第96話「迷宮の忍たち」
地下迷宮。
蒼真は風影刀を構え、暗闇の奥を見据えていた。
そこには、六人の忍が立っている。
火遁、水遁、土遁、雷遁。
そして――。
姿を隠す二人。
蒼真の後ろでは、黒雷の玄岳が立っている。
「六人……」
蒼真が呟く。
玄岳は答えない。
ただ、刀を収めた。
「ここから先は、お前たち自身で進め」
「……お前は?」
「俺の役目は終わった」
「逃げるのか?」
玄岳は振り返る。
「違う」
黒い面の奥から声が響く。
「次の試験へ移るだけだ」
玄岳の姿が煙の中へ消える。
「待て!」
蒼真が追おうとした瞬間。
「火遁・炎弾!」
炎が飛んできた。
蒼真は横へ跳ぶ。
ドンッ!
背後の壁が焼ける。
「……行かせる気はないか」
蒼真は刀を構え直した。
「なら、全員まとめて突破する!」
六人の忍が一斉に動いた。
「水遁・水槍!」
「土遁・土壁!」
「雷遁・雷弾!」
三方向から攻撃が飛んでくる。
蒼真は風を纏った。
「風遁・風走!」
一気に駆ける。
水槍をかわし、土壁を飛び越え、雷弾を風で逸らす。
そのまま一人へ接近。
「風遁・風刃!」
ザンッ!
敵の忍が後退する。
しかし――。
「土遁・土牢!」
足元から土が盛り上がった。
「しまった!」
蒼真の身体が土に囲まれる。
「一人捕まえたぞ!」
「まだだ!」
蒼真は風影刀を地面へ突き立てる。
「風遁・風圧!」
ドンッ!
土牢が吹き飛ぶ。
しかし、その隙に別の忍が背後へ回っていた。
苦無が迫る。
キンッ!
二本の短刀が苦無を弾いた。
「……レイ!」
蒼真が振り返る。
レイが立っていた。
「遅い」
「お前、どうしてここに?」
「凛が人質を連れてくる」
レイは周囲を見渡す。
「俺は先に道を確保する」
「分かった!」
二人が並ぶ。
「久しぶりに二人で戦うな」
「余計なことを考えるな」
「相変わらずだな!」
蒼真が笑う。
敵が迫る。
レイが先に飛び込んだ。
左右の短刀が閃く。
一人の忍が苦無で受ける。
もう一人が雷遁を放つ。
「雷遁・雷撃!」
レイはしゃがむ。
雷が頭上を通り過ぎる。
そのまま足元へ滑り込み、敵の懐へ入る。
「そこだ」
短刀の柄が敵の腹へ入る。
ドッ!
敵が崩れる。
蒼真も別の敵へ斬りかかる。
しかし土遁の忍が壁を作った。
「風遁・風刃!」
ザンッ!
土壁を斬る。
だが、その向こうには誰もいない。
「……消えた?」
レイが周囲を見る。
「違う」
「?」
「床」
蒼真が足元を見る。
床の一部がわずかに盛り上がっている。
「地下か!」
次の瞬間。
地面から敵が飛び出した。
「土遁・土潜り!」
蒼真の足を掴む。
「くっ!」
レイが短刀を投げる。
敵の手が離れる。
蒼真が後ろへ飛んだ。
「助かった!」
「まだ来る」
左右の壁から敵が現れる。
「挟まれた!」
蒼真とレイは背中合わせになる。
「蒼真」
「分かってる」
「右は俺がやる」
「左は任せろ!」
二人が同時に動いた。
一方――。
凛は町人たちを連れて地下階段を下りていた。
「ゆっくりでいいです!」
「怖い……」
「大丈夫です。私たちが守ります」
だが、階段の途中。
凛が足を止めた。
「……」
何かを感じる。
水の気配。
「前に水がある」
レイの戦闘音が遠くから響く。
しかし、その音とは別に――。
小さな水音。
ポタッ。
ポタッ。
凛が前を見る。
階段の先に、大きな地下水路が広がっていた。
「ここ……」
水路の両側に、無数の小さな穴。
凛の表情が変わる。
「罠です」
「え?」
「全員、止まって!」
町人たちが足を止める。
凛が水面を見る。
波紋が一つ。
二つ。
三つ。
「誰かいる」
その瞬間。
水中から忍が飛び出した。
「水遁・水刃乱舞!」
無数の水刃が飛ぶ。
「水遁・水壁!」
凛が防ぐ。
ガガガガッ!
