第83話 永寿宮の住人
「確かにわずかにですが、高皇妃が好まれていたという香の匂いがしますが、それだけではなんとも……」
それはわかっている。それ以外の証拠品が手に入らなかったのだ。
一番欲しい情報もだ。
「まぁ、それはどうしようもないことなので、議論はしないよ。問題は地下なんだよ」
「地下があるのですか?」
ん? 地下があることを知らない? 管理官が?
でも隠されたような感じではなく、堂々と地下への階段があった。
もしかして、封鎖されたあとに作られた?
でも誰があんな広い空間をバレずに作れるというのだろう。絶対に地下を掘った土が出るはずなのに。
いや、あの広さは建物を建てたときじゃないと無理だと思う。上の建物の柱が地下にも伸びている感じだったもの。
ということは、忘れられていると考えたほうがいいね。
「そう、その地下には牢がたくさんあって、何かしらの妖魔の実験が行われていたみたい」
「この後宮でですか?」
「そうだよね? 不思議だよね?」
そもそも人の出入りが制限されている空間に、どうやって妖魔を運び込んだのかという話だ。
普通ではないことが起きていたということだ。
「その地下の残骸の処分をお願いしたいかな? できれば専門の人をつけたほうがいいね」
そう言えば、誰があの宮を封じようと言ったのだろう?
「高美人の幽霊がでると言って封じるように命じたのは先々代の皇帝?」
「いいえ、太皇太后様です」
芙蓉様が命じたってこと? 確かに当時皇妃だった芙蓉様が後宮を管理していたというべきだから、おかしくはないか。
「それが高美人の幽霊だと確認した人はいるの?」
「さて、私は当時はまだここにはいませんでしたのでわかりませんが、その後永寿宮に入った容華からそのような報告があったと記録に残っています」
次に美人の地位についた人じゃないんだ。
「因みに誰? わからないけど、一応聞いておくよ」
「公容華です。当時の皇帝陛下の側近であらせられた公孫様の孫に当たる方です」
当然だけど、全然わからなかった。
ん? でも霍将軍が言っていた名前と違う。高美人が出たという宴席でいたのは文容華と聞いたはず。
「霍将軍から聞いた当時の容華と違う名前だけど?」
「当時の皇后様から推薦されたとありましたね」
ん? 芙蓉様が皇帝の妃に口出しを?
でも、霍家の縁者を皇帝の妃に押し上げてほしいと頼まれれば、それもありえるか。
「その公容華という妃はそれからどうなったの?」
「病に倒れて亡くなったと」
「病?」
「詳しくは書かれていませんでしたね。ただ病死と」
「……というか、よくそんなこと覚えているよね?」
「いいえ、これは陛下から永寿宮について調べるようにと命じられましたので、そのときに得た情報です」
へー、琅宋が調べるようにねぇ。
隣に座って動かなくなった琅宋を見るが、今はどうみても御札を貼った怪しい人にしか見えない。
「それで気になったことってあった?」
「それを貴女に言う必要があると?」
「ないね」
答えてくれるとは思ってなかったけど、恐らく何かあったのだろう。
何か壁ができてしまったような感じだ。
「私は後宮の問題を解決しにきただけ。宮に住み着いていた殭屍と思われるものを排除した。それで完了したのであれば、ここを去るよ」
元々は謎の死に至る病をどうにかして欲しいという要望だった。
私はその原因と思われる殭屍を排除して、宮の中にはそれ以外なにもないことを確認した。
役目を終えたのなら報酬をもらってかえっていいはずだ。
「だから、今回の報酬をくださいな」
そう言って私は両手を差し出した。
早くお金をくれと。
部外者をいつまでもここに置いておくわけにもいかないだろう。
「陛下をこのようにした者がよくいいますよね」
「いや、これは私のせいじゃなくて、母親が琅宋にかけた呪いだって言ったじゃない」
「本人は既に鬼籍に入っていますが?」
「殭屍だったけど?」
「亡くなっておいでですよね」
これは私のせいにしたいわけか。
はぁ、やっぱり都は面倒だよね。これが終わったら拠点を変えよう。
私はビリっと琅宋に貼った札を剥がす。そして、札を空中に飛ばして燃やした。
その火を見てビクッと腰を上げる管理官。
まぁ、黒い炎って怖いよね。
「黎明?」
「はい。これでいいでしょ? 少しはマシになったと思うし」
まとわりついているような呪を札で吸い取っただけで、大したことはしていない。
琅宋の呪いは根深いのだ。
霍良がなんとかしろと言っていたが、はっきり言って面倒くさい。
「黎明。母の呪いとはどういうことだ?」
あ、耳は聞こえていたのか。
って、何故に私を引き寄せるのだ! ……もしかして、帰る気満々だったのがバレてしまった?




