第76話 結局なにも答えてない
「饕餮の居場所は自分で探してね。だって内緒だから、僕からは教えられないよ」
炎駒はケラケラと笑いながら言ってきた。
饕餮の存在を隠すことがない。なぜ?
違う。私が既に知っていることと、知らないことをわかっているということだ。
知っていることを隠す必要がないと。
知らないことは教えない。
「高家のことも調べているようだけど、無駄かなぁ。一族が滅んじゃったからねぇ」
「は? 首都の瑞曉を追い出されただけだよね?」
「えー違うよ。饕餮に食べられちゃったんだよ。本当に人って馬鹿だよね」
食べられた? 霍良の話では霍家との争いに負けて、この地を離れていったという話だったよね?
いや、コレが本当のことを言っているとは限らない。
「高家は琅景に取り入ってさぁ、その地位を上げようと必死になっちゃって、笑えるよね。それで失敗した。それだけなのにねぇ」
琅景……先代皇帝の名だ。
それもわかっている。高皇妃を立てたのだ。それで失敗したというのは結局霍家に負けたという話だよね?
「四凶である饕餮を簡単に扱えると勘違いしたんだろうね。本当に馬鹿だよね」
「饕餮が関わる要素なかったけど?」
扱えるってなに?
だって地下に封印されているのに、饕餮がどうこうできるものじゃない。
「窮奇。可愛がりすぎだね。本当に飼い猫になってしまったのかな?」
話が飛んだ。これは私が無知で甘やかされているということを言っている?
確かに私は知らないことが多い。
だけど、四凶のことは時代が古すぎて曖昧なことが多い。残っている書物も物によって書いてあることが違う。
白も自分自身のことを語らない。
私も窮奇のことを調べたけど、わかったのはその鱗片だけ。
「俺は黎明の護衛だ。それだけだ」
私の頭の上で猫の帽子化している白が答えた。いや、炎駒の質問の答えじゃない。
答える気がないのだろう。
「へー。教えることもしてあげないのかぁ。可哀想だね」
一人笑っている炎駒にイライラしている。
答える気がないのはどちらも同じだ。
「まぁ。永寿宮の主に聞いてみるといいよ。機嫌が良ければ答えてくれるだろうね」
「永寿宮?」
私がツタで覆って封じた宮の名だ。
でもそこの主というのは高美人と思われる殭屍だ。
言葉を話していたので、可能かもしれないが、主の道士ではない者のいうことを聞くとは思えない。
そもそも主である術師が高家の誰かなのではという話だったのに、誰も生き残りがいないのであれば、あの殭屍を制御する方法がないとも言える。
それはとても恐ろしいことではないのだろうか。
ただ炎駒のこの言い方だと……
「それは、私の好きにアバいていいと言っている?」
「いいよ。僕の楽しみが増えるだけだから」
「私に討伐されるとは思わないの?」
「プッ!アハハハハハハハ」
人が行き交う街の中で炎駒の笑い声が響き渡る。
声が大きい。
「僕が……君に?」
炎駒が、笑いが止まらないという感じになってしまっている。
「僕は大人しく頭の上にいる猫じゃないよ」
「これはお前がやったのだろう」
不満そうな声が頭の上から聞こえてきたけど、移動せずにそのままいるので、大人しくしていると言われても仕方がないと思う。
「そうだけど……まぁ、君程度で何とかできるのなら、四凶っていう名は残っていないだろうね」
そんなことはないと言いたいところだけど、私が完璧じゃないのは良くわかっている。
意思がある殭屍ってヤバいと放置したぐらいだからね。
「僕はキリンだからね。国のために頑張っているのに、酷いよね」
「四凶を出しておいて、麒麟を自称するの?」
自分自身が四凶とは言っていないけどね。
こういう答えているようで答えていないのが白を苛立たせているのだろう。
さっきから私の後頭部にバシバシとあたるもふもふがある。嫌なら、頭から降りればいいのに。
「はい!到着したよ。これを渡しておくよ。霍道士」
やはり、私の質問に答えない炎駒。
そして木の札のようなものを私に差し出してきた。
木の札に偉そうな印が押されて、霍道士の入城の許可が記されている。
これは皇城の門を自由に通行できる札らしい。
「これは?」
わかっているけど、一応説明を求めておく。
色鮮やかな門の前で、それも門兵がいる前で渡さなくてもいいと思う。
なにか、恐ろしいものを目にしたみたいに、ガクガクと震えている。
「瑞曉内であれば、皇帝の名において、自由行動を認めるという側近級の扱いだね」
「……取り敢えず、琅宋をぶん殴っていい?」
「プッ!ハハハハハハハ!いいよ。いいよ。面白そうだし」
自称麒麟から許可を得たので、殴っておこう。これは私に渡す許可札じゃないと。




