第98話「起爆までの時間」
赤い光が、一定の間隔で明滅していた。
捕らえられた村人の首元に刻まれた黒い印。
その光が一度明滅するたび、地下迷宮の奥から低い音が響く。
カチッ。
カチッ。
カチッ。
蒼真は風影刀を構えたまま、村人から目を離さなかった。
「……あの印が、起爆の合図か」
玄岳が黒い雷をまといながら笑う。
「正確には違う」
「じゃあ、何だ?」
「誘爆印だ」
玄岳が指を鳴らす。
その瞬間、地下の壁の向こうから小さな爆発音がした。
ドンッ!
四人の表情が変わる。
「今の……」
凛が呟く。
「迷宮のどこかで起爆したんだ」
蓮司が周囲を見回した。
玄岳は淡々と続ける。
「印が完全に赤くなれば、この地下に仕掛けた起爆札が一斉に反応する」
「だったら、印を外せばいい!」
蓮司が踏み込もうとした。
だが、玄岳が黒雷を放つ。
バチィッ!
蓮司の足元に黒い雷が走り、進路を塞いだ。
「触れるな」
「くそっ……!」
「無理に外せば、その瞬間に信号が送られる」
蒼真は村人の首元を見つめる。
印は先ほどより赤くなっている。
残された時間は、そう長くない。
その時だった。
「行くぞ」
四人の忍が同時に動いた。
蒼真の前には、風遁を使う忍。
蓮司には土遁の忍。
レイには雷遁の忍。
凛には火遁の忍。
四人がそれぞれの敵と対峙する。
「蒼真!」
凛が叫ぶ。
「村人は私が守る!」
「頼む!」
蒼真は風遁の忍へ向かって走った。
その瞬間、敵が両手を組む。
「風遁・風刃乱舞!」
無数の風の刃が地下通路を埋め尽くした。
蒼真は風影刀を抜き、横へ飛ぶ。
シュッ!
頬を風刃が掠め、血が流れる。
「速い……!」
敵は間髪入れず距離を詰めた。
「風遁・風走!」
身体が一瞬で加速する。
蒼真も風を纏った。
「風遁・風纏!」
二人の姿が交差する。
ガキィン!
刀と苦無がぶつかる。
一撃。
二撃。
三撃。
互いに間合いを取り直す。
蒼真は相手の動きを読むため、周囲の空気を感じ取ろうとした。
しかし――。
「……!」
地下には複雑な風の流れが渦巻いていた。
換気口。
通路。
爆発によって生じた熱気。
すべての風が混ざり、敵の位置を正確に捉えられない。
「ここじゃ、風は読めないか」
敵が笑った。
「お前の能力は地下では半分しか使えない」
蒼真は風影刀を握り直す。
「だったら……半分で十分だ」
一方。
蓮司の前では、巨大な土壁が立ち上がった。
ドゴォン!
蓮司は横へ飛ぶ。
「土遁・岩槍!」
地面から鋭い岩が次々と突き出す。
蓮司は刀で受けず、岩の側面へ刃を滑らせた。
ガッ!
力を受け流す。
そのまま敵へ接近する。
「力で押し切るだけじゃないって、覚えたんだよ!」
敵の拳を受け流す。
さらに身体を回転させ、相手の勢いを利用する。
敵がよろめいた。
「なに……!」
蓮司は追撃しようとする。
だが、敵が地面を叩いた。
「土遁・土牢!」
四方から土壁が迫る。
蓮司の逃げ道が消えていく。
「しまった!」
同じ頃。
レイは雷遁の忍と激しく刃を交えていた。
キィン!
キィン!
雷をまとった苦無が、レイの二本の短刀を弾く。
レイは一歩下がった。
敵はその隙を逃さない。
「雷遁・雷牙!」
雷の刃が迫る。
レイは身体を低く沈めた。
頭上を雷が通過する。
そして一瞬。
敵の懐へ入った。
「……そこだ」
二本の短刀が同時に走る。
敵の袖を切り裂いた。
「ちっ!」
レイは追撃せず、村人の方向へ視線を向ける。
凛が一人で火遁の忍を抑えている。
「……まだ終われない」
レイは敵へ向き直った。
そして凛。
「火遁・豪火球!」
巨大な炎が通路を走る。
凛は水を広げた。
「水遁・水壁!」
ドォォン!
炎と水がぶつかり、大量の蒸気が発生する。
視界が一気に白くなる。
「今!」
凛は村人の前へ移動した。
「全員、動かないで!」
村人たちは震えながら頷く。
しかし――。
蒸気の向こうから苦無が飛んできた。
凛は水壁を展開する。
ガガガッ!
苦無が水の壁に突き刺さる。
「まだいる……!」
敵は蒸気を利用して姿を隠している。
その時。
カチッ。
再び音が鳴った。
凛が村人を見る。
首元の赤い光が、さらに強くなっていた。
「……時間がない」
その言葉を聞いた蒼真も気づいた。
戦っているだけでは間に合わない。
敵を倒してから解除するのでは遅い。
「玄岳!」
蒼真が叫ぶ。
「この印を止める方法はあるのか!」
黒雷をまとった玄岳が答える。
「ある」
「だったら教えろ!」
「俺を倒せ」
蒼真の目が細くなる。
「俺を倒せば、この迷宮の第二段階を停止できる」
「本当か?」
「ただし――」
玄岳の身体から黒雷が噴き上がった。
「俺を倒す頃には、印が完成しているかもしれない」
カチッ。
カチッ。
赤い光が、さらに激しく明滅する。
蒼真は風影刀を構えた。
「……だったら、急ぐしかない」
玄岳も構える。
「来い、蒼真」
黒雷が地下室全体を照らした。
次の瞬間。
蒼真が地面を蹴った。
「風遁・風纏!」
玄岳も同時に動く。
「黒雷遁・黒雷走!」
二人の姿が正面からぶつかった。
その衝撃で、地下室の壁に亀裂が走る。
そして――。
迷宮の奥から、今までとは違う巨大な音が響いた。
ドン……。
ドン……。
ドン……。
玄岳の表情が変わる。
「……始まったか」
蒼真が振り返る。
「何がだ!」
玄岳は答えなかった。
ただ、地下の奥を見つめていた。
「第二段階の、本当の意味だ」
カチッ。
赤い印が、一瞬だけ完全な赤色に染まった。
第98話 完




