第92話 二つの選択
「結論から言えば、紫炎帝の力を得たかったということだね」
私がえっへんという感じで言う。すると横から頭を叩かれた。
白の尻尾でだ。
「なに?」
「飛躍しすぎだ」
視線を前に向けると、何を言っているんだというオッサンたちの視線を受けた。
そして琅宋は何かを考え込んでいるようだね。
私はカリカリと音が鳴っている箱の上に腰を下ろす。
「おい!」
「こういう権力者って、不老不死を望むじゃない?」
「不敬である!」
「でも、仙になるにしても素質がなければ、なれないじゃない?」
「降りろと言っている!」
「おっさん、うるさい。蓋が開きそうだから、重しになっているのだけど?これ解放していいの? また琅宋に取り憑くかもよ?」
「うぐっ……」
この状態で先程のように琅宋に取り憑くのは難しいだろうけどね。己の死体に入ってしまったことだし。
「で、その不老不死になるにはどうするのか」
相変わらずカリカリと音がする部屋の中で、私は続きを話す。
「仙になるか、人ではないモノになるか、大きくその二択になるよね」
ただ、仙になるには、大きな壁がぶち当たる。まずは仙骨を持っているか。普通の人はこれを持っていないため、この時点で資格はない。
だけど、二つ目の選択はできる。
「高家。おそらく彼らは人外としての不老不死を目指していたのだと思う。その痕跡が地下に見られたからね。あ、地下の調査はどうだった?」
「昨日の今日だ。まだ調査中だ」
琅宋の下には、結果が届けられていないということだね。
「そもそも高家の妃が多いことが疑問だったのだけど、皇帝の願いを叶えるためなら、納得だよね」
「ちょっと待て、お主は霍家の話をしていたではないか」
「おっさん、うるさいって言ったはずだけど?それに高家のことは初めから出てきたことじゃない。高美人。高皇妃。あと、誰だっけ? もう一人いたよね?」
ただ、この高家の中心にいた人物がわからないのだ。
おそらくその者が琅宋の母親を屍鬼にしたのだと思うのだけど。
これは、霍家への牽制だったはずなんだけど……消された可能性もある。
「だけど、完璧じゃなかった。猫鬼にしても屍鬼にしても、不老不死というには微妙だった」
結局、それは老帝の望む形にはならなかったということだ。
あの永寿宮の地下が誰も知らなかったのは、皇帝の意によって作られたものだったからだろう。
知っているものは、排除された可能性が高い。
「で、もう一つの仙になる方法だ。これの重要なところは魂の定着なんだよね」
「……魂の定着」
琅宋は一番実感していると思う。現にこのカリカリとうるさい物体に肉体を奪われていたのだから。
「定着というのを考えると、血族がいいよね。だから、霍家から皇妃を選んだ。仙として不老不死を得る方法と、人外として不老不死を得る方法を同時に勧めていたということだね」
まぁ、ここまでは永寿宮で持ち出した書物に書かれていた。あの中に、高美人の日記が混じっていたのだ。
「でも、人外になる実験は何かと実験体が必要だったみたいでね。皇帝の血筋の者が必要だった」
「まさか、それが二十年前の病が原因だと言わないよな」
「そうだよ。琅宋。多くの皇子の死は老帝の命令だったらしいよ」
私はそう言って一冊の書物を差し出す。高美人の日記だ。
「その主犯とされた高美人は、お腹の中に子供がいた。まぁ、それを母体ごと実験体にしようとしたらしいのだけど、逃げようとした高美人が結局命を落としたというところだろうね」
高美人の自殺は違っていた。その日記の最後には、逃亡計画がねられており、新月の夜に実行すると締められていた。
あの助けてという言葉は、高美人の本当の悲鳴の言葉だったということだ。
だから私は老帝に確認したのだ。高美人の死に関わりがあるのかと。
答えは否。
老帝は高美人の死には関わっておらず、その死に関わっていたのは別の者だと答えたのだ。
高美人の死は老帝は命じていないと。
「でも結局、人外での不老不死よりも、霍家の血をもつ皇子の身体を使う計画が進められたということだね」
そう、老帝はどちらかと言えば、仙になるほうを望んでいたということだ。
だが、それは老帝の死というものが必要であり、魂の分離と保管という不確定なものに頼らなければならないという事実がのしかかってくるのだ。
「でも、一度目は失敗した。武官の政頼の手によってだ。それは先代の皇帝もその武官を重宝するだろうね」
「黎明、それだと父上は知っていたということになる」
「多分、高皇妃から聞いていたと思うよ。高家のやっていたことを知っていたと思うし」
「ちょっと待て、おかしなことを言っておるぞ。朔栄帝様は高家の企みなど知らぬとおっしゃっていた。朔栄帝様が命じたということが矛盾しておるではないか!」
だから、おっさん。話を折らないでほしいのだけど。
いや、それは多分地下にいる獣臭が酷いやつのことを言っているのだと思う。
高家が崇めている者の思惑というものだろう。




