第8話 カオスな二人
【第三部】推しは私が救うー終ー
私は、昔から思っていた。
自分は結構、変わった人であると。
あっ、皆さん今、結構失礼なことを思いましたね?
私だって、ちゃんと自覚あるんすよ!
だけど、私は改めて思った。
この二人もまた、だいぶ変わった人たちであると──
***
会議が始まる前。
目の前の光景を、私はじっと見つめていた。
「あぁ〜杏歌様〜♪私の杏歌様〜♪」
気持ちよさそうに歌っている雲祈さんに向かって、哀伝さんがむっとした口調で言う。
「ちょっと雲祈〜、僕の杏歌なんだから、そんなに引っ付かないでくれる〜?」
「ぬ?」
「雲祈って、本当に杏歌のこと尊敬の眼差しで見てるの〜?やましい気持ちはないって言ってたけどさ〜」
「はい!もちろんでございます!」
雲祈さんは胸を張る。
「私は初めて杏歌様に出会ったあの日、哀伝様にきっぱりと物申すあの姿勢に憧れたのです!まさに尊敬の念でございます!」
そう言うと、再び気持ちよさそうに杏歌さんへの愛を歌い出した。
「ねぇ〜杏歌〜、僕の隣に来てよ〜!」
「うるさいのよ、哀伝!」
杏歌さんは、間髪入れずに喝を入れる。
……アニメで見ていたより、この二人ってカオスなのでは……?
二人とも普段はふざけてるのに、仕事になると急に本質を突いてくるのが怖いんだよね〜。
雲祈さんは、団丸さんや七左衛門さんと同じく農民の家の出で、栄善さんが掲げた「身分制度の廃止」という方針のもと、人柄や才能を重視してこのお城に迎えられた一人。
団丸さんと七左衛門さんにとっては、昔からの弟分のような存在でもある。
幼い頃に杏歌さんと出会い、そのときに見た、幼馴染である哀伝さんに対しても臆することなく、はっきり物申す姿に、強い憧れを抱いたらしい。
そしてそれから時を経て、杏歌さんの部下として仕えるようになった。
「ねぇ〜杏歌〜、こっち来てよー!」
「うるさーい!」
今も変わらず、そんなやり取りが日常のように飛び交っている。
杏歌さんが哀伝さんに喝を入れるのも、もはやお決まりだ。
まったく、素直じゃないんだから──杏歌さんも。
哀伝さんと杏歌さんは、代々このお城に仕える家系の出で、物心ついた頃からずっと隣にいる関係だった。
だからこそ、栄善さんや他の誰よりも、その時間は長い。
その積み重ねが生んだものは、言葉にしなくても伝わる強い絆だ。
アニメで見たあの場面は、今でもはっきりと胸に残っている。
哀伝さんには幼い頃──路傍斬りに襲われた杏歌さんを守れなかった過去がある。
そのとき杏歌さんは、左肩と胸の間に傷を負った。
あの日からずっと、哀伝さんはその出来事を胸の奥に刻み続けている。
だからこそ今は、杏歌さんのそばに立ち、守るために交易の任に就いているんだ。
そして杏歌さんもまた、その想いを知らないふりをしているわけではない。
ただ、意地っ張りな性格のせいで素直に言葉にすることができないだけで、分かってるんだよね。
「杏歌さんも哀伝さんのこと、好きなくせに〜」
「うるさーい!!」
そう言ったら、杏歌さんに私まで喝を入れられた。
「ぷはははは〜!歌羽、杏歌に怒られすぎなんだけど!」
「あ〜杏歌様〜♪お美しい〜♪私の杏歌様〜♪」
笑っている哀伝さんに、相変わらず気持ち良さそうに歌っている雲祈さん。
その雲祈さんの姿を見て、私も思わず歌いたくなった。
「あ〜トワさん〜大好きです〜♪お会いできて嬉しいです〜♪あ〜トワさん〜♪」
「そこの音音組うるさいのよー!今は会議中でしょー!!」
再び落ちる杏歌さんの怒鳴り声。
それすらもBGMみたいに流しながら、私と雲祈さんは愛の歌を止めない。
──そして会議は、今日も無事にカオスのまま幕を閉じた。




