第33話 穏やかな管理者のいる蔵
【第三部】推しは私が救うー終ー
私は今、春風さんと一緒に蔵へ来ている。
文書作成に使う色奉書を受け取るためだ。
*
──ここで皆さんも、もうお分かりだろう。
そう、結局──時雨さんはベロベロに酔っていた。
春風さんが以前言っていた通り、ワインはほんの一口ほどしか口にしていないらしい。それなのに、この有様である。
瓶の中には、まだたっぷりと赤ワインが残っていた。
……時雨さん、お酒弱すぎーー!!
まあ、異国の限定品で、十年熟成されたワインだもんね。
今回は一口程度で我慢したんだ。
大目に見てやろう。(誰)
そういえば、アニメで春風さんが言ってたな……異国の商人から聞いたっていう、妙に面白い話。
腐る果実とか、砂漠に降る赤い雨とか……あともう一つ、変なお酒の話もあったような気がするけど。
……なんだっけ?
まあ、いっか!
思考はそのまま、ふっと霧散した。
時雨さんはその後、書斎に運ばれたらしい。
ちなみに、書斎に運ばれる最中に時雨さんが暴れたことから、「暴れゴリラ」なんてあだ名がついた。だから私は普通にゴリラと呼んでいる。
今さらだけど、団丸さんと杏歌さんにも「体力ゴリラ」なんてあだ名がある。
まあ、そんなことを思い出しながら、私は諭作さんからいただいた風呂敷包みをほどいた。
「これ、文書作成が終わったら皆さんで分けましょうねー!」
箱に描かれた山茶花の絵が見たくて、たまらなかった。
そこには、色とりどりの山茶花が描かれていた。
穏花処で見た景色が、そのまま閉じ込められているようだった。
その景色を思い出して、なんだかまた涙が滲みそうになる。
そんな私の頭に、ぽんと春風さんが手を置いた。
振り向くと、春風さんは優しく微笑んでいる。
「私も手伝うから、後で分けよう」
「はい!」
*
あ〜山茶花団子食べるの楽しみだな〜。
そんなことを考えていると、松風さんが春風さんと私に声をかけた。
「春風さん、歌羽さん。一枚は文書用、もう一枚は封用の色奉書で、合わせて二枚だね」
「はい!」
松風さんは、この蔵の管理者だ。
お城の紙は蔵の奥の棚で保管され、すべて帳簿に記録されている。
その使用状況や在庫は週ごとに茶々蔵さんへ報告され、月ごとの確認も行われている。
奉書紙は特に貴重なため、松風さんが蔵の奥にある金庫で厳重に管理している。
そういう意味でも、大切に扱われている紙なんだよね。
──それなのに、綿花は色奉書を使って文書を書いていた。
やっぱり謎が残る。
私は小さく首をかしげた。
そんな疑問を抱えたまま、松風さんの作業を見守る。
松風さんは、金庫の中から小さな箱を取り出すと、帳簿と二つの印鑑を丁寧に並べた。それを文書用と封用の紙の裏へと押していく。
そうそう、この印鑑がすごく大切なんだよね。
一つは蔵の管理者印、もう一つは蔵印。
この二つが揃って初めて、文書は他国へ正式に出せるものとして扱われる。
そしてこの印は、国の信用そのものを預かる証でもある。
こんな重い責任を日常的に担っているなんて、松風さんってすごいよね。
「松風さん、ありがとうございましたー!」
「いいんだよ。春風さんも歌羽さんも頑張ってな」
穏やかな松風さんに見送られながら、私たちは蔵を後にした。




