第74話 死ぬなよ
丸一日ぐーたらち過ごしたよく朝。
まだ、夜が明けていない時間に、扉を叩く音が聞こえてきた。
薄目を開けて、まだ暗いことを確認して、また閉じる。お布団が私を離さないのだ。仕方がない。
私の隣で寝ている大きなもふもふが動く気配を感じ、手を伸ばして引き止める。
こんな時間にくる常識知らずは無視しておけばいい。
「おい! 黎明! いるのはわかっている! 扉を壊されたくなければ出てこい」
無礼な霍良の声が聞こえてきた。
なに? 扉を物質として取るって?
壊しても直すのは結局、霍良じゃない。
「退魔剣いらないのか!」
「いる!」
とても誘惑的な言葉に目が覚めた。
隣のもふもふから、ため息が聞こえてくる。
この前、いい退魔剣をくれると言っていたのだ。ただでもらえるなら、もらわなければならない。
私は足取り軽く、素足のまま土間に降り、玄関の扉を開けた。
不機嫌そうに見下ろしてくる霍良。その背後にはずらりと並ぶ、武装したの人たち。
……だから! こんな狭い路地に兵士を並ばせないでほしい。
それに何故か霍良も武装している。
「なに? この物々しい感じ」
「おい、俺が武官だって知らないのか?」
「知っているけど?」
「突然昨日、蛮族の討伐を命じられた。俺達が行った霊廟の場所を調べているときにだ」
「そう……」
私は中に戻って紙と筆を探し出し、あることを書いてすぐに玄関に戻る。
「口にしなくていい。これは白は知っていた。だけど教えてくれなかったこと。どちらに転んでも、最悪なんだよ」
私は一昨日導き出した渾敦の今の姿を、紙に書き記した。それを霍良に見せたのだ。
「……まいったなぁ。どうするんだ?」
「霍良は、そのまま命令を聞いたほうがいい」
これに逆らうのは駄目だ。私たちが何か嗅ぎつけたのに気がついたのだ。恐らく、霍家の力を分散させようとしているのだろう。
「祖父様も別件で呼ばれたと言っていたから、何かあっても頼れないぞ」
やはり、そうなのか。
私一人ではどうにもできないだろうと思っているのだろうね。
「だから、急遽これを探し出してきた」
霍良は私に一振りの剣を差し出してきた。
それも私が扱うには少々長い。
「これは?」
「霍家にある武器庫から探し出してきた。古いものだが、状態はいい。昨日急いで研師に研いでもらったから、使えるはずだ」
霍家保有の剣のようだ。
鞘から少し抜き、剣身を見る。
あれ?片刃だ。片方だけ刃が研がれている。
「刀?」
「そうだな。直刃の直刀になる」
「少し、長すぎない?」
幼児の背の高さほどはあるだろう。
「両手で扱う武器だ」
いや、そもそもこんなに長い武器を片手て振り回そうという剛腕ではないよ。
「悪龍を倒したとかいう、嘘っぽい逸話があるやつだが、この前の剣よりいいだろう」
嘘っぽいって言っちゃっているよ。
まぁ、無いよりマシというぐらいかな。
「本当にヤバくなったら、仙界に帰れ」
「いや、帰れないからここにいるんだよ」
帰れるのであればとっくに帰っている。
「死ぬなよ」
霍良は私の頭をポンポンと撫ぜて、背を向ける。子供じゃないんだからね。
「その言葉、そのまま返すよ」
「ばーか。蛮族如きに俺が負けるか」
霍良は兵士たちを連れて去っていった。
わざわざ、私に退魔刀を渡しに来てくれたらしい。
有難いができれば、兵士は何処かに置いてきて欲しかった。
お向かいの爺さんがガタガタ震えながら、扉の隙間から顔を覗かせて、兵士たちを見ているのだ。
ここに住んでいる人たちは、訳ありの人が多いので、兵士は連れて来てほしくない。
何かと変な目で住人たちから見られることが多いのに。
私はそっと扉を閉じて振り返る。
そこには、翼を持つ大きなもふもふがいた。
「白。もう少し寝ようか」
「黎明。裸足で地面に降りるな。弟の孫が困惑していたぞ」
え?そんな風には見えなかったけど?
まぁ、裸足で地面を歩くことなんて、したことがないお坊ちゃんなのだから仕方がないのかな。
私はそのまま板の間に上る。
勿論、二度寝をするためにだ。
「足を拭け!」
「眠いからいい」
私はそう言ってお布団に潜り込む。
睡眠は大事だ。寝不足はよくないのだよ。
しかし炎駒が霍家を恐れている? なんだか笑えてくる。
古から存在する渾敦がだ。
「黎明! 足を出せ!」
布団から足を引っ張ろ出され、冷たいもので拭われる。
「ひゃ!」
その冷たさに思わず声が漏れてしまった。
冷たさにから逃げようも掴まれてて逃げられない。
「あと、その退魔剣は俺では触れないから、黎明が管理しろ」
布団越しに聞こえてくる白の声に、思わず声が漏れた。
「へー、本物だったんだ」




