第91話 外法でも正しく使うこと
「まず聞きたいのは高美人の死に関わりがある?」
「否」
「そこはどうでも良いであろう!」
王離、うるさい。
少し黙っていてほしい。
「では高美人を死に追いやった者は誰?」
「さて、高家の思惑は余はわからぬゆえ」
これは、おそらく嘘だ。
はぁ、本当なら真実のみを話すはずだったのに、やり方が違うかったから駄目だったのかなぁ。
これ、本当は頭蓋骨を使うのだけど、そんなものはこの皇城の中に持って入ろうとすると止められるよね……あ、木棺の中の遺骸に喋らせればよかった?
本人の身体だだと思うし。
でも、今更だし……。
「では、何のためにこのようなことをしたの?」
「不老の肉体を得るためである」
「はぁぁぁぁぁぁ」
そうだろうと思った。
これはあれか。紫炎帝の血筋を持つ者の力を得ようと考えた老帝ということか。
「この棺をここに持ってきたのは誰?」
「知らぬ」
「貴方に中途半端な返魂の術をかけたのは誰?」
「知らぬ」
「誰の肉体に寄生しようとしていた」
「寄生ではない、余の肉体にするためである」
「だから誰の?」
「景である」
……誰だよ。
まぁ、背後の息を呑む感じから、先代の皇帝なんだろうね。
確か琅景という名だったね。
これが、先代の皇帝の死の原因。いや、要因だね。
羽が生えたヘビが、この皇帝のなんらかの呪が込められていたのだろう。
それが失敗して先代皇帝は、不老の肉体になる資格を失ったと思われる。
だから、用済みと病を装って殺されたのだろう。どうも先代の皇帝の死因が、ただの風邪をこじらせたというのが、三ヶ月前から後宮内で広まった死因と同じ。そして、二十年前にも同じようなことで、皇子と妃たちが死んでいったのだ。
風邪などよくある病なので、疑問にも思われないけど、相手が皇帝というのがおかしいところだね。
侍医がついているはずだろうに。
準備万端でことを成そうとして、そこを邪魔された。なので、腹いせのように武官の政頼は家人までもが殺されたということなのだろう。
で、肉体の憑依が失敗したから、建て替えという口実で、持ってこられた木棺。
「それでこの木箱の中は何?」
「知らぬ」
「策は成したかどうかは?」
「貴様のせいでやり直しである」
「そう、では貴方が取り憑いていた人は誰?」
「それは先程答えたはず」
「もう一度」
「景である」
あ、これちょっとズレているんだ。
知っているようで知っていない。
「では最期に、不老の術を行った人と、策を考えた人は同じ?」
「否」
この話はそもそも年月が経ちすぎているというのが問題なんだよね。
不老の術を行った者と老帝に策を進言した者が同じなら、もう地仙が関わっているのかなと思うレベルなのだけど。
違うとなると、これはかなり嫌な流れになる。
そして肉体が崩れていく梟鳥。やっぱり肉体があると術が強すぎてもたなかったか。
外法だものね。
私は異臭を放ちながら崩れる梟鳥を目にしたあと、木棺が開かないように、蓋との継ぎ目に札を貼っていく。
本当に面倒くさい。この術を施行した人は意地悪だよね。
私は振り返って、伏している琅宋を見下ろす。
「はい。これで何者かになるのは防いだよ。あとは、これを元のところにでも戻しておけばいいんじゃない?」
「霍道士よ。中から音がしだしたが?」
王離が恐る恐る頭を上げて、木棺を見ている。それは仕方がないよ。
「なんというか。妄執というのが強すぎて鬼になりかけているからね。できるのは封じるか。消滅させるかのどちらかなのだけど、どうする?」
不老不死というものを得ようとした老帝の妄執が凄まじいということだね。
ただ、今では血が薄まった天界の武神の力では簡単に不老不死には至らない。
「黎明。何故、正確な情報を得ようとしなかった」
床に視線を固定したままの琅宋が低い声で聞いてきた。
ことを成そうとした人物の名を聞こうとしなかったことか。
「一つは、老帝が琅宋を父親の琅景と勘違いしていたことだね」
「朔栄帝と言い換えなさい!」
王離に怒られてしまった。私にとって先々代の皇帝が誰かなんて関係ないし……いや、関係あるのかも?
「策を進言した者と、実行した者が違うことは、おそらく皇帝に進言した者は既に鬼籍に入っているということなんだろうね。でも術を施した者は死後のため知らないということ」
「知らないのであれば、同じということもありえるはずである」
王離の言葉に首を振る。いや、そうなるとややこしいから除外したいが本音だ。
「では、この件には地仙が関わっていることになる。この話は霍家に皇妃を出すように誰かが進言したということを言っている。芙蓉様が皇城に輿入れする前からの話なんだよ」
私の言葉に息を呑む音が、木棺がカリカリと鳴る音に混じって聞こえてきたのだった。




