第11話 福紙堂物語―笑いと涙の町―
【第三部】推しは私が救うー終ー
私たちは、この国の紙屋、諭作さんが営むお店、福紙堂へと来ていた。
「諭作さん、こんにちはー!任務へとやって参りましたー!」
「おやっ、これは歌羽様に哀伝様。いつもご苦労様ですな」
にっこりと笑って迎えてくれる諭作さん。
その佇まいには、どこか品のある落ち着いた空気が漂っている。
「あれ〜、これもしかして新しい文具?諭作、これすごくいいじゃん!」
「ほほほ。そうなのですよ。以前、哀伝様にいただいた案をもとに、思い切って仕入れてみました。そう言っていただけるとは光栄ですな」
……哀伝さんって、おちゃらけてる割に、交易の仕事はやけにしっかりしてるんだよな。さすがだわ、この人。
哀伝さんは、普段の軽さとは裏腹に、交易の場では別人のように的確に動く。
そして──アニメで描かれる未来では、栄善さんの死後、その遺志を継ぎ、桂ノ国を治める殿となっていく人物だ。
そして間もなく、この先の物語で、哀伝さんは朽葉ノ国に頼らない新たな内陸国とのお米の交易について、交渉を進めていくことになる。
その交易案を提案したのは、後に正室となる杏歌さんだった。
杏歌さんは幼い頃から外交の道を志し、学び続けてきた才女でもある。
その相手国は、一筋縄ではいかないと言われる難しい国だ。
本来、その交渉は「対縁の儀」──許嫁同士が顔を合わせ、縁を結ぶに値するかを見極める場──までに成立させる予定だった。
栄善さんは婚約を断ち切るため、事前に契約を成立させることを望んでいたが、それは叶わなかった。
それでも哀伝さんは言っていた。
「最終的には、必ず僕が掴んでみせる」と。
その言葉通り、栄善さん亡きあと、その交易は哀伝さんの手で実現する。
普段は軽口ばかり叩く哀伝さんだが、町の人とのやり取りでは驚くほど誠実で、信頼も厚い。
そうした積み重ねが、次の時代を担う立場へと哀伝さんを押し上げていった。
「新しい物を取り入れると、町の人たちも見ていて楽しくなるからね。定期的に入れた方が、お客さんの出入りも増えるかもしれない。また様子を見ながら整えていこうね」
「えぇ、そうでございますね。またよろしくお願いしますぞ」
うん、うん。
確かに新作が定期的に入ってるお店って、つい足を運んじゃうんだよね。
さすが哀伝さん、商人の息子だわ。
そんなことを思いながら、店内を見渡す。
色とりどりの紙や筆、文具が所々に並び、福紙堂の中は静かに賑わっていた。
諭作さんのお店も煎承さんのお店も、町の人たちが気軽に立ち寄れる紙屋だ。
けれど奉書紙だけは例外で、栄善さんと茶々蔵さんに限って購入が許されているという決まりがある。
そしてここは昔──栄善さんとお母さんがよく通っていたお店でもある。
栄善さんのお母さんは、貧しい暮らしの中でも、せめて将来自立できるようにと、このお店で学びに必要な道具を少しずつ揃えていたのだという。
実は、栄善さんに身寄りがないことを茶々蔵さんへ伝えたのは、諭作さんだった。
町の人たちからその知らせを聞いた諭作さんが、長年の付き合いのある茶々蔵さんへと静かに伝えたのだという。
その知らせをきっかけに、栄善さんはこのお城へ迎え入れられることになる。
その頃、次期殿になるはずだった蛍火さんが亡くなったばかりだった──思い出すだけで、今も胸の奥がじわりと熱くなる。
「……ううっ、あー!!」
「歌羽、また鼻水垂れてるよ?」
「歌羽様!どうなさいましたか!」
泣き続ける私と、いつも通り冷静な哀伝さん。
そして、慌てふためく諭作さん。
そんな三人で、どたばたしながらも任務はどうにか果たしていった。




