第95話「地下迷宮」
カチ……。
カチ……。
地下に響く、一定の音。
蒼真は黒雷の玄岳から距離を取った。
「この音……何だ?」
玄岳は答えない。
ただ、刀を構え直した。
「気になるなら、止めてみろ」
「……!」
蒼真が走る。
しかし玄岳も同時に動いた。
「黒雷遁・雷走!」
バチィッ!
黒い雷を纏った玄岳が、一瞬で間合いを詰める。
「くっ!」
蒼真は風影刀で受ける。
ガキィン!
黒雷が刀を伝ってくる。
「ぐっ……!」
腕が痺れる。
蒼真はすぐに後ろへ跳んだ。
玄岳は追撃しない。
「戦いながら装置を探す余裕があると思うか?」
「作ったのはお前だろ」
「そうだ」
「なら、壊す!」
蒼真は地面を蹴った。
「風遁・風走!」
風を纏って加速する。
玄岳の横を抜けようとする。
しかし――。
「黒雷遁・雷壁!」
バチバチバチッ!
黒い雷の壁が出現した。
蒼真は急停止する。
「……!」
「簡単には通さん」
その頃。
牢の前。
凛は水壁を維持していた。
「みんな、落ち着いて!」
牢の中の町人たちは怯えている。
「ここから出してくれ!」
「大丈夫です!」
凛は周囲の起爆札を見る。
札から伸びる細い導線。
それが地下通路の奥へ続いている。
「……起爆札は全部繋がってる」
レイが戻ってきた。
「敵は?」
「二人倒した。残りは奥へ逃げた」
レイは導線を見る。
「これを切ればいいのか?」
「分からない」
凛が首を振る。
「切った瞬間に起爆する可能性もある」
「なら、切らない」
レイは周囲を見る。
「仕組みそのものを探す」
「うん」
二人は導線を辿り始める。
しかし――。
「……待って」
凛が足を止めた。
「この線、おかしい」
「何が?」
「一本だけ、逆方向に伸びてる」
レイがしゃがむ。
床下。
そこから別の導線が伸びていた。
「……地下の奥じゃない」
「牢の下?」
二人が顔を見合わせる。
その瞬間。
ドンッ!
牢の床が揺れた。
「きゃあ!」
町人たちが悲鳴を上げる。
凛は水壁を強める。
「大丈夫!」
レイが床を見る。
「下から来る」
「じゃあ……」
凛が印を結ぶ。
「水遁・水探知!」
薄い水が床へ広がる。
その水面に、地下構造が浮かび上がる。
「……牢の下に空間がある」
レイが立ち上がる。
「隠し通路か」
「たぶん」
その頃。
蓮司は最後の敵忍と対峙していた。
敵は土遁を使い、地面を自在に変形させる。
「土遁・土壁!」
壁が迫る。
蓮司は横へ逃げる。
「またか!」
壁の向こうから火弾が飛ぶ。
蓮司は刀で弾く。
「しつこい!」
敵が笑う。
「お前一人では仲間を助けられない」
「……何?」
「今も地下のどこかで、仲間は戦っている」
蓮司の表情が変わる。
「焦ってるな」
敵が印を結ぶ。
「焦れば、判断を誤る」
土の槍が一斉に飛び出す。
蓮司は受け流す。
一本。
二本。
三本。
四本。
そして最後の一本を刀で受けた。
「……違うな」
敵が動きを止める。
「何?」
蓮司はゆっくり刀を下ろした。
「俺は一人で全部やろうとしてない」
「……」
「蒼真は蒼真の戦いをしてる」
「凛は人質を守ってる」
「レイは敵を止めてる」
蓮司が笑う。
「なら俺は、ここを片付ければいい」
一歩踏み込む。
「それだけだ!」
敵が土壁を作る。
蓮司は真正面から突っ込んだ。
「うおおっ!」
刀を振る。
土壁を斬るのではなく、力の流れに合わせて刀を滑らせる。
壁の一部が崩れる。
その隙間から蓮司が入り込んだ。
「なっ!」
柄が敵の腹へ叩き込まれる。
ドンッ!
敵が倒れた。
「……俺も、少しは成長しただろ」
蓮司は息を整える。
そして蒼真たちのいる方向を見る。
「待ってろよ」
一方。
蒼真と玄岳。
黒雷の壁を挟んで睨み合っていた。
蒼真は壁に手を近づける。
風を感じる。
「……」
風影刀を抜く。
「風遁・風刃!」
風の刃を黒雷の壁へぶつける。
ザンッ!
しかし黒雷の壁は壊れない。
むしろ風が弾かれた。
「風では突破できない?」
玄岳が答える。
「黒雷は周囲の空気そのものを乱す」
「だから風の流れが読めない」
蒼真は目を閉じた。
「……なら」
玄岳が構える。
「何をする?」
「読むんじゃない」
蒼真の周囲に風が集まる。
「作る」
ドンッ!
蒼真が地面を踏み込む。
風が地下空間全体へ広がった。
黒雷の壁にぶつかる。
雷が乱れる。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
壁の一部に隙間ができた。
「そこだ!」
蒼真が突っ込む。
玄岳が迎え撃つ。
ガキィン!
二本の刀がぶつかる。
玄岳の黒雷が風影刀へ絡む。
「これで終わりだ!」
「まだだ!」
蒼真は刀を引かない。
代わりに身体を回転させる。
風が渦を巻く。
玄岳の身体が押される。
「ぐっ!」
玄岳が後退した。
蒼真はそのまま走り抜ける。
「装置はどこだ!」
地下通路の奥。
カチ……。
カチ……。
音が大きくなる。
蒼真が角を曲がる。
そこには巨大な鉄製の装置があった。
無数の起爆札が繋がっている。
「これか……!」
しかし装置の中央には、一本の黒い札。
そこに文字が書かれていた。
『第一段階終了』
蒼真の背後から玄岳が現れる。
「見つけたな」
「第一段階……?」
玄岳は答えない。
その瞬間。
装置の奥の壁が、
ゴゴゴゴゴ……。
と動き始めた。
地下通路が左右に分かれていく。
さらに奥から、複数の足音が響く。
蒼真が刀を構える。
「まだ敵がいるのか……」
玄岳も刀を構えた。
「ここから先は、俺だけが相手ではない」
暗闇の奥から、忍たちの影が現れる。
そして――。
牢の下にも、同じように地下への階段が開いた。
凛とレイがそれを見つめる。
「……地下迷宮」
レイが呟く。
凛は牢の中の町人たちを見る。
「この人たちを置いていけない」
レイが頷く。
「なら、連れていくしかない」
「でも、敵が待ってる」
二人は互いを見る。
そして凛が水遁を展開した。
「だったら……全員で行こう」
地下のさらに深い場所から、不気味な鐘の音が鳴り響いた。
ゴォォォン……。
蒼真は暗闇を睨む。
「この先に、何がある……?」
第95話 完




