第89話 朝餉の時間はゆっくりと過ごしたい
ザワザワという多くの人が動き出す音で目が覚めた。うるさい。
大きなもふもふにしがみつく。
あれから、だだを捏ねたものの、結局皇城に連れてこられてしまった。
そして、皇帝がプライベートを過ごす建物の一室に押し込められたのだ。
一応客人扱いらしいけど、たぶん駄目なやつだと思う。というか帰りたい。
いや、昼まで寝ていよう。
「黎明、鳥が抜け出しそうだぞ」
「え? 札が剥がれた?」
白の指摘にムクリと起き上がる。
床を見るとツタにぐるぐる巻きにされた何かがツタを噛み切っているところだった。
小さなくちばしでいくつかのツタが噛み切られていたので、抜け出すのも時間の問題だった。
よくもまぁ、こんな姿になっても抵抗しているものだね。
しかし動かないように札を貼っていたのだけど、おかしいなぁ。
「ねぇ、誰か入ってきた?」
この梟鳥は死んでいたので、動くものじゃない。それに琅宋の中にいたものを食わせたので、現状としては殭屍に近い存在になっている。
だから、封じる札を貼っていたのに、その札が剥がれて床に落ちていた。
これは寝ている私に気づかれないように、入って来たものがいるということだ。
「女が入ってきたな」
「それは起こしてよ」
「俺は黎明の護衛で、その鳥の護衛じゃない」
はぁ、白のこういう線引はきっちりしすぎていると思う。
もし、その侵入してきた女性が私に害意があれば、牙を向いたのだろうけど、部屋に侵入してきたぐらいじゃ動かない。
私は寝台から降りて、動いているツタの塊に札を貼る。ピタリと動きを止める中身。
本当に面倒だよね。
「霍道士様。お目覚めでございますか?」
そして部屋の外から掛けられた声にうなだれる。
二度寝をしようと思っていたのに……。
「黎明。朝から豪勢な食事だな」
うきうきとした感じの白猫は卓の上に載って鶏肉の料理にかぶりついていた。
白は嬉しそうだよね。
私は白の作ってくれた素朴な料理のほうがいいよ。
朝から私の目の前に並べられた豪華な食事にうなだれる。いや、目の前のごきげんな琅宋の姿にだ。
なぜ、朝餉を皇帝と一緒にとらないと駄目なのだろう?
客人は客人らしく別室でいいと思う。
そう、皇帝と朝餉をとるにあたり、私は朝から着慣れない、総刺繍の襦裙を着せられていた。
こういう衣服は着慣れない。
そして、周りにはこんなに人が必要? というぐらい壁際に人が控えている。
視線がとてつもなく痛い。
「よく眠れたか? 霍道士」
琅宋も皇帝仕様なので、気軽に話せない感がある。これはいつ切り出せばいいのだろう?
いや、今牽制しておくべきだよね。
「はい。しかし、私の部屋に侵入して、封じているものの封印を解いた者がいるようです。このようなことをされると、陛下のご意向を無碍にするようですが、早々に立ち去りたいかと……」
「誰だ?」
私の帰りたいアピールをぶった切る琅宋。
最期まで言わせてよ。
「私は存じません」
これは本当に知らない。私は寝ていたからね。
「白殿」
私が答えないので、琅宋は白から聞き出そうとした。
「芙蓉の孫よ。それよりも、別のことを調べるほうが先だろう。人の命令しか聞けぬ下っ端を切っても意味がない」
白は、侵入してきた女性を問題視するより、その者に命じたものを罰するように示唆した。
それは最もだね。
「それは王離に任せている。後ほど王離と共に紫辰殿の中を好きなように見て回ってよい。どこに入ろうが壊そうが咎めはせぬ」
皇帝の言葉にざわめきが立ち上る。だけど、琅宋の周りへの視線にすぐに収まった。
ああ、これは私が好き勝手動いていても、それは皇帝が許可したことだと、周知をしたのだ。
こういうのって面倒だよね。
「ありがとうございます」
しかしこれで私が建物内で色々探っていても、皇帝の許可があるのでと言い張れるのだ。
「霍道士に、早急の解決を求めるためだ」
そしてなんとも言えない雰囲気の中、朝餉の時間が過ぎていったのだった。
いや、本当にお前誰だよって感じだよね。
「霍道士。まず行きたいところはどこであるか?」
厳ついおっさんが、私を見下ろしながら聞いてきた。私が行きたいところは一つだ。
「帰りたいね」
「それは却下である。まずは、紫辰殿の中を案内しよう。ついてくるがよい」
そう言って王離は私に背を向けた。
案内とかはいいよ。長居するつもりはないから。
「霍道士様。王将軍に置いていかれてしまいますが」
私が動かないことに、声をかけてきた男性がいる。王離の部下だと紹介された人だ。
色々粗探しをするのに力仕事要員を用意してくれたらしい。
それも三人もいる。
「え? 別に私は案内は望んでいないもの」
その言葉に、先を行っていた王離の足がピタリと止まり、こちらを振り返った。
「霍道士よ。気になるところがあるなら、さっさと言うがよい」
「取り敢えず、この鳥を尋問したいんだよね。以前言っていた人の出入りが制限されたところでさぁ」
私はずっと持ち歩いている、怪しい札が貼ってあるツタの塊を持ち上げたのだった。




