第30話 福紙堂での手配
【第三部】推しは私が救うー終ー
福紙堂に着いた私は、引き戸をそっと押した。
中には、雲祈さんがいた。
「おや?歌羽さんではないですか〜!」
麻袋を両手いっぱいに抱えた雲祈さんが、こちらに気づいて顔を上げる。
「お疲れ様です、雲祈さん!今、諭作さんに糊の在庫を確認してもらってます?」
「はい!そうなのですよ!歌羽さんはなんでもご存じなのですね!」
そんなやり取りをしていると、お店の奥から諭作さんが姿を現した。
「申し訳ございません、糊を切らしておりまして……」
……うん、やっぱり。糊は切れてる。
「では今回は、煎承さんのところで手配いたしますね!」
雲祈さんは明るくそう言うと、すぐに次の段取りへと切り替えた。
私はこの後、文書作成に必要な糊を受け取るため、煎承さんのお店へ雲祈さんとともに向かうことになる。
雲祈さんが糊の手配を担当しているのは、一昨日の夜更けの会議で「文書の改ざんを防ぐために封へ糊付けをする」という案を出してくれたからだ。
いつもはおちゃらけているのに──というか、杏歌さんにぞっこんなのに、仕事のことになると人が変わったように頭が切れる。
雲祈さんって、すごいよね。
アニメでその場面を見たときも、「雲祈さんすごいなぁ」って思ったんだ〜。
その後、諭作さんと紐の手配についてやり取りを終え、必要な分を受け取った私は、それを雲祈さんへと手渡した。
「では、糊の手配を済ませたあと、紐と麻袋を一緒にだん吉さんのところへ届けますね!」
「はい!雲祈さん、よろしくお願いします!」
紐の手配も終わり、諭作さんへお礼を告げてその場を後にしようとした、そのときだった。
「あっ、そうでございました!歌羽様、雲祈様、少々お待ちくださいませ!」
諭作さんはそう言うと、お店の奥へと小走りで駆けていく。
やがて戻ってきたその手には、「福紙堂」と染め抜かれた風呂敷包みがあった。
中に入っているのは、もちろん──山茶花団子だ。
山茶花団子はこの間、団丸さんと食べたけど……箱に描かれた山茶花の絵を見るのは初めてだから楽しみだな〜。
諭作さんは以前、「晩秋の頃には山茶花団子をご用意してお待ちしております」と話していた。その約束をきちんと守るところに、律儀な人柄がにじんでいる。
そんなやり取りの中で、諭作さんがふと「……あたたたた」と小さく声を漏らし、腰をさすり始めた。
その様子を見て、雲祈さんが心配そうに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「ほほほ、ご心配なく」
そう笑ってみせるが、私はふと、この先アニメで見た流れを思い出していた。
このあと色奉書の納品でお城に来ることになるんだけど、そのときも諭作さんは同じように腰を痛めていて、雲祈さんが代わりに荷を運んでいた。
今回も、同じ流れになるのかな……
そんな予感がよぎる。
思わず私は声をかけた。
「諭作さん、無理しないでくださいね!何かありましたらお助けしますからね!」
「ほほほほっ。これはこれは、歌羽様、ありがとうございます」
穏やかに笑いながら、諭作さんは続けた。
「歌羽様もいよいよ独り立ちですね。哀伝様とご一緒にいつも任務に励まれておられましたからね。これからのご活躍も楽しみにしておりますよ」
「ありがとうございます!」
両手いっぱいに麻袋を抱えている雲祈さんの代わりに、私は山茶花団子を受け取り、雲祈さんとともにお礼を伝えた。
そして私たちは、次の目的地である煎承さんのお店へと向かった。




