第97話「黒雷再戦」
ギィィ……。
重い扉が開く。
蒼真、凛、レイの三人は、慎重に中へ入った。
その後ろには、町人たちを守るために戻った蓮司が続いている。
「蒼真!」
「蓮司!」
四人が揃う。
しかし、喜んでいる暇はなかった。
部屋の中央。
黒い雷を纏った男が立っている。
「玄岳……」
蒼真が風影刀を構える。
玄岳は静かに笑った。
「再び四人揃ったか」
蓮司が刀を抜く。
「今度は逃がさないぞ」
「逃げる?」
玄岳が首を傾ける。
「俺は最初から逃げていない」
バチッ!
黒雷が床を走る。
その瞬間、部屋の奥から一人の町人が連れてこられた。
「助けてくれ!」
凛が前へ出る。
「その人を離して!」
町人の首元には、黒い札が貼られている。
玄岳が言う。
「この札に触れるな」
「起爆札……」
凛が息を呑む。
「正確には、起爆札ではない」
玄岳は札を指差す。
「この札が破られると、地下迷宮にある全ての起爆札へ信号が送られる」
蓮司が睨む。
「つまり……」
「ここで戦えば、こいつが死ぬ可能性がある」
蒼真が刀を下ろす。
「……やっぱり、それが狙いか」
玄岳は笑った。
「お前たちは成長した」
「だからこそ、次は戦いながら判断してもらう」
レイが周囲を見る。
「玄岳だけじゃない」
「気づいたか」
暗闇から、別の忍が姿を現した。
長い布で顔を覆い、両手に苦無を持っている。
さらに左右の壁にも二人。
合計四人。
蓮司が呟く。
「まだいたのか……」
玄岳が言う。
「こいつらは俺の部下ではない」
「それぞれ別の任務を与えられた夜叉衆だ」
蒼真が睨む。
「夜叉衆は仲間同士でも別々に動いてるのか」
「必要ならな」
玄岳が刀を抜く。
「夜叉衆には、上から命じられた任務を遂行する。それだけだ」
その言葉と同時に、四人の忍が散開した。
「来る!」
レイが叫ぶ。
一人が蓮司へ。
一人がレイへ。
一人が凛へ。
そして最後の一人が町人へ向かった。
「させない!」
凛が水を放つ。
「水遁・水槍!」
水の槍が敵の足元を貫く。
敵は跳躍。
「風遁・風刃!」
蒼真が追撃する。
しかし、敵は空中で身体を捻った。
「風遁・風返し!」
風が逆流する。
蒼真の風刃が逸れる。
「風遁を使う忍か!」
敵は着地した。
「お前だけが風遁を使えると思うな」
蒼真が刀を握る。
「……面白い」
一方。
蓮司の前には土遁使い。
「土遁・土拳!」
巨大な土の拳が迫る。
蓮司は真正面から受けない。
身体を横へ流す。
拳の勢いを利用して、敵の腕を引く。
「お前の力、借りるぞ!」
敵の身体が前へ流れる。
しかし――。
「甘い」
敵の足元から土が伸びる。
「土遁・土蛇!」
土の蛇が蓮司の足に絡みつく。
「くっ!」
倒れそうになる。
その瞬間、蓮司は刀を地面へ突き刺した。
「まだだ!」
身体を支え、そのまま土蛇を蹴り飛ばす。
「俺はもう、力任せには戦わねえ!」
レイの前では、二本の苦無を持った忍が高速で動いていた。
「雷遁・雷歩!」
敵の姿がぶれる。
レイは追わない。
目を閉じる。
「……」
足音。
呼吸。
衣服の擦れる音。
「そこ」
レイが振り向く。
ガキン!
短刀で敵の苦無を受け止める。
「なにっ!」
レイはもう一本の短刀を敵の手首へ向ける。
敵は後ろへ跳ぶ。
「速いな」
「お前も」
レイは構え直す。
「だが、速さだけじゃ勝てない」
二人が同時に踏み込む。
短刀と苦無が何度もぶつかる。
キン!
キン!
キィン!
互いに一歩も譲らない。
そして凛。
凛の前には、町人を狙う敵。
「どいて!」
「断る」
敵が苦無を投げる。
凛は水壁で防ぐ。
しかし、その隙に敵は町人へ近づく。
「しまった!」
凛が水を地面へ流す。
「水遁・水縛!」
水が敵の足へ絡みつく。
「くっ!」
敵が苦無で水を切る。
その瞬間、凛が町人の前へ滑り込んだ。
「この人には触らせない!」
「なら、お前から倒す」
敵が印を結ぶ。
「火遁・火炎弾!」
炎が迫る。
凛は水を前方へ集中させた。
「水遁・水壁!」
ドンッ!
炎と水がぶつかる。
大量の蒸気が発生する。
視界が消える。
「今だ!」
敵が煙の中を走る。
凛は気配を感じ取った。
「そこ!」
水が地面を走る。
敵の足を掴む。
「水遁・水縛!」
敵が倒れる。
凛は町人の札を見る。
「この札……」
札に細い黒い線が伸びている。
「線が……部屋の奥へ続いてる」
レイが戦いながら叫ぶ。
「切るな!」
凛が振り返る。
「え?」
「罠かもしれない!」
玄岳が笑う。
「正解だ」
蒼真が玄岳へ斬りかかる。
「だったら、お前を倒して聞き出す!」
黒雷が爆発する。
「黒雷遁・黒雷走!」
玄岳が消える。
蒼真が風を読む。
「右!」
風影刀を振る。
ガキィン!
玄岳の刀を受け止めた。
「読めるようになったか」
「何度も見てるからな!」
蒼真が押し返す。
「風遁・風刃!」
玄岳が黒雷で刀を包む。
「黒雷遁・雷刃!」
二人の刀が激突する。
バチィィン!
衝撃で二人とも後退する。
蒼真の腕が痺れる。
玄岳の肩から血が流れる。
「……」
玄岳が傷を見る。
「前とは違うな」
「当たり前だ」
蒼真が息を整える。
「俺たちは修行してきた」
「そうだな」
玄岳は静かに構える。
「だからこそ、ここから先を見たい」
その瞬間。
地下迷宮全体に、
ゴォォォン……。
鐘の音が響いた。
町人が怯える。
「何の音だ……?」
凛が周囲を見る。
玄岳は答えない。
代わりに、部屋の壁に新たな文字が浮かび上がった。
『第二段階』
蒼真が目を見開く。
「まだ終わってないのか……」
玄岳が刀を構える。
「いや」
黒雷が全身を包む。
「ここからが本番だ」
バチィィッ!
部屋の床が大きく揺れた。
そして――。
町人の首元に貼られた黒い札が、赤く光り始めた。
凛の顔が青ざめる。
「……まずい」
「どうした?」
「この札……」
凛は札を見つめる。
「起爆までの時間を測ってる」
蒼真が玄岳を見る。
「お前……!」
玄岳は答えない。
ただ、静かに刀を構えた。
第97話 完




