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道士の私が仙女になれない理由〜呪われた皇帝と道士の私〜  作者: 白雲八鈴


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第96話 呪われた皇帝

「僕はこのことには手を出さないよ」


 炎駒(えんく)は結界ギリギリまで下がってしまった。

 ちょっとせっかく巻き込んだのに、それはないんじゃない!


 絶対に渾敦(こんとん)の力のほうが上だと思うのに!


「ちっ!」


 思わず舌打ちがでてしまった。私は札を取り出して、一気に距離を詰める。

 あの屍鬼の動きを止めることが最優先だ。


 そう、私の力では霍家所有の退魔刀を振れない。

 だから、異様に金色の瞳に光が宿った琅宋(ろうそう)頼みだ。


 そう、白もこういうときは手伝ってくれない。これは私のやるべきことだと言ってだ。


 護衛なら、こういうときこそ役に立ってほしいところなのに。


 私の目の前に剣の鋒が迫りくる。


「黎明!」

「私は大丈夫だからこれを確実に倒して!」


 床に滑るように身を屈め、剣を避ける。が、身体が蹴り上げられる。

 いや、床を蹴って攻撃を避けたが、遠ざかってしまった。


 屍鬼に近づくことすらままならない。


 床に着地する寸前に緑の蔦を出して絡め取ろうとするも、全て切り刻まれてしまった。


 その隙を狙って琅宋(ろうそう)が背後から刀を振るうも、受け止め弾き返されてしまった。


 やはり、一国を長年治めてきた皇帝というだけあって強い。

 そもそも退魔師として経験を積んできても、術が相手に届かなければ意味がない。


 屍鬼の動きを止めるか……。


 私はひょうたんを取り出し、上に収まっている蓋を引っこ抜く。そして、下に向けて中身を床に落とした。


 ドボドボとひょうたんから落ちる水。


 片手で持てるほどのひょうたんの量を超えた水が落ちていく。

 床に溜まっていく澄んだ水。


 父が住む南山の湧き水を汲んできたものだ。


「一碧万頃(いっぺきばんけい)の広がる霊水。季節外れの凍風(とうふう)」


 室内に凍えるような風が吹き付ける。


「凍りつくような霜晨(そうしん)が大地を覆い、世界を凍りつかせる楔を穿て!」


 水が凍り、刺々しい楔が突き出ていく。


「このような小細工など!」


 氷の楔から逃れようとする屍鬼に向かって、再び距離を詰め、額に札を張る。


 少しでも動きを止められればいい。それに霊山の霊水だ。

 簡単には逃れられない。


「琅宋(ろうそう)!」


 動きを止めた屍鬼に刀を振り下ろす琅宋(ろうそう)。背後から肩から腰にかけて切り下ろした。


「うがっ!」


 切られるも元は死体なので血などでることはない。


「首だよ、首」


 琅宋(ろうそう)に首を切り落とすようにいう。

 すると、すぱんと音がしたと思うと、炎駒(えんく)の側に何かが飛んでいった。


 何が起こったのかと視線を向けると、札が張ってある頭部が凍った床に転がっていた。


 目に見えなかった。


 別の札を取り出して、その落ちた頭部に貼り付けた。


「昇華」


 すると、もろもろと黒い灰になって崩れていく。

 魂の昇華だ。その執念ごと全てを無に帰す。

 身体のほうに視線をむけると、同じように黒い灰になって崩れていっていた。


 はぁ、始末できてよかった。それに死体とは言え、私が元皇帝に剣を向けなくてよかった。


 皇帝殺しとかへんな言いがかりをつけられたらたまったものではない。


 視線を上げれば、私の目の前には赤い髪の炎駒(えんく)がいる。

 普通なら、屍鬼を倒したことに何かしら言ってきそうなのだけど、ニヤニヤした笑みを浮かべて、とある方向に視線が固定されていた。


 え?なに?


 その視線を追うように首を向ければ、床に視線を落としたまま動かない琅宋(ろうそう)の姿があった。


 そして、ドクンとなにかが鼓動する音が駆け抜ける。

 いや、空気が震えている。


 まるで、何かに恐怖しているように震えているのだ。


 ヒューという空気が抜けるような音が聞こえたかと思うと、悪寒がして炎駒(えんく)のほうに一歩移動した。


 カツンという音と共に私の張った結界が瓦解する。

 私のすぐ横には鈍色の刀身が存在していた。


 何が起こったのか頭では理解できない。


 だけど、私の目と鼻の先には異様に光を帯びた金色の瞳がある。


 ……暴走だ。力の暴走。


 紫炎帝の血族では起こりうる、武神と言われた祖の力を強く受け継ぎ、理性では力を制御できなくなることだ。


 祖は元々は天界にいた者。

 扱いかたを間違えば、その力は暴走する。


 しかしだ。たかが屍鬼ごとき相手に暴走するほど力を出すなんてありえない。

 これが、地下にいる饕餮(とうてつ)相手なら私も納得しよう。


 ということはだ。

 これは、琅宋(ろうそう)に何か仕掛けていたのかと、私はもう事切れた芙蓉様を視界に収める。


 皇帝である琅宋(ろうそう)にまとわりつく呪。


 満足そうな死に顔に、いったい何を琅宋(ろうそう)に施したのだと、心の中で悪態をついたのだった。


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