト!
「霊体同士なら触れられる……つまり、殴れってことだよね?」
《はい。もちろんどのような攻撃手段を取っていただいても構いません》
「…ちなみに、殴ったら反撃される?」
《高確率で反撃が予想されます。ですが、自我を失ったゴーストは存在強度が低く、攻撃を続ければ怯ませ続ける事で反撃のタイミングを奪うことができます》
「存在強度…?なに?もう少し分かりやすい単語で説明して」
《申し訳ありません。存在強度とは、簡単に説明するとステータスのことです。そのため、存在強度が低い=ステータスが低いと考えていただいて》
「なるほどね」
存在強度が低いってのは、ステータスが低いってことらしい。
まあ、確かによく考えればその通りだ。
肉体に存在しなくても、意識と記憶を保てるほどステータスを高めれば自我の分散を防げるのなら、その逆が自我の分散を保てない状態ということ。
すなわち、ステータスが低い事が自我の分散に繋がるってわけだね。
「反撃はされるかもだけど、そもそも弱いから気にしなくていい。じゃあ、ちょっと怖いけど殴ってみますか」
反撃が来るかもだけど、弱すぎて気にならないのなら別にいい。
それに、倒さないと私がこいつらの仲間入りしちゃうから、思いっきりやろう。
漂うゴーストの一体に近づき、拳を握り締める。
「ごめんね。もう誰かもわからないし、こんなこと言っても無駄かもだけど……あなたを殺して、私は生き延びる。悪く思わないで」
意識も記憶もない、動くマネキンと化したゴーストにそう語り掛ける。
断りをいれると言うよりは……私自身が、自分に言い訳するためだ。
日本で道徳心を育てた私にとって、誰かを攻撃することというのは気が引ける。
でも、私はたとえ自分が傷ついたとしても誰かのために居られるほど、できた人間ではない。
自分に言い訳をして…自分の未来のため、誰かを蹴落とす。
そう言う卑怯な人間だ。
「ごめんなさい!」
その瞬間まで言い訳をして、拳を振るう。
誰かを殴るなんて初めてのことだ。
無茶苦茶な振り方で飛ぶ私の右手。
それはゴーストの肩にぶつかり、確かな感覚を感じた。
『ホアアアアァァァァァ―――ッッ!!!??』
「っ!?」
私に殴られた瞬間、ゴーストは今までに聞いたことが無いような悲鳴を上げる。
これが断末魔ってやつなんだろうと、聞いたこと瞬間に理解できた。
ゴーストの体は私に殴られた部分からボロボロと崩れはじめ、やがてそれは全身に広がってついには消えてしまった。
そこには何も残らず…ただ静寂がある。
「…倒せたの?一撃で?」
あまりにもあっけなさ過ぎる。
でも…彼が最後にあげた悲鳴が耳に残っている。
耳の中で何度も響く悲鳴が、私を少しずつ現実から引きはがしていく。
世界が遠くなり、視界がぼやけ始めた。
《自我を持たないゴーストは非常に脆弱なため、一撃で倒せたものと思われます。また、スキル『魔力無限』で無限の魔力を持っていることが、攻撃を強化したと考えられます》
ミシャの声がそれをかき消し、私を現実へ引き戻す。
別に望んでいなかった返事が私を救ってくれた。
「そう、なんだね……今のでレベルは上がった?あと何回すれば―――」
『ホアアアアァァァァァ―――ッッ!!!』
『ホアアアアァァァァァ―――ッッ!!!』
『ホアアアアァァァァァ―――ッッ!!!』
「―――っ!?な、何!?」
ミシャにレベルが上がったかどうかを訊こうとしたら、そこかしこからゴーストの絶叫が響く。
けれど、さっき私が倒したゴーストの叫びとは少し違う。
何と言うか……怒っている。怒鳴ってるみたいだ。
……いや、“みたい”なんじゃない。
「そ、そんなに睨まなくても……」
周囲を見渡すと、見える範囲に居るすべてのゴーストがこちらを向いていた。
その顔には怒りが宿っており、私の事を敵だと認識している。
「ねえミシャ……ゴーストって一体攻撃したら、集団で襲ってくるの?」
《非敵対性のゴーストはこちらから攻撃しなければ害はありません。ですが、攻撃を仕掛けると敵と認定され、集団で反撃に出ることは珍しくありません》
とんでもなく重要な情報をサラッと事後報告するミシャ。
こっちから攻撃しないと無害だけど、攻撃したら集団で襲ってくるって?
