第94話「黒雷の忍」
地下空間に、低い雷鳴が響いていた。
黒い面の男の身体から、黒い雷が走る。
バチッ……バチバチッ!
蒼真は風影刀を構えたまま、男を見据えた。
「その雷……普通の雷遁じゃないな」
「よく見ている」
男はゆっくりと印を結ぶ。
「俺の名は黒雷の玄岳」
黒い雷が腕へ集まっていく。
「夜叉衆の忍だ」
蒼真の目が細くなる。
「夜叉衆……」
玄岳が地面を蹴った。
「黒雷遁・黒雷走!」
ドンッ!
一瞬だった。
玄岳の姿が消える。
「速い!」
蒼真は風を読む。
空気が乱れた。
右。
反射的に風影刀を振る。
ガキィン!
刀と刀がぶつかった。
しかし、玄岳の姿はすでに蒼真の横を通り過ぎている。
「……!」
蒼真の肩から血が滲んだ。
浅い。
だが、確実に斬られている。
「蒼真!」
凛が叫ぶ。
「大丈夫だ!」
蒼真は振り返る。
玄岳は数メートル先で刀を下げていた。
「今のを防いだか」
「風が教えてくれた」
「風?」
玄岳が面の奥で笑う。
「なら、風そのものを乱せばいい」
玄岳が両手を広げる。
「黒雷遁・雷鳴煙!」
バチバチッ!
黒い雷が地面を走り、同時に黒い煙が地下空間へ広がった。
視界が一気に奪われる。
「何も見えない!」
蓮司が叫ぶ。
「凛、人質から離れるな!」
「分かってる!」
凛は牢の前に立ち、水の壁を展開する。
「水遁・水壁!」
牢を覆うように水壁が広がる。
その直後。
ドンッ!
水壁に黒雷が叩きつけられた。
「きゃっ!」
凛が後ろへ押される。
「凛!」
レイが駆け寄る。
「大丈夫」
凛は立ち上がる。
「でも、この雷……水に触れても消えない」
レイが周囲を見る。
「なら、水で防ぐのは危険」
「分かった」
二人が同時に構える。
その頃、蓮司は煙の中で敵の気配を探していた。
「どこだ……」
足音。
背後。
振り向く。
ガキン!
敵の刀を受け止める。
「見つけた!」
蓮司が押し返す。
だが敵はすぐに印を結んだ。
「土遁・土槍!」
地面から土の槍が突き出す。
蓮司は横へ飛ぶ。
その先にも土槍。
「くそっ!」
蓮司は刀で土槍を斬り落とす。
しかし、斬った土槍の破片が牢へ飛ぶ。
「しまった!」
レイが走る。
短刀を投げる。
シュッ!
土の破片を弾き落とす。
「蓮司、前だけ見るな」
「悪い!」
「敵は俺たちを人質から離そうとしている」
レイは周囲を確認する。
煙の中。
複数の敵が動いている。
「……増えた」
「何人いる?」
「分からない」
レイは短刀を構える。
「でも、全員が牢を狙ってるわけじゃない」
蓮司が眉をひそめる。
「どういうことだ?」
「俺たちを動かしている」
その言葉に、蓮司も気づいた。
敵は直接牢を攻撃しているわけではない。
攻撃を仕掛けることで、四人を別々の場所へ動かしている。
そして――。
蒼真のいる場所だけが、少しずつ牢から離れていた。
「蒼真!」
蓮司が叫ぶ。
「俺たち、分断されてる!」
蒼真にも聞こえた。
「分かってる!」
黒い煙の向こう。
玄岳が姿を現す。
「気づくのが遅い」
玄岳の刀に黒雷が集まる。
「お前たちがどれだけ成長したかを見る」
「そのために、この町の人たちを巻き込んだのか!」
「そうだ」
玄岳は迷いなく答えた。
「戦場では、守るべきものが必ず存在する」
「仲間、住民、任務、情報……」
「すべてを守りながら戦える忍かどうか」
蒼真は風影刀を握る。
「……試してるってわけか」
「そういうことだ」
玄岳が刀を構える。
「そして、お前たちがまだ足りないことも分かった」
蒼真の表情が変わる。
「何?」
「お前たちは強くなった」
玄岳の黒雷がさらに激しくなる。
「だが――」
「四人が同じ場所にいることを前提に戦っている」
蒼真は息を止めた。
連携。
互いの動きを理解すること。
それが自分たちの強みだった。
だが。
今はその連携そのものを敵に利用されている。
玄岳が踏み込む。
「ならば――」
黒雷が爆発する。
「一人でも戦えるか?」
蒼真は風を纏う。
「……やってみる!」
二人の刀が激突した。
ガキィィン!
風と黒雷がぶつかり合う。
その衝撃で地下空間の壁が震える。
一方、牢の前。
凛は水壁を維持していた。
額から汗が流れる。
「このままじゃ……水壁が持たない」
レイが周囲を見る。
「なら、俺が時間を作る」
「一人で?」
「問題ない」
レイが二本の短刀を構える。
「俺は俺の戦いをする」
凛が頷く。
「分かった。牢は私が守る」
少し離れた場所では、蓮司が三人の敵忍を相手にしていた。
「まとめて来い!」
敵が同時に印を結ぶ。
「火遁・火弾!」
「土遁・土壁!」
「水遁・水刃!」
三つの忍術が同時に襲いかかる。
蓮司は刀を構えた。
「……全部避けるんじゃない」
敵の攻撃を見極める。
そして――。
「利用する!」
水刃を刀で受け流す。
その水が土壁へぶつかる。
土壁が崩れる。
そこへ火弾が飛び込む。
ボンッ!
蒸気と煙が広がった。
蓮司はその中を走る。
「今だ!」
一人の敵を蹴り飛ばす。
「あと二人!」
戦場のあちこちで、それぞれの戦いが始まっていた。
だが――。
玄岳との戦いを続ける蒼真の足元に、小さな紙片が落ちていることを誰も気づいていなかった。
起爆札。
しかも、その札には今まで見たものとは違う印が刻まれている。
玄岳が刀を振り下ろす。
蒼真が受け止める。
その瞬間。
玄岳が低く呟いた。
「……気づいたか?」
蒼真が足元を見る。
「何だ、これ……」
玄岳が笑った。
「この地下にある起爆札は――」
「まだ半分しか使っていない」
カチッ。
遠くで、何かが作動した。
地下空間の奥から、
カチ……
カチ……
と、一定の間隔で音が響き始める。
蒼真の顔から血の気が引いた。
「まさか……」
玄岳は刀を下ろした。
「ここからが本当の試験だ」
第94話 完




