第78話 陛下の寝室はない
「芙蓉様。緊急招集に応じまして、この霍道士が参りました」
綺麗な衣装を身につけている女性たちの下に堂々と行く。まるで、芙蓉様から呼びつけられたように。
でも、これは嘘ではないからね。
芙蓉様から後宮の問題を解決するようにと言われたからね。
「よく来てくれましたね。霍道士」
芙蓉様も私の言葉に載ってくれました。よかった。
これで、呼んでいないと言われたら、私は本当に牢屋行きだ。
少し離れたところで礼の姿をとる。
「ご報告があります。できれば、人払いを」
「皆の者、下がりなさい」
その言葉に今まで芙蓉様の周りにいた女性たちが去っていく。
いったいお前は何者だという風な視線を私に向けながら。
「よく来てくれましたね。黎明」
芙蓉様はいつもの感じで私に声をかけてくれた。
「こちらにかけなさい」
私は勧められるまま、円卓の席につく。
「それでどうでしたか?ああ、内容はいいのですよ。黎明の感想はどうでしたか?」
「最悪です」
「まぁ! ほほほほほほほほ」
私の答えに満足そうに笑う芙蓉様。
私が何かの真実にたどりついたことがわかったらしい。
「それで、どうしますか?」
「取り敢えず、この札が何か教えてもらえないでしょうか? 赤い人に渡されたのですが」
私は先ほど炎駒から渡された札を芙蓉様に見せる。
城内の通行許可とは書かれているけど、謎の押印にその権限があるのかはわからない。
「見たことがない印ですね」
「あの馬鹿!」
「黎明。口を慎みなさい」
「申し訳ございません」
もし私がこの通行許可の札を堂々と掲げていたら、不審者で捕まっていたってことだよね。
なんという意地の悪さ。
「それで芙蓉様。お尋ねしたいことがあるのです」
「私に答えられることかしら?」
それはここでは口にできないことがあるという意味なのだろうか。
「それはわかりませんが、芙蓉様がこの後宮に来られてから、行方不明者はどれほどいましたか?」
「あら?いないという選択はないのですね」
「はい」
「そうですね。百人はくだらないというところかしらね」
百人。多いのか少ないのか。
芙蓉様がこの後宮におられる年月からすれば、大方四十年ほど。だから、年に二人か三人の行方不明者がいることになる。
しかし、千人ほど働いている中での行方不明者なので、普通にこの後宮から逃げ出したかった人も含まれていると、思っていた以上に少ないのかもしれない。
いや、年に一人、饕餮に生贄を出すとなればその数字の範囲には入ってくる。
「その行方不明者というのはどういう意味があって聞いてきたのかしら?」
私は下を指しながら言います。
「この皇城内で立入禁止の場所があるのでしたら教えて欲しいです」
「そうね。一般的に入れないのは陛下の寝室ね」
「そういうのはいいです」
芙蓉様も冗談をいうんだね。私が質問に答えないので、はぐらかされたのだろう。
「邪魔が入るかもしれませんが、お聞きになりますか?」
「それならいいわ。入れない場所は代々の皇帝が祀られている霊廟と祭事を行う正殿と陛下の寝室ね」
「最後のところは選択肢から外します」
こうなると、祭事を行う正殿というのが怪しい。手伝いと言って急遽手が空いているという理由で手伝わされたり……いや、祭事は国事なので、そんな安易なことはしないか。
そうなると霊廟なのだけど、それこそ怪しい人が近づけば目につくだろうし。
「え? これだと最後のところしか選択肢が残らないのだけど?」
いやいやいやいや。それこそありえない。
皇帝陛下の寝室の周りには護衛の武官か宦官がいるだろうし……ちょっと待て、炎駒が連れてきた人というのであれば、三択のどれでもいけてしまう可能性がある。
「うわぁ〜。これ一応全部調べたほうがいいのかなぁ」
「芙蓉よ。別の言い方をしよう。もっとも古い建物はどれだ?」
白が別の質問をしてきた。えっとそれはどういう意味なのかな?
はっ! もともとは皇帝の霊廟があったのだから、それに連なる建物があったということ?
「玄武門でしょうか」
門? それって建物として数える? いや確かに上部に建物があるけど、普通は通行するための門だから。
「あ、門ということは誰が通っても不審とは思われない?」
通行する許可さえあれば通れる。……通っちゃっているよ!
通るのではなく、地下に落ちる場所を探しているのに……。
「白。そんな通行許可があれば通れる場所じゃ駄目だと思う」
「持っているだろう通行許可」
「え?」
私は思わず手に持っている札を見る。確かに城内の通行許可の札だ。
でもこれ自体になにか術が仕込まれているという感じではない。
「鍵と鍵穴だ。合う鍵穴ではないと、鍵は入らないだろう」
「まさか専用の通行許可の札っていうことなの!」
知らずに門をくぐると、目的地まで真っ逆さまって言わないよね?