そんなの……そんなの……!!
「先に言ってよぉぉぉーーーーーー!!!!!」
物凄い量のゴーストが一直線に私に向かって飛んでくる。
怖くなって逃げだすが、外には逃げられない。
逃げ場なんてどこにもない。
あっという間に壁際に追い詰められ、一気に何体ものゴーストが飛び掛かってくる。
「ひっ!?」
反射的に腕で顔をガードし、体を丸める。
魂に刻み込まれた肉体の防衛本能が残っているんだ。
一ミリも残っていない筋肉を緊張させ、小さく、硬くする。
そこにゴーストの攻撃が腕が振り下ろされ―――
『ホアアアアァァァァァ―――ッッ!!!??』
「…え?」
私の事を攻撃したゴーストが逆に消滅した。
呆気に取られているうちに別のゴーストが攻撃してくるが……
『ホアアアアァァァァァ―――ッッ!!!??』
そいつもまた、私に触れた瞬間消し飛んだ。
そんな光景が何度も繰り返され、訳が分からず目をパチクリさせる。
恐怖心なんてとっくに消え、ツッコんできては消えていくゴーストを眺める。
「……ミシャ、これはどうなってるの?」
何が起こっているのかをミシャに訊く。
すると、数秒してから答えが返ってきた。
《存在強度の差で一方的にダメージを与えられていると推測できます。これらのゴーストは非常に存在強度が低く、一方こちらはスキル『魔力無限』によってステータス以上の存在強度を持っています。わかりやすく例えるのなら、豆腐で鉄板を叩いているような状態と言えます》
「な、なるほどね……持っててよかった、『魔力無限』」
どうやら『魔力無限』のスキルのおかげで、私はゴースト相手に無双できるらしい。
魔法は使えないし、『自由自在』も使い方がわからなくて、今は恩恵を得られないスキルだと思っていた『魔力無限』。
まさかこんなところで役に立つとは……
……待てよ?
「つまり、ゴーストは私に1ダメージも与えられないけど、私はゴーストに即死の攻撃をいくらでもできるってことだよね?」
《はい。その通りです》
「今この状況だと、私はスター状態ってことだよね?」
《はい。その通りです》
「なるほどなるほど………じゃあ、倒し放題じゃん!」
私は今、どんな攻撃も受け付けず、どんな敵も一撃で倒す無敵状態だ。
こんなにうれしいことはない。
私が誰かを攻撃しないのは、やり返されるのが怖いから。
殴って殴り返されるのが怖いから、私は誰も殴らない。
でも今はどうだろう?
こっちがどれだけ殴っても、相手は反撃できないんだ。
なら、怖いものは何もない。
「数だけは本当に多いね。いったいこの森で何人死んだんだろう?」
立ち上がって壁際を離れる。
仲間を何人も殺されて怒り心頭のゴーストたちが鬼の形相で襲い掛かってくるが、全く怖くない。
むしろ……憐れみを感じるくらいだ。
「こんなことになるまでずっと、あの世にも行けずに苦しんだんだよね。私が、終わらせるよ」
人間、力を持つと変わると言うけれど……今それを実感している。
大ぶりな動きで拳を握り締め、思いっきり振り絞る。
「来世では、幸せにね!!」
思いっきり振るった拳は、何体ものゴーストを簡単に打ち砕き消滅させる。
もう何も怖くない。
ただ得た力で、全てを踏み抜いていく。
そんな気概で、未だ一向に止まる気配を見せないゴーストたちを打ち砕いていった。
面白いと思った方は★★★★★とブックマークで応援していただけると嬉しいです。




