第29話 一人任務、いざ出陣
【第三部】推しは私が救うー終ー
皆さん、いよいよです。
私がこの世界に来た意味──そのすべては、この日のためだったと言ってもいい。
私はこれから、綿花と同じように塩の荷まとめ用の紐を、福紙堂に買いに行く。
廊下へ出ると、上司の時雨さんと哀伝さんが立っていて、「頑張れよ」と声をかけてくれた。
その言葉に頷きながらも、私は一昨日の会議の件で、まだ少し時雨さんにむっとしていた。
だから昨日、思わず釘を刺すように春風さんへ言ってしまった。
──***
「いいですか春風さん!あなたが持っているワインを、あのゴリラ男が飲み干して大変なことになるんですよ!」
そう!アニメで見た流れでは──時雨さんは、春風さんが大切にしているワインを勝手に飲み干し、すっかり酔っぱらってしまう。
その結果、本来は時雨さんが綿花に午後から文書作成を教えるはずだったのに、到底そんな状態ではなくなってしまう。
現場は混乱し、予定そのものが崩れてしまう中で──その責任を感じた春風さんが、代わりに綿花への指導を引き受けることになる。
春風さんには何の罪もないのに、昨日のやり取りが頭から離れず、私はかなりの剣幕で言ってしまった。
「……そっ、そうなのか。歌羽、お前が私のワインのことを知っているということは、本当のことなんだろう」
春風さんは頬をぽりぽりと掻きながら、申し訳なさそうに続けた。
「私のせいですまなかったな。ワインはあいつに見つからないように、しっかり隠しておくよ」
そうだ。それでいいんだ。
春風さんに申し訳ないとは思いつつも、あのゴリラの暴走を制御できたことに、私は少し満足していた。
……と、そのときだった。
「なんだ春風……おめぇ、ワイン持ってんのか?」
──え?
「ぎゃーーーーぁ!出たーーー!ゴリラーー!!」
私は反射的に叫び、その瞬間、ゴリラの拳骨が飛んできた。
そして何より最悪なのは、酒好きの時雨さんが「ワイン」という単語を聞き流すはずもないということだ。
それは市場では滅多に手に入らない異国の品。
しかも、春風さんが十年も寝かせてきた代物だ。
それを知った時雨さんの顔ときたら、もう……
きぃぃぃぃ!!
──***
結局、春風さんが「一口程度にとどめておくよ」と言ったことでその場は収まったけど……どうなることやら。
私は文書を書くのは初めてだから、上司である時雨さんに教えてもらうことになっている。
もしそのとき、時雨さんが酔っ払ってたらどうなるんだろう。
哀伝さんは午後から例の国との商談が入ってるし、アニメ通り、春風さんが代わりに教えてくれるのかな?
まぁ、綿花がいない今、時雨さんが酔っ払ったところで──別に、どうでもいいんだけどさー!
……あっ、でも公印はもらわないといけないから、酔っ払ってたらやっぱりいろいろ面倒くさいよね。
って、何あのゴリラ男のことで、真剣に悩んでんだ私は!
疲れるわ!
脳内をゴリラから推しに変換!変換!……ってことで、話を変えて。
今日は推しであるトワさんと栄善さんも町へ出てるんです!
あ〜、同じ外の空気を吸えるなんて幸せ〜。
さっきまで時雨さんのことでぷんすかしてたのに、トワさんと栄善さんのことを考えてたら、一気に幸せになってしまった私。
朝の門番、琥景さんと煌景さんに元気よく見送られながら、軽い足取りで諭作さんのお店・福紙堂へ向かうのだった。




