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第18話 聖地巡礼の旅―夢と運命の狭間で―

【第三部】推しは私が救うー終ー

聞いて、聞いて〜。


さっきのお団子屋さんの店主さんが、私と団丸(だんまる)さんの会話を聞いてたみたいで……なんと!


山茶花団子(さざんかだんご)をお裾分けしてくれたんです!


竹皮に包まれてて、可愛いったらありゃしない。


「お嬢ちゃんたち、美味しそうに食べてくれるから嬉しくってね!あいよ、お裾分け!」


っていう理由らしい。


あぁ〜店主さん、神!!


ちなみに今はもう売り切れてて、買いに行っても手に入らないらしい。


そういえばそうだったー!!

朝早く並ばないとだめなんだったー!!


「団丸さん!よかったですね!」


「おう!本当だな!あとで穏花処おんかどころで食うぞー!」


「えいえいさー!」



──推しの聖地・雑貨屋にて。


「あっ、こっ、これは……!!」


愛しのトワさんが真心を込めて選んでいた(うるし)のお箸!!


「なんだ、歌羽(うたは)。箸なんか見つめて。もう腹減ったのか?」


「……違うっすよ、団丸さん!」



──推しの聖地・塩職人・だん(きち)さんのところにて。


「おーい、だん吉ー!」


「おや、団丸様!本日はお嬢さんもご一緒で?」


「おう!交易使者に新しく入った歌羽だ!よろしくな!」


「あなたが歌羽さんでございやすか!お噂は伺っておりますぜ。とても元気で明るい方なようで!」


「ははははは。初めまして、だん吉さん!会いたかったでございやすよ!」


そんな挨拶を交わすと、私たち三人はなぜか息ぴったりに笑い出した。


あはははは〜、ははははは〜、がはははは〜。


その笑い声は、塩づくりに励む職人さんたちの海辺にやさしく響いた。


だん吉さんは、この桂ノ国(かつらのくに)を支える塩職人の親方だ。

ここで生まれる「桂ノ塩」は、他国との交易を支える大切な柱になっている。

その営みの重みを胸に、私は深く頭を下げた。


「だん吉さん!塩の炊き納めが済んだら、年の締めの恒例行事、必ずしましょうね!」


「へい!あっしら楽しみにしてやすぜ!」


──アニメの世界では叶わなかったこの約束も、今度こそ守りたい。


その笑顔を、絶対に守ってみせる。


そう心に誓い、私たちは次なる聖地へと歩き出した。



──推しの聖地・秘密基地にて。


……うっ……ひょ〜!!


「……ここが……秘密基地」


「どうだ歌羽、綺麗だろ!」


団丸さんの声にすぐ返せないほど、私は言葉を失っていた。


山も、海も、空も、ひと続きになって広がっている。

風が頬をかすめるたび、世界ごと揺れているような錯覚さえした。


トワさんが『息を呑むほど美しい』と言っていた理由が、ようやく分かる。


──いや、きっとそれ以上だ。


画面越しでは伝わらなかった空気が、今ここにある。


「……すごく、綺麗っすね……」


気づけば、そう呟いていた。


「そうだろ!歌羽がそう言ってくれて、おいらすごく嬉しいぞ!がははははー!」


団丸さんの豪快な笑い声に、つられてこちらも笑ってしまう。

そのはずなのに、胸の奥に小さな引っかかりが残った。


「そういえばここって……この先まで行くと、すぐ下は崖なんですよね……」


言いながら、私はゆっくりと足を進める。

誘われるように、視線がその先へ落ちていった。


──ごくり。


息を呑む。


穏やかで、やさしい色をした海だった。

光を受けて静かにきらめく波は、ここから見ている限りでは、ただ美しいだけの景色に見える。


だけど。


トワさんが、ここから身を投げた場所だと思った瞬間、その美しさは少しだけ意味を変えた。


胸の奥に、言葉にならない感情が沈んでいく。

綺麗だと思うのに、素直にそう言えない。ただ、海だけが何も知らない顔で、そこに広がっていた。


私はしばらくその海を前にして、立ち尽くしていた。


風だけが頬をかすめ、時間が少しだけ遅く流れているような気がする。


──そのときだった。


がしっ!


「うおっ!びっくりしたーっ!」


思わず素っ頓狂な声が出る。

本気で心臓が飛び出たかと思った。


「ど、どうしたんすか団丸さん!下、崖っすよ!?今の、普通に心臓飛び出るやつでしたって!」


驚きで跳ねた心臓を片手で押さえながら振り向くと、団丸さんの大きな手が、しっかりと私のもう片方の手を握っていた。


団丸さんは、いつものように豪快に笑っている。


「歌羽!次は穏花処おんかどころだぞ!腹も減ってきたし、昼の甘味を食いに行こう!この茂みを掻き分けて行くんだぞ!」


その言葉に、さっきまでの静けさが一気に弾ける。


──来た。


私の胸が、別の意味で高鳴る。


穏花処おんかどころへ続く道は、まるでおとぎ話の世界に迷い込む入り口みたいな場所だ。

その先に広がる景色を想像するだけで、足が自然と前へ出そうになる。


それに──あの穏花処おんかどころに咲き誇る、山茶花の景色。


秘密基地で見たこの景色を胸に刻みながら、私はそっと息を呑んだ。


生で見る景色は、きっと想像なんて軽々と越えてくる。

そんな確信だけが、胸の奥で静かに熱を持っていた。


「行きましょう!団丸さん!」


「おう!おいらに続けー!」


その声に背中を押されるようにして、私は一歩を踏み出した。


──推しの聖地、最後の場所へ。

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