第38話 囲炉裏のぬくもりと、決定された未来
【第三部】推しは私が救うー終ー
囲炉裏の火の灯りに、ぽかぽかと体をあたためられながら、心までゆっくりとほどけていく。
火を見つめているうちに、自然と記憶が浮かんでくる。
……そういえば、この囲炉裏の部屋には、これまでにもいろんな人たちの物語が重なっていたよね。
杏歌さんと春風さんが、雨の日に疼く胸の傷を癒すように囲炉裏の火に当たりに来ていたこともあった。
綿花が自害したあと──春風さん、時雨さん、雲祈さんが、この場所で向き合っていた場面も。
あのシーンはとても重くて、実は一度しか見たことがない。
綿花の上司だった時雨さん。
綿花に文書を教えた日から、ずっと気にかけていた春風さん。
そして、綿花のことを「後輩ができた」と嬉しそうに話していた雲祈さん。
本来なら、綿花の自害は、雲祈さん、大納さん、蒼月さんには知らされるはずのなかったことだった。
けれど雲祈さんは、偶然その事実を知ってしまった。
──そして、そのときの雲祈さんの姿が、ふと蘇る。
最後に春風さんと時雨さんが囲炉裏の部屋をあとにするとき、木戸を閉めるその瞬間に見えた、雲祈さんの静かな背中。
頬を伝う一粒の涙。
時雨さんは、その物語の中でこう言っていた。
『みんな、綿花とはたくさんの思い出があるんだよな……』
……やっぱりあのとき、私は雲祈さんにすごく失礼なことを聞いてしまったのかもしれない。
そんなことを考えながら、しばらくただ火を見つめていた。
揺らめく炎の中で、思考は静かにほどけていく。
そして、ふと──ここへ来る途中に見たトワさんの姿がよぎった。
……トワさん、心ここに在らずだったな。
それもそのはず──対縁の儀まで一週間とあと少し。
実は今朝、トワさんは門番の二人から、対縁の儀で栄善さんが許嫁の小梅姫と婚約する可能性があることを知らされていた。
そのせいか、かなり落ち込んでいた。
でもこの夜、物語はまた少し動くことになる──二組の関係が、それぞれの形で結ばれていく。
私の口からだとうまく説明しにくいんだけど……まぁ、すれ違い、みたいなものかな。
いろいろあるけれど、それでも最後にはちゃんと向き合って、互いの想いが少しずつ深まっていくんだよね。
トワさんと栄善さんは、お互いに「好き」とか「愛してる」なんて言葉は口にしない。
栄善さんの立場上、それを言葉にすることができないし、トワさんもそれを分かっているから。
でもその分、言葉じゃないところでちゃんと伝わってるんだよね……あの空気を思い出すとちょっとジーンとくる。
対縁の儀の日、あの二人の笑顔が見られるといいな。
それと、あの意地っ張りな杏歌さんも、やーーっと哀伝さんの気持ちに素直になるんだよね。
もうね、なんだかんだ言いながら、完全にゾッコンだったんだから!!
だけど、この二人がくっついたのは、なんて言ったって幼馴染である七左衛門さんのお陰なんだよね〜。
あ〜さすがっす!七左衛門さん!
トワさんは、栄善さんが小梅姫と婚約をしたあとも、ずっと栄善さんから貰った簪を付けていた。
その理由は、栄善さんがトワさんの姿を見たときに、その簪を通して「私は大丈夫だからね」っていう想いが、少しでも伝わればいい──そんなトワさんの気持ちからだった。
……また思い出すだけで、ちょっと泣きそう。
だけど今度は、その簪が二人の愛の形としてこれからも残っていくんだと思うと、すごく嬉しくなる。
あぁ、早く皆さんの心からの笑顔が見たいな。
対縁の儀、本当に楽しみだな。
――――***
──そして迎えた対縁の儀。
栄善さんと小梅姫は、婚約を結んだ。




