第13話 てふ紙屋
【第三部】推しは私が救うー終ー
町の賑わいから少し外れた一角に、静かに佇むてふ紙屋。
ここは、桂ノ国に備えられたもう一つの紙屋。
煎承さんが営むお店で、万が一に備え、諭作さんのお店を支える役割を担っている。
任務に必要な品が在庫切れだった際には、私たちもこのお店を利用させてもらうことがある。
諭作さんのお店も、煎承さんのお店も──どちらも桂ノ国に欠かせない、大切な場所だ。
「煎承さんー!こんにちはー!」
店内に響く声に、煎承さんがにかっと豪快な笑みを浮かべて迎え入れる。
「歌羽に哀伝やないかー!相変わらず元気でええことやなぁー!」
「歌羽は団丸並みに元気すぎるからね〜。今日もよろしくね、煎承」
「任せてぇな〜!」
そして私は、哀伝さんの指導のもと、順序よく任務をこなしていく。
哀伝さんの教え方は、いつも的確で分かりやすいんだよね〜。
そうして今回も、滞りなく任務は終わった。
煎承さんのお店に来ると、任務後はだいたい決まって上司である時雨さんの話になる。
理由は単純で、時雨さんと煎承さんが飲み仲間だからだ。
時雨さんの行きつけの飲み屋で、よく二人で酒を酌み交わしているらしい。
私は煎承さん相手に、つい時雨さんへの愚痴をこぼしてしまう。
「あのゴリラ、いつもいつも飲んでばっかりなんですよー!本当いい加減にしろってんだ!」
「歌羽は時雨の話になると、いつもすごい剣幕やんなぁ〜!こりゃ杏歌と柚寧より強者ちゃうんか?なぁ、哀伝」
「ぷはははは〜!本当だね、煎承。しかも歌羽、時雨の行きつけの飲み屋の話になると、さらに熱くなるよね?」
そう言いながら、煎承さんと哀伝さんは楽しそうに笑い合っていた。
だけど、それでも私にとっては至って真剣だった。
話しているうちに、つい熱がこもってしまう。
だって、アニメで見た流れでは、行きつけの飲み屋で働き始めた綿花を、時雨さんが交易使者として連れてきたことになっていたからだ。
お城では少し前、人員の補強が進められていた。
それは、身分制度の廃止に向けて、新たな勢力を築く必要があったからだ。
そしてこの動きは、後に控える「対縁の儀」の準備でもあり、身分制度の廃止へと至る布石でもあった。
栄善さんの意志のもと、人柄や才能を重視した新たな人材の登用が進められ、それぞれの班の奉行たちが選定を担っていた。
その中で加わったのが、新人の雲祈さん、大納さん、蒼月さんの三人だった。
春風さんと柚寧さんは奉行らしくその役目を着実に果たしていたのに対し、時雨さんだけは相変わらず飲んだくれていて、ほとんど人材を探していなかった。
そして最終的に見つけてきたのが、時雨さんの行きつけの飲み屋で働き始めていた綿花だった。
しかもそのときも、かなり酔っていたらしい。
この世界に来た日に、時雨さんが言った言葉をふと思い出す。
『……はっ。救いにだと?何も問題ねぇのに、何を救うってんだよ』
思い出すだけで、また腹が立ってくる。
「問題はあんたなんだよ、この酔っ払いゴリラめー!きぃぃぃぃ!」
「なんや歌羽、気合い入っとるやんけ!帰ったら時雨のやつ、しばいたってな!」
「ぷはははは〜!歌羽、泣いたり怒ったりで面白すぎなんだけど!」
おっと、いかんいかん。
また我を忘れるところであった。
煎承さんがすっと差し出してくれた温かい煎茶を口に含むと、胸の奥までゆっくりと熱が広がる。そのぬくもりに、ようやく心が落ち着いた。
「煎承さん、ありがとうございましたー!」
「また来てや〜ぁ!」
煎承さんに見送られ、私と哀伝さんはお城へと戻っていく。




