第18話 聖地巡礼の旅―夢と運命の狭間で―
【第三部】推しは私が救うー終ー
聞いて、聞いて〜。
さっきのお団子屋さんの店主さんが、私と団丸さんの会話を聞いてたみたいで……なんと!
山茶花団子をお裾分けしてくれたんです!
竹皮に包まれてて、可愛いったらありゃしない。
「お嬢ちゃんたち、美味しそうに食べてくれるから嬉しくってね!あいよ、お裾分け!」
っていう理由らしい。
あぁ〜店主さん、神!!
ちなみに今はもう売り切れてて、買いに行っても手に入らないらしい。
そういえばそうだったー!!
朝早く並ばないとだめなんだったー!!
「団丸さん!よかったですね!」
「おう!本当だな!あとで穏花処で食うぞー!」
「えいえいさー!」
*
──推しの聖地・雑貨屋にて。
「あっ、こっ、これは……!!」
愛しのトワさんが真心を込めて選んでいた漆のお箸!!
「なんだ、歌羽。箸なんか見つめて。もう腹減ったのか?」
「……違うっすよ、団丸さん!」
*
──推しの聖地・塩職人・だん吉さんのところにて。
「おーい、だん吉ー!」
「おや、団丸様!本日はお嬢さんもご一緒で?」
「おう!交易使者に新しく入った歌羽だ!よろしくな!」
「あなたが歌羽さんでございやすか!お噂は伺っておりますぜ。とても元気で明るい方なようで!」
「ははははは。初めまして、だん吉さん!会いたかったでございやすよ!」
そんな挨拶を交わすと、私たち三人はなぜか息ぴったりに笑い出した。
あはははは〜、ははははは〜、がはははは〜。
その笑い声は、塩づくりに励む職人さんたちの海辺にやさしく響いた。
だん吉さんは、この桂ノ国を支える塩職人の親方だ。
ここで生まれる「桂ノ塩」は、他国との交易を支える大切な柱になっている。
その営みの重みを胸に、私は深く頭を下げた。
「だん吉さん!塩の炊き納めが済んだら、年の締めの恒例行事、必ずしましょうね!」
「へい!あっしら楽しみにしてやすぜ!」
──アニメの世界では叶わなかったこの約束も、今度こそ守りたい。
その笑顔を、絶対に守ってみせる。
そう心に誓い、私たちは次なる聖地へと歩き出した。
*
──推しの聖地・秘密基地にて。
……うっ……ひょ〜!!
「……ここが……秘密基地」
「どうだ歌羽、綺麗だろ!」
団丸さんの声にすぐ返せないほど、私は言葉を失っていた。
山も、海も、空も、ひと続きになって広がっている。
風が頬をかすめるたび、世界ごと揺れているような錯覚さえした。
トワさんが『息を呑むほど美しい』と言っていた理由が、ようやく分かる。
──いや、きっとそれ以上だ。
画面越しでは伝わらなかった空気が、今ここにある。
「……すごく、綺麗っすね……」
気づけば、そう呟いていた。
「そうだろ!歌羽がそう言ってくれて、おいらすごく嬉しいぞ!がははははー!」
団丸さんの豪快な笑い声に、つられてこちらも笑ってしまう。
そのはずなのに、胸の奥に小さな引っかかりが残った。
「そういえばここって……この先まで行くと、すぐ下は崖なんですよね……」
言いながら、私はゆっくりと足を進める。
誘われるように、視線がその先へ落ちていった。
──ごくり。
息を呑む。
穏やかで、やさしい色をした海だった。
光を受けて静かにきらめく波は、ここから見ている限りでは、ただ美しいだけの景色に見える。
だけど。
トワさんが、ここから身を投げた場所だと思った瞬間、その美しさは少しだけ意味を変えた。
胸の奥に、言葉にならない感情が沈んでいく。
綺麗だと思うのに、素直にそう言えない。ただ、海だけが何も知らない顔で、そこに広がっていた。
私はしばらくその海を前にして、立ち尽くしていた。
風だけが頬をかすめ、時間が少しだけ遅く流れているような気がする。
──そのときだった。
がしっ!
「うおっ!びっくりしたーっ!」
思わず素っ頓狂な声が出る。
本気で心臓が飛び出たかと思った。
「ど、どうしたんすか団丸さん!下、崖っすよ!?今の、普通に心臓飛び出るやつでしたって!」
驚きで跳ねた心臓を片手で押さえながら振り向くと、団丸さんの大きな手が、しっかりと私のもう片方の手を握っていた。
団丸さんは、いつものように豪快に笑っている。
「歌羽!次は穏花処だぞ!腹も減ってきたし、昼の甘味を食いに行こう!この茂みを掻き分けて行くんだぞ!」
その言葉に、さっきまでの静けさが一気に弾ける。
──来た。
私の胸が、別の意味で高鳴る。
穏花処へ続く道は、まるでおとぎ話の世界に迷い込む入り口みたいな場所だ。
その先に広がる景色を想像するだけで、足が自然と前へ出そうになる。
それに──あの穏花処に咲き誇る、山茶花の景色。
秘密基地で見たこの景色を胸に刻みながら、私はそっと息を呑んだ。
生で見る景色は、きっと想像なんて軽々と越えてくる。
そんな確信だけが、胸の奥で静かに熱を持っていた。
「行きましょう!団丸さん!」
「おう!おいらに続けー!」
その声に背中を押されるようにして、私は一歩を踏み出した。
──推しの聖地、最後の場所へ。




