第82話 母親の呪いかな?
宮の外に出ると、あまりにも多くの松明が掲げられていて、一瞬私は何かしでかしたのかと焦ってしまった。
おかしい。門から入って来ないでよねと言っていたはず。
「黎明! 何故一人で入っていった」
あ、面倒なのに見つかってしまった。
琅宋が松明の奥からでてきたのだ。
いや、松明を持つ宦官たちの奥から、俺様偉いんだぜという豪華な衣装を着た皇帝が現れたのだ。
「これは皇帝陛下。わざわざお越しとは、この霍道士に御用があるのでしたらお呼び立てていただければ、馳せ参じましたものを」
私は礼の姿をとって、皇帝の前に跪く。
すると、大きなため息が聞こえてきた。
まぁ琅宋の質問には答えてはいないからね。
「霍道士。ついてくるがよい。因みに夕餉は取ったのか?」
「まだでございますが、このあと戻りますので気にされなくても構いません」
「ここに滞在するように申したはずだが」
「それは失念しておりました」
ちっ! しれっと貸家に戻ろうと思ったのに駄目らしい。
琅宋についてくるように言われたので仕方がなく、立ち上がる。
えーと確か……芙蓉様に紹介された宦官がいたはず。
「その前に、後宮の管理官の方にお話をさせていただきたいのですが」
「その者もこのあと同席させる」
ここで話すことではないと、私は渋々足を進めるが、一つ言っておくことがあるのを思い出した。
「まだ中には誰も入らないでくださいね。管理官の方にお話をしてからにしてください」
流石に妖魔の死骸があるところに普通の人は入れられない。パニックになったら困るしね。
誰か専門の者の同行が必要だと思う。
それだけを告げて、私は琅宋の後についていった。
連れてこられたところは、後宮内の誰かの執務室っぽい部屋だった。
目立つところに大きな机があり、その上には何やら書類らしきものが積み重なっている。
そして室内は贅沢にも蝋燭をふんだんにつかい、明かりに満たされていた。
やはり、金があるとこういう贅沢な使い方ができるものなのか。
そして室内の一角に置かれている長椅子に座るように促された。
「それで何故一人で入っていったのだ? それよりも何故俺のところに来なかった」
……何故に隣に座る。
普通は向かい側だよね。
「琅宋、あっちに座ろうか」
「俺は黎明の隣がいい」
「ちっ! 皇帝の威厳はどこに消えた」
先ほどまで偉そうにしていたよね。そのままでいいのだよ。そのままで。
「陛下。私がいることをお忘れではないのですか?」
後宮の管理官の人がお茶を淹れてだしてくれた。
え? こういうのは女官の人がすると思っていたのだけど?
「忘れてはいない。そこに座れ」
琅宋は偉そうに向かい側に座るように管理官の人に言う。まぁ、皇帝だから偉いのだけどね。
「それで中で何があったのだ?」
「……うーん? 白、どうお思う?」
「隠すと面倒だから全部言え」
「そうだよね。取り敢えずさぁ、あの宮の主の殭屍は琅宋の母親の高皇妃だった」
……何故に何も反応をしてくれないの?
ちらりと横を見ると、無表情の琅宋がいる。
あれ……これは、別の問題があったか。
私は懐から札を出して、サラサラと文字を書いて……
「えいっ!」
琅宋の額に貼り付けた。
「陛下!」
「あ、これ母親がかけた呪いが発動中なんだよ。母親の存在を耳にして固まっているだけだから、話を続けていいかな?」
「その前に陛下はこのままでよろしいのでしょうか?」
ああ、これね。よく殭屍に使ったりするやつね。
「邪とか呪いとか鬼とか払う効果があるのだけど、ちょっと呪われすぎているから気休め程度ね」
「呪われすぎている?」
「あ? 聞いていなかった? まぁ、皇帝だからね。色んな人の恨みを買うこともあるだろうね」
管理官にはそう言っておいていいだろうね。嘘は言っていないし。
「それで、ちょっと情報を聞き出そうとしたのだけど、術が強制解除されてしまって、チリになってしまったんだよ。一応着ていた服は持ってきた。ここで出す?」
「念のために出してください」
私は仙嚢から、高皇妃が着ていた服を取り出した。
甘い香の匂いと、埃臭さが混じる。
管理官は思わず袖口で鼻を覆い、その衣服を見た。
そんなに臭いかなぁ。
「白、そんなに臭う?」
「あやつがいた地下に比べれば、大したことないだろう」
あやつって、饕餮のことかな?
確かにあれは臭かった。
「まぁ、死臭を嗅ぎ慣れていないやつにはきついだろうな」
「それ、私が嗅ぎ慣れているって言っている?」
「妖魔の悪臭に比べたらと言いなおせばいいのか?」
近くに妖魔はいるけど……白はおひさまの匂いがしていい匂いなんだよね。
多分、臭かったら丸洗いしているだろうね。




