第36話 公儀飛脚の屯所
【第三部】推しは私が救うー終ー
──ここは、城内に設置されている、桂ノ国専属の公儀飛脚たちが駐在する屯所。
ここには、四名の飛脚の皆さんが常駐している。
公儀飛脚とは、外交や交易に関する文書を扱う者たちのことだ。
正式な文書は、公儀飛脚以外が出すことは許されていない。
もし無断で文書を出せば、国を脅かす行為と見なされ、厳しい罰が下される。
それだけ文書というものは、重い意味を持っている。
さっき文書を投げ捨てちゃったこと反省……
「──あっ、虎鉄さん!文書をお預けに参りました!」
雲祈さんの元気な声が、屯所に響き渡る。
「おお、雲祈だべさ。それと可愛らしいお嬢ちゃんか。文書だな。よし、今確認するからちょっと待っててけろ」
この方は、公儀飛脚の虎鉄さん。
さすが飛脚というだけあって、がっしりとした体格をしている。
虎鉄さんは挨拶を交わしながら、封の裏を慎重に確認していた。
松風さんが、色奉書を渡す際に押した蔵の管理者印と蔵印。
この二つが揃っていなければ、正式な文書だと認められず、公儀飛脚もお城の門番も文書を受け取らないし、門を通さないという厳しい決まりがある。
こうして偽文書を防ぐために、徹底されているんだよね。
……綿花はそれを利用したわけだけど。
「お、蔵の印も二箇所ついてるし、間違いねぇべ。宛先は朽葉ノ国だな。おらに任せてけろ」
「虎鉄さん、ありがとうございます!」
無事に文書を渡し終えたあと、虎鉄さんは松風さんの元へ公儀札を受け取りに向かった。
私たちも蔵の方を通って戻ることにした。
門を通るには、札の確認が必要になるんだよね。
飛脚札とは、飛脚が正式な者であることを証明する札のことだ。
そこには家紋と同じ刻印が刻まれている。
門番はその札と文書を照合し、初めて通行を許すという仕組みになっている。
こうして、たくさんの人たちが責任ある仕事をしているからこそ、この国は成り立っているんだよね。
ふと前方を見ると、荷物を抱えてよろよろと歩きながら、腰をさすっている諭作さんの姿が目に飛び込んできた。
……やっぱり。予感していた通りの展開。
今日、私と雲祈さんがお店に伺ったときから、諭作さんはどこか痛そうにしてたもんね。
色奉書の納品に来ていた諭作さん。
その様子を見かねた雲祈さんが荷物を受け取り、代わりに松風さんの蔵へと運んでいった。
諭作さん、腰大丈夫なのかな?
茶々蔵さんも痛めてるし……無理しないでほしいな。
私は先にお城へ戻り、春風さんへ無事に文書を届け終えたことを報告した。
その後、諭作さんから頂いた山茶花団子を皆さんでじっくり味わい、ささやかな幸せを感じる時間を過ごした。
──***
夜。
私はとても穏やかな気持ちのまま布団に入っていた。
文書も無事に出し終え、張り詰めていた気持ちが少し緩んだからかもしれない。
それに今日は、トワさんと栄善さんの関係が大きく動く、大切な回だった。
秘密基地でトワさんは、別の世界から来たことやこれまでの辛い過去を打ち明ける。
栄善さんもまた、自身の身分制度に苦しんだことや、養子であることを明かしていく。
そして栄善さんは、トワさんに撫子の簪をそっと渡す──
きゃーーっ!!
トワぬいと栄善ぬいを抱きしめながら、私は内心大興奮だった。
……こうして静かな夜が続いていくのだと思っていた。
だから、浮かれていた私は、このあとに起こる出来事なんて、少しも想像していなかった。




