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第33話 穏やかな管理者のいる蔵

【第三部】推しは私が救うー終ー

私は今、春風(はるかぜ)さんと一緒に蔵へ来ている。

文書作成に使う色奉書いろぼうしょを受け取るためだ。



──ここで皆さんも、もうお分かりだろう。


そう、結局──時雨(しぐれ)さんはベロベロに酔っていた。


春風さんが以前言っていた通り、ワインはほんの一口ほどしか口にしていないらしい。それなのに、この有様である。


瓶の中には、まだたっぷりと赤ワインが残っていた。


……時雨さん、お酒弱すぎーー!!


まあ、異国の限定品で、十年熟成されたワインだもんね。

今回は一口程度で我慢したんだ。

大目に見てやろう。(誰)  


そういえば、アニメで春風さんが言ってたな……異国の商人から聞いたっていう、妙に面白い話。


腐る果実とか、砂漠に降る赤い雨とか……あともう一つ、変なお酒の話もあったような気がするけど。


……なんだっけ?


まあ、いっか!

思考はそのまま、ふっと霧散むさんした。


時雨さんはその後、書斎に運ばれたらしい。


ちなみに、書斎に運ばれる最中に時雨さんが暴れたことから、「暴れゴリラ」なんてあだ名がついた。だから私は普通にゴリラと呼んでいる。


今さらだけど、団丸(だんまる)さんと杏歌きょうかさんにも「体力ゴリラ」なんてあだ名がある。


まあ、そんなことを思い出しながら、私は諭作(ゆさく)さんからいただいた風呂敷包みをほどいた。


「これ、文書作成が終わったら皆さんで分けましょうねー!」


箱に描かれた山茶花の絵が見たくて、たまらなかった。

そこには、色とりどりの山茶花が描かれていた。


穏花処おんかどころで見た景色が、そのまま閉じ込められているようだった。

その景色を思い出して、なんだかまた涙が滲みそうになる。


そんな私の頭に、ぽんと春風さんが手を置いた。

振り向くと、春風さんは優しく微笑んでいる。


「私も手伝うから、後で分けよう」


「はい!」



あ〜山茶花団子食べるの楽しみだな〜。

そんなことを考えていると、松風しょうふうさんが春風さんと私に声をかけた。


「春風さん、歌羽さん。一枚は文書用、もう一枚は封用の色奉書で、合わせて二枚だね」


「はい!」


松風さんは、この蔵の管理者だ。

お城の紙は蔵の奥の棚で保管され、すべて帳簿に記録されている。


その使用状況や在庫は週ごとに茶々蔵(ちゃちゃぞう)さんへ報告され、月ごとの確認も行われている。


奉書紙ほうしょしは特に貴重なため、松風さんが蔵の奥にある金庫で厳重に管理している。

そういう意味でも、大切に扱われている紙なんだよね。


──それなのに、綿花は色奉書を使って文書を書いていた。

やっぱり謎が残る。


私は小さく首をかしげた。


そんな疑問を抱えたまま、松風さんの作業を見守る。


松風さんは、金庫の中から小さな箱を取り出すと、帳簿と二つの印鑑を丁寧に並べた。それを文書用と封用の紙の裏へと押していく。


そうそう、この印鑑がすごく大切なんだよね。


一つは蔵の管理者印、もう一つは蔵印。

この二つが揃って初めて、文書は他国へ正式に出せるものとして扱われる。


そしてこの印は、国の信用そのものを預かる証でもある。


こんな重い責任を日常的に担っているなんて、松風さんってすごいよね。


「松風さん、ありがとうございましたー!」


「いいんだよ。春風さんも歌羽(うたは)さんも頑張ってな」


穏やかな松風さんに見送られながら、私たちは蔵を後にした。

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