第97話 私が仙女になれない理由
「パパ〜!黎明ものすごく頑張ったんだよ!」
私は使ってしまった霊水を補充するために父が住む南山まで来ていた。
「琅宋の力を封じたのはいいけど、あれ何があるとすぐにタガが外れそうなんだけど、何かいい案ない?」
結局琅宋に何かをしたと思われる芙蓉様が亡くなってしまったので、まさに死人に口なし状態になってしまったのだ。
意識がない琅宋に暗示を掛けることで、一旦事なきを得たという感じだ。
だけど、何かの拍子に力を使ってしまうと、暴走することになってしまう。
一応、意識を取り戻した琅宋の許可を得て、芙蓉様の部屋で何か琅宋に施されたものが何か痕跡がないのかと調べてみたものの、術師に関するものなど何一つなかったのだ。
きっと芙蓉様にとって全てをなし終え、結果を待つだけだったのだろう。
「うーん? それは私よりも玉瑛に聞いたほうがいいだろうね」
父の膝の上で泣き言をいう私の頭を撫でてくれる父は、母を頼るほうがいいという答えだった。
……私は母にどう言えばいいのかわからないから、今は会う気になれない。
「それで、瑞曉の問題は全部解決したでいいのかな?」
父が珍しく私の仕事のことについて聞いていた。
……はっ! 今思えばタダ働きじゃない!
芙蓉様からの依頼だったのに、その依頼者の芙蓉様が亡くなってしまわれた。
私が得る報酬がもらえないということに!
「お金をもらっていない!」
「黎明、物欲が酷いぞ」
白が仙桃をむしゃむしゃと食べながら、言ってきた。
しかし、下界で生活するのは何かとお金が必要なのだ。
「黎明。解決できていないことがあるのではないのかな?」
「え?」
何を言っているのだろうと、父を見上げる。くるりと上を向いたから、父に膝枕をしてもらっている感じになっていた。
「全部解決できていないよね?」
父の言葉に血の気が引いていく。まさか、あれのことを言っているわけじゃないよね?
「パパ、めっちゃ臭い物体のことを言っていないよね?」
「うーん?臭いかどうかはわからないけど、黎明は気づいてしまったんだよね?あの存在に」
まさか父から饕餮のことを解決するように言われるとは思っていなかった。
「それ、私が死ぬよ。あれ、四凶だよ。もう一匹四凶がいるんだよ。絶対に死ぬよ」
「窮奇を連れている黎明なら大丈夫だよ」
いや、白は手伝ってくれることと、絶対に手を出さないことがある。
おそらく饕餮と戦うとなると、今回のように手を出さずに見守るだけになると思う。
「それに、それを解決すると皇帝の問題も解決するかもしれないね」
「え?どういうこと?」
意味がわからないと眉を潜めていると、父に抱きかかえられて四阿の端に連れてこられてしまった。
まさか!
「そろそろ休暇は終わりだよ」
「パパ!それに手を出すと、正義感丸出しの偽善者がしゃしゃり出てくるんだよ!それだと黎明は仙人になれなくなっちゃう!」
「黎明はまだ修行が足りないということだね。善とは何か、全てはその先にあるものだよ」
そう言って父は私を手放した。
「待って!私の仙桃が!」
今回も持って帰っていいという仙桃をもらっていないよ!
そしてドボンと泉の中に沈んでいく私。
「仙桃がないと私は何を楽しみに生きていけばいいの!」
と叫んでいると、ポスっと何かに受け止められる感覚が……何故か私の視界には、困惑の色を浮かべた金色の瞳が映っている。
「黎明。おかえり」
そう、皇帝である琅宋が私の目の前にいるのだ。というか、受け止められていた。
何故に皇帝がいる部屋に落とされたのだろう?
というか、なんかすだれがチラチラ視界に入ってウザい。
確か皇帝が被るものにそんなものがあったよね。
「天行が皇帝の力が安定するまで、側にいろって言っていたぞ」
口に籠を咥えた白虎が空間から現れる。
すると、悲鳴のようなものが湧き立ってきた。
何が起こったのかと視線を悲鳴が上がっているほうにむけると、下段に並んでいる人人人……。
私はギギギギと首を動かし琅宋の姿を再び見る。
これは皇帝の正装の姿ではないのか。
なんていうところに落としたの!
「パパの馬鹿!なんでここに落としたの!」
ワザめく広間に私の嘆きの声が響き渡る。
「君が中途半端にして出ていったからじゃないかな?」
そこにイラッとする声が聞こえてきた。
結局何も手伝ってくれなかった炎駒。
「僕を巻き込んで放置とか酷いよね」
「いや、何もしなかったじゃない」
そして段々とざわめきが大きくなる。
『麒麟様がおいでになった』とか
『麒麟様が陛下の隣に』とか言葉が聞こえてくる。
琅宋も一瞬驚いたように目を見開いたけど、炎駒に視線を向けることはなかった。
「此度の旬奴の討伐、ご苦労だった。霍将軍には後ほど褒美を与える」
ん? 霍将軍?
確か、北の蛮族の討伐を命じられたと聞いたけど戻ってきたの?
視線を巡らすと、下段に礼の姿をとった霍将軍の姿があった。
あ、もしかして討伐報告が行われていたところだったのだろうか。
「これをもって閉廷する」
琅宋は私を抱えたまま立ち上がった。いや、私は置いていっていいよ。
サクサクと移動する琅宋。その背後からついてくる異形たち。
白はわかるのだけど、何故に炎駒がついてくるわけ?
もしかして、これは巻き込んだ嫌がらせなのだろうか。
「お祖母様は病死ということにした」
どこかわからない部屋に入った途端に琅宋が口を開いた。芙蓉様の表向きの死のことだ。
まさか、蘇った老帝に殺されたとか言えないものね。
「葬儀は全て終わらせた。壊れた空の棺も元の場所に戻しておいた」
老帝の棺を陵墓に戻したということだね。あと琅宋の部屋も知らぬ内に直されているのだろう。
「それから黎明の部屋は用意させる」
「は?」
「お父上から俺の側にいるように言われたのだろう?」
「……力の制御ができていないからね」
琅宋には、芙蓉様に力が暴走するように術を施されているとは言っていない。
何故なら、それも暗示に関わってくるからだ。力を使えば暴走するとは言わずに、言い方を変えて制御ができていないと言っている。
意味は同じだが、いずれは制御できるという認識をさせている。
嘘と本当を混ぜ込むことで、真実味を帯びさせるやり方だ。
「黎明。霍道士としてここに住まうといい。俺の皇妃でもいいがな」
「はははは、取り敢えず三食昼寝付きで宜しく」
こうして、後宮内で起こった事件は幕を閉じ、この地下に封じられた異形と対峙するための物語が始まるのだった。
だが、それを語るのはまたの機会に。
道士の私が仙女になれない理由。それは、紫炎帝の力が暴走するように呪われた皇帝のせいだったのだった。
善の道が遠すぎるんじゃないの!
約一年間お付き合いいただきありがとうございました。
題名の回収までやっと行き着きました。
人気の後宮ものでも三国志ものでもない中華ファンタジーに挑戦してみて、色々思うことがありましたが、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
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