第24話 団丸が特別を知った日―気配―
【第三部】推しは私が救うー終ー
おいらは今日、歌羽と町に来てるんだ。
歌羽が行きたいところがあるらしいから、その場所を全部巡るんだぞ。
おいらは今日がすごく楽しみだった。
だって、歌羽と一緒だからだ。
歌羽は、おいらと一緒に楽しそうに訓練したり、走ったりしてくれる。
そういう時間が、おいらはすごく好きなんだ。
だから今日も絶対に楽しいに決まってるって思ってたんだぞ。
歌羽とおいらは、町を駆け抜けて、いろんな場所を巡った。
秘密基地に行ったとき、歌羽はぽつりと呟いた。
『そういえばここって……先まで行くと、すぐ下は崖なんですよね……』
そう言ってゆっくりと足を進めた歌羽は、下に広がる海をじっと見つめたまま、しばらく動かなくなった。
だからおいらは、気づいたら歌羽の手をがしっと握ってたんだ。
そして、そのまま言った。
『穏花処に昼の甘味を食いに行こう!』って。
穏花処へ向かう途中、歌羽がおいらの歌を口ずさんでいた。
それでおいらは聞いたんだ。
『それもあにめで知ったのか?』って。
そうしたら歌羽はこう言った。
『そうなんっすよ〜。これ団丸さんがアニメで歌ってて。つい、口ずさんじゃうんですよね〜』
それを聞いて、おいらは思ったんだ。
そのあにめってやつで、歌羽はいろんなことを知ってるんだなって。
さっき秘密基地で、歌羽が崖の下を見て動かなくなったのも、きっと何か理由があるんだろうと思った。
だけど、おいらたちはあえて聞かない。
それは前に、栄善たちと話したことがあったからだ。
──***
「歌羽があえて語らぬということは……我らがまだ知るべき段階ではない、ということなのだろう」
栄善は静かにそう言った。
「綿花とやらも、今はまだ姿を見せておらぬ。ならば、今このときに問い詰めるのは得策ではない」
一拍置いて、ゆっくりと続ける。
「本当に歌羽が道を見失ったとき、そのときこそ我らが手を貸せばよい。今はただ、その判断を信じよう。歌羽の言った、あの言葉を信じよう」
「私は皆さんを必ず救います。──だから、黙ってついて来てください」
──***
だからおいらたちは、歌羽が道を見失いそうになったときは、ちゃんと助けるんだぞ。
歌羽はあにめでいろんなことを知ってるみたいだから、おいらのこともどれくらい知ってるのか気になって聞いてみたんだ。
でも歌羽は、おいらのことはまだあんまり知らなかったみたいだった。
それを聞いて、おいらは思ったんだ。
これからは、もっとたくさんおいらのことも知ってほしいなって。
穏花処に着いたとき、歌羽は山茶花の景色を見て、目から溢れるほどの涙を流していた。
その姿を見て、おいらはつい声をかけてたんだ。
『……歌羽?泣いてんのか?』って。
そうしたら歌羽は、なぜか笑顔になったんだ。
その顔を見て、おいらは嬉しくなった。
だけどそのあと、歌羽は山茶花団子を食いながら、そっと目元をぬぐっていた。
それを見て、おいらは岸辺に広がる山茶花の景色へと目を向けた。
さっき歌羽がこの景色を見て涙を流していた姿が、ふと重なる。
そのとき、おいらは昔、杏歌に言われた言葉を思い出した。
『山茶花団子も山茶花も……人によっては、とても特別なものなの』
『穏花処の山茶花の景色を心で感じながら食べるお団子なんて、格別なひとときに間違いないわ。なんていったって、特別なんだからね』
おいらは今まで、食べることばかり考えてた。
景色とか、団子の美しさとか、そんなことはあまり考えたことがなかったんだ。
だけど、そのとき初めて思った。
岸辺に咲く、色とりどりの山茶花と、その景色を眺めながら食べる団子。
それを大事そうに味わう歌羽の姿。
それこそが、杏歌が言っていた“格別なひととき”なんだなって。
大切な人と、大切な場所で、心で感じながら食べるこの時間。
山茶花団子は杏歌に言われてから、ちゃんと味わって食ってたつもりだったけど……歌羽と一緒に食べる山茶花団子と、もう一つの団子は、いつもよりずっと美味しく感じたんだ。
杏歌の言葉と歌羽と見たこの景色。
それが、ちゃんと繋がったんだ。
ありがとな、杏歌!




