第94話 屍鬼
「高美人の蘇りの件も芙蓉様が関わっておいでですよね」
「え?」
私の質問に、琅宋が思ってもいなかったと声を上げる。
「白い蝶。それが、それだけが、高美人が蘇ったという理由でした。もし、それを作り出せるものが他にいるのであれば、高美人を偽装できます」
あの陵墓の場所は馬車で半日、夜中に馬車を走らせば翌日には首都に戻れる。
だが、普通は人が寝静まった時間に、町の外門や関所の門は開けられない。
しかし、皇妃という立場を利用すれば、その問題は解決できる。
皇帝の指示だと。
皇帝もきっと芙蓉様の行動には否定はしなかったはずだ。
何故なら、芙蓉様に父親から与えられた命令は、皇帝を不老不死にすることだったはずだからだ。
そして、今もその命令は生きている。
そうでなければ、芙蓉様はこの場にはいない。
私は二度目に許夫人に会ったときに確認をした。今も白い蝶を見るのかと。
その答えは三年前から見ていないだった。
三年前と言えば丁度、武官の政頼が先代皇帝である琅景を守り、その後皇帝は風邪を患って亡くなったという年だ。
おそらく、失敗して次の手を打つために、皇帝自身の身体を魂の器にする必要があった。
これが、ここに先々代の皇帝の木棺がある理由につながる。
あの陵墓の途中にあった五福捧寿を刻んだのは皇帝の不老不死を願って刻まれたことに間違いはなかったということ。
そして、そこに流れていたはずの龍脈だ。
「それにしても芙蓉様、かなり無茶をされましたね。龍脈の流れを変えるなんて」
「龍脈? 何のことですか?」
シラを切る芙蓉様。
しかし、この木棺と龍脈はセットのはずだ。
でないと魂の保管には使えない。
死体が腐敗し形を保てなくからだ。
だけど、芙蓉様は実質この国のトップだ。大掛かりな国家事業にしてしまえば、龍脈を強引に変えることも不可能ではない。
そう、龍脈のとおり道を封術石で塞げばいい。光すらも通さないという黒水晶を用いればいいのだ。
ただ、これは聞いた話なので、龍脈がそれによって本当に流れを変えることができるのかは、私は知らない。
ただ、陵墓から東には龍脈が流れていないという事実と、皇城に龍脈が流れているという事実のみで私はカマをかけた。
芙蓉様は否定するだろう。けれど、私の下の木棺が事実だと証明している。
「この中身の姿を見ればいい。きっと生前の皇帝の姿そのままなのだろうから」
私は琅宋に視線を向ける。
困惑しているものの、目の前にいる芙蓉様の背中を睨みつけるように鋭い視線を向けている。
人が、己が持つ以上の力を得るきっかけは、様々だ。
琅宋のそれは、何の心情がきっかけなのかな?
金色の瞳が異様に光っている。
そして内側に渦巻く力の波。
やはり思っていたとおり、琅宋が力の覚醒をすれば、身の内に抱えている呪いは吹っ飛んでしまった。
「答え合わせといきましょうか」
私は木棺に腰を下ろしたまま、足を上げる。それをそのまま勢いよく下にふりおろした。
「黎明!」
先程まで木棺の蓋を開けるように言っていた芙蓉様が止めるように手を伸ばしてくる。
しかし、私が木棺を叩き割るほうが早い。
そしてそのまま、中にあるモノを蹴り上げるように体ごと回転させて、中にあるモノを巻き上げる。
空中に飛び上がる豪華な衣装を身に着けた屍鬼。その姿は老人の姿というよりも、青年の姿をしていた。
この姿は予想外だった。
まさか、肉体の若返りの効果が龍脈にあったなんて……。
「朔様!」
嬉しそうな声を上げる芙蓉様。
私を止めようと出していた手を、両手を広げて屍鬼に向かって差し出していた。
「芙蓉よ。ここまでよくやった」
はっ! これはヤバい。
腰にある刀を抜き、回転の勢いのまま屍鬼に向かって振り下ろす。
「うぐっ」
「余はそなたの働きに、一定の評価はしようぞ」
芙蓉様の胸を貫く太い腕。
そして私の振り下ろす刀の鋒が、私の頬をかすめて飛んでいく。
私の視線は手にする刀を見下ろした。肉体が脆い屍鬼の肩から心臓に向けて、切り裂くはずの刀は、肩に食い込むことも出来ずに、折れていたのだ。
「道士の娘よ。そなたの術のお陰で、余の肉体への魂の定着が完了しぞ。残念であったな」
これは……これは……第三の選択肢があったということか!
龍脈によって己の肉体を若返らせて、屍鬼として蘇るという第三の選択肢が!