水刃が水壁へ突き刺さる。
「みんな、壁から離れないで!」
凛は一人で前へ出る。
敵は水路の中を自由に移動している。
「水の中じゃ……私のほうが有利」
凛が印を結ぶ。
「水遁・水縛!」
水路の水が一気に持ち上がる。
敵忍の足へ絡みつく。
「なにっ!」
そのまま引きずり出す。
だが――。
別の方向から苦無が飛んできた。
凛が水で弾く。
さらに二本。
三本。
「まだいる!」
町人たちの背後。
黒装束の忍が現れた。
「人質はもらう」
「させない!」
凛が振り返る。
しかし、その忍は煙玉を投げた。
ボンッ!
視界が真っ白になる。
「みんな!」
煙の中で町人たちの声が響く。
「助けて!」
凛は水を操り、煙を押し流す。
「水遁・水流!」
ゴォッ!
煙が消える。
しかし――。
一人の町人の姿がない。
「……一人いない?」
凛の顔が強張る。
地下通路の奥。
誰かが町人を連れて走っている。
「待って!」
凛が追う。
だが、残された町人たちを置いていくわけにはいかない。
凛は一瞬迷う。
「……どうする」
その時。
遠くから声が響いた。
「凛!」
蓮司だった。
「蓮司!」
蓮司が階段を駆け下りてくる。
「何があった!」
「一人、連れていかれた!」
蓮司が通路の奥を見る。
「追うぞ」
「でも、みんなを……」
蓮司が町人たちを見る。
「俺が残る」
「え?」
「凛、お前が追え」
「でも――」
「こいつらは俺が守る」
蓮司が刀を構える。
「蒼真たちを追ってくれ」
凛は一瞬だけ迷った。
そして頷く。
「分かった!」
凛が走る。
その背中を蓮司が見送る。
「……蒼真」
蓮司は小さく呟いた。
「絶対に合流するぞ」
その頃。
蒼真とレイは六人の忍のうち、三人を倒していた。
しかし――。
残り三人。
そして、その中には姿を完全に消している忍がいる。
「……見えない」
蒼真が風を読む。
「いる」
「どこ?」
「左――」
シュッ!
苦無が飛ぶ。
レイが弾く。
「違う」
「え?」
「本体じゃない」
蒼真が目を閉じる。
風が揺れる。
わずかな空気の流れ。
「上だ!」
二人が同時に上を見る。
天井。
忍が張り付いていた。
「見つかったか!」
敵が飛び降りる。
その瞬間。
レイが踏み込む。
「逃がさない」
二本の短刀が敵の両腕を狙う。
敵は身体を捻ってかわす。
そこへ蒼真。
「風遁・風弾!」
ドンッ!
敵が吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられる。
残り二人が印を結ぶ。
「火遁!」
「雷遁!」
炎と雷が同時に放たれる。
蒼真は風影刀を構える。
レイも短刀を構える。
「蒼真」
「ああ」
二人は互いを見る。
言葉はそれだけだった。
蒼真が風を起こす。
レイがその風に乗る。
一瞬で距離を詰めた。
「今だ!」
蒼真の風が炎の軌道を逸らす。
レイが雷をかわして敵へ接近する。
短刀が二本、同時に閃いた。
敵の苦無が弾き飛ばされる。
そして――。
蒼真の風刃が敵の足元へ走る。
二人の忍が同時に倒れた。
「……終わったか」
蒼真が息を吐く。
だがレイは首を横に振った。
「まだ」
「何?」
レイが奥を見る。
暗闇の先。
一つの扉。
そこに夜叉衆の印が刻まれている。
そして、その扉の前に――。
凛が立っていた。
「蒼真!」
「凛!」
三人がようやく合流する。
凛は息を切らしながら言った。
「町人が一人、連れていかれた」
蒼真の表情が変わる。
「誰に?」
「分からない。でも……」
凛は扉を見る。
「この先」
三人が扉へ近づく。
すると――。
扉の向こうから、聞き覚えのある声が響いた。
「やっと来たか」
蒼真が刀を握る。
「……玄岳」
扉の向こうから黒い雷が走る。
バチッ……。
そして鍵が外れる音がした。
カチャ。
扉がゆっくり開いていく。
第96話 完




