VS洞窟の主! 上
逃げることを完全に諦め、戦う覚悟を決めて構えた炎魔法。
それを見るや否や、先に現れた身長2メートルの方の鎧が動いた。
片手で持っていた槍を両手で持ち、矛先をこちらに向けて、姿勢を低くする。
突進の構えだ。
「させない!!『ファイアーボール』!」
すぐに炎魔法の狙いをそちらへ向け、走り出す前に撃つ。
その直後に鎧が突進しようと一歩前に踏み込む。
次の瞬間、私の放った『ファイアーボール』が鎧を直撃し、炸裂して小さな爆炎を起こす。
「よし!」
出鼻を挫く一撃。
今まで攻撃を受けて怯まなかった敵はいないし、とりあえず攻撃は防げた。
そう、思ってたのに……
「んなっ!?嘘でしょ!!」
鎧はファイアーボールをものともせずに突っ込んできた。
高温の炎で焼かれたのに何事もなかったかのように突っ込んでくるなんて…!
「このっ!!『ファイアーボール』!『ファイアーボール』!!」
止まらないのなら、止まるまで撃ち続けるだけだ。
迫りくる鎧に対し、何度も何度もファイアーボールをぶつける。
だがしかし、鎧は止まらない。
「止まって!止まってよ!!」
他にできることもなく、ただがむしゃらにファイアーボールを撃つ。
それでも止まらない鎧。
もうとっくに鎧は真っ赤になり、普通なら肉が焼けて激痛で立つことだってできないはず。
それなのに止まらないのは……アンデッドだから。
(ダメだ…止められない!ギリギリで避けるしか…!)
攻撃で止めることは諦めた。
今の私はレベルが上がって、以前より身軽だし反応速度も速くなってるはず。
だから、きっと避けられる!
自分の能力を信じ、ギリギリで横に飛んで避けることにした。
そう決めた瞬間、世界がスローモーションのように見え始めた。
一歩、また一歩。
こちらへ迫る鎧と矛先。
あと五歩も進めば瘴気にまみれた槍が私を貫くだろう。
一歩。
もうすぐそこでファイアーボールが炸裂するようになった。
これ以上撃つと、私も巻き込まれそうだ。
二歩。
最後の一発を撃って、それ以上は打ち止め。
自分の魔法で死にました、なんてシャレにならないからね。
三歩。
あと少しで手を伸ばせば届く位置に槍が来た。
それを見て横へ飛ぶ構えをとる。
ここが正念場だ!
四歩。
これ以上は引き付けられない。
体を右へ倒し、浮遊のスキルを全力で使って回避行動をとる。
お願い!当たらないで!!
五歩。
矛先が私の左腕を睨む。
咄嗟に体を捻って避けた。
少し判断が遅れていたら腕を貫かれたかも……
六歩。
さっきまで私が居た場所で槍が泳ぐ。
あのままファイアーボールを撃っていたら槍に貫かれていたことだろう。
危なかった。
そして、鎧が足を止めた。
避けられたんだから、次の攻撃を仕掛けようとするのは当然だろう。
だから、私も安心していられない。
「槍ってこうすれば弱いよね!!」
それ以上逃げるのではなく、前に出る。
槍は長柄の武器だ。
アクションゲームで使う槍は、どこで振ってどこに当てても一定のダメージが出る。
でも、現実の槍は先端が一番威力が出て、根元で当ててもあんまり威力が出ない。
だから、懐に潜り込まれると弱い。
「そして、こう!!」
さらに、少し飛び上がって顔に向かって飛んでいく。
顔も全体を覆うヘルメットに覆われて直接中身を焼けないけど……人型である以上、上下の動きには対応し辛い。
それを見越してジャンプでもするように飛び、頭上を飛び越えて鎧の背後を取った。
でも、背後に立ったわけじゃない。
そのまま斜め上で浮いているんだ。
「おしりに火をつけてあげる!『ファイアーボール』!!」
お尻目掛けてファイアーボールを撃つ。
背後に立っちゃうと私もろとも爆発しちゃうけど、頭上からお尻を狙う分には大丈夫。
鎧のお尻を狙ったファイアーボールは、鎧が少し動いたことで狙いが外れてしまった。
そして地面に当たって爆発するが…それがかえって鎧の足元を掬い、盛大にずっこけた。
このチャンスは見逃せない!
「今だ!『ファイアーボール』!『ファイアーボール』!」
倒れた鎧に容赦なくファイアーボールを何度も打ち込む。
起き上がろうにも上からの爆発で何度も地面に叩きつけられ、起き上がれない鎧。
慈悲も情もありはしない。
私が生き残るため、何度だってファイアーボールを撃ち続けた。
そんな時だった。
「お願い!死んで!お願―――がはっ!?」
横から殴られたかのような衝撃に襲われ、体が吹っ飛んだ。
「ひぎっ!?いやああああああああああああああああああああああああ!!!??」
それから少し遅れて凄まじい激痛に襲われる。
どこが痛いとかじゃない。
とにかく全身に響く痛み。
あまりの痛みに、その場から動けなくなった。
《警告します。HPが三分の一を切りました》
――――――――――――――――
HP 8/90
――――――――――――――――
激痛で悶える中、ミシャの声が聞こえた。
さらに、頭の中に私の残りHPの表示が現れた。
その数字を見て全身から血の気が引く。
「そんな…なんでこんな……!?」
もう瀕死だ。
何があったんだと顔を上げると、地面に倒れた鎧の横に洞窟の主が立っている。
それで理解できた。
私は、あの洞窟の主にやられたんだ。
「うそでしょ……たった一撃で…?」
死んでいないだけよかったかもしれない。
でも……絶望的な状況ってことに変わりはない。
「ミシャ…私勝てるよね?」
もうどんな攻撃を食らっても死ぬ。
冷え込んだ無いはずの心臓。
精神的な支えを求めてミシャに勝てるか訊いた。
《はい。もちろんです。まだ切り札を切っていません。諦めるには早いですよ》
それに対し、ミシャは機械音声のような声で励ましの言葉をくれた。
『まだ切り札を切っていない』と……
切り札……そうだ!スキルポイント!!
「ミシャ。私に許可は取らなくて良いよ。今必要なスキルを取って!」
私はまだ切り札を失っていない。
そして、これ以上温存もできない。
だから、今スキルポイントを使って強くなることにした。
でも、吟味している時間は無い。
ミシャに必要なスキルを選んでもらって、私は目の前の洞窟の主に集中する。
そうやって今私にできること、今私ができることを考えると、不思議と恐怖感や絶望が消えて行った。
「いつの間にか痛みも引いてるし……霊体だからかな?」
どうやら霊体は肉体と違っていつまでも痛みが残る、なんてことにはならないらしい。
痛みで考えがぶれないから嬉しい。
それに、痛みがないだけでいくらか後ろ向きな気持ちが無くなった。
「私はまだやれる。絶対生き残ってやるんだから!」
改めて覚悟を決め、今度こそ洞窟の主に向けてファイアーボールを構えた。
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