第17話 聖地巡礼の旅―始まりの章―
【第三部】推しは私が救うー終ー
私は昨日の夜、なかなか眠れなかった。
今日という日が、楽しみで仕方なかったから。
甘味処からは甘い香りが漂い、茶屋からは湯気とともに温かな匂いがこぼれている。
行き交う人々の草履の音と笑い声が絶えず、町全体がひとつの生き物のように息づいていた。
私はその景色に、ごくりと息を呑んだ。
「……き、来たーーーー!!」
もうテンションは最高潮。
だって、だって──アニメで見たあの町そのままなんだもん!
こんなの興奮するに決まってるっしょ!
「歌羽、町に来るのがそんなに楽しみだったんだな!おいらも嬉しいぞ!がははははー!」
「あったり前ですよ〜!私の夢だったんですから!」
「そうなのか!よし歌羽、行きたいところを何でも言え!」
団丸さんのその言葉に、胸の高鳴りがさらに大きくなる。
皆さん。
推しがいる方なら、少しでも私の気持ちに共感してくださる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私の「夢」。それは──まさしく聖地巡礼!
すべて巡れたら私、感激のあまり泣いちゃうかも!!
行きたい場所なんてもう決まってる!
トワさんと栄善さんが訪れたお団子屋さん。
雑貨屋さん。
だん吉さんのところ。
秘密基地。
そして穏花処。
全部行くんだ!
私は団丸さんに、興奮のあまり行きたい場所を一気に畳みかけるように伝えた。
すると団丸さんは「がはははは!」と笑いながら、それを全部まるごと受け止めてくれた。
「よし歌羽!団子屋までどっちが先に着くか競走だー!」
「ははははは!望むところですよ団丸さん!」
そうして私たちは、言葉と同時に地面を蹴った。
全力でお団子屋へと駆け出す。
*
──推しの聖地・お団子屋にて。
「わぁ〜美味しい!美味しっすね、団丸さん!」
「本当だな!ここの団子は最高だな!」
みたらし、あんこ、よもぎ、きなこ、胡麻。
トワさんと栄善さんがアニメで頼んでいたものを、片っ端から注文する。
さらに、栗団子と黒糖団子も追加した。
「あいよ〜!追加の栗団子と黒糖団子おまち〜!」
……ぎゃーーー!!
店主さんもアニメのまんまのセリフやん!!
こんなん興奮の極みやん!!
大興奮している私の姿を見て、団丸さんはにこにこと笑いながら、どこか楽しげに口を開いた。
「歌羽は団子が好きなんだな!それならあとで山茶花団子を買って行こう。それを穏花処で食うぞ!」
「いいっすね、団丸さん!そうしましょう!」
あぁ〜穏花処で山茶花団子も食べられるなんて、なんて幸せなんだ〜。
──ん?
待てよ。
山茶花団子がもう町で売られてるってことは……綿花が独り立ちして、諭作さんや煎承さんのもとを訪れる──あの話が始まるってことだ。
ってことは──「夜更けの会議」が、近い。
交易が朽葉ノ国へ文書を送る件。
綿花の立場にいる今、その役目は──私。
そして、その会議の日。
栄善さんは、皆さんに告げることになる。
対縁の儀──その儀式の場で、縁談を断るつもりであることを。
いよいよだ。
私はこの世界に来て、トワさんや栄善さんだけでなく──皆さんを救いたいと、より強く思うようになった。
夜の門番、夜月さんと夜星さん。
アニメでは、栄善さんの死を知り、居ても立ってもいられず持ち場を離れていた。
その結果、門を通り抜けたトワさんは──
二人のその後は描かれていない。
でもきっと、重いものを背負って生きていったはずだ。
町の人たちも、お城の人たちも、お菊さんも。
描かれていない場所で、どんな想いを抱えていたのか──そう思うと、胸が張り裂けそうになる。
私がこの世界に来た意味。
それはきっと──皆さんを救うためだ。
だから私はここにいる。
「よしー!気合いが入って来たぞー!」
「おう!団子も食ったし、力がみなぎってきたぞー!次は雑貨屋に行くぞー!おいらに続けー!」
「行くっすよ、団丸さんー!」
推しが過ごした場所でお団子も平らげ、気合いも十分。
次なる聖地へ──私たちは駆け出した。




