第92話「消えた宿場町」
夜明け前。
蒼真たちは山道を抜け、目的地である宿場町へ到着した。
「……静かすぎないか?」
蓮司が辺りを見回す。
宿場町には建物が並んでいる。
旅籠。
商店。
茶屋。
道具屋。
だが――。
人の姿が一人もない。
「店も全部閉まってる」
凛が店先を覗き込む。
「昨日まで人がいたはずなんだよね?」
「記録ではそうなっている」
蒼真が答える。
レイが地面を見た。
「足跡がある」
四人が近づく。
街道には複数の足跡が残っていた。
しかし、その足跡は町の中央で突然途切れている。
「……変だな」
蓮司がしゃがみ込む。
「ここから先だけ、何もない」
蒼真が周囲の風を読む。
「風もおかしい」
「また?」
凛が尋ねる。
「ああ」
蒼真は目を閉じる。
「町の中央だけ、風が流れていない」
レイが短刀を抜く。
「術?」
「たぶんな」
その時。
カラン……。
遠くで何かが転がる音がした。
四人が振り向く。
道の先に、小さな木箱が落ちている。
蓮司が近づこうとする。
「待って」
蒼真が止める。
「罠かもしれない」
レイが周囲を確認する。
「誰もいない」
「だからこそ怪しい」
蒼真が風を送る。
木箱が風で少し動く。
その瞬間――。
シュッ!
箱の下から苦無が飛び出した。
カンッ!
レイが弾き落とす。
「やっぱり」
蓮司が苦笑する。
「歓迎されてないな」
凛が木箱を調べる。
「中に何かある」
蓋を開ける。
中には一枚の布。
そして――。
黒い札が入っていた。
「夜叉衆……」
蒼真の表情が険しくなる。
札には昨日見たものと同じ印が刻まれていた。
だが、裏側には文字がある。
凛が読み上げる。
「『地下へ来い』」
蓮司が顔を上げる。
「誘ってるのか?」
「罠でしょうね」
レイが即答する。
蒼真も頷いた。
「それでも行くしかない」
「蒼真?」
「この町の人たちが消えた理由を知るために」
四人は町の中央へ向かった。
そこには大きな井戸があった。
周囲には誰もいない。
凛が井戸を覗く。
「水がない」
深い井戸なのに、底が見える。
「地下への入口かもしれない」
蓮司が言う。
レイが井戸の壁を調べる。
「……これ」
石の一つに、微かな隙間がある。
押し込む。
ゴゴゴゴ……。
井戸の底で何かが動いた。
地面が開く。
その下には階段が続いていた。
「本当にあった……」
凛が息を呑む。
蒼真が風を送る。
冷たい風が地下から吹き上がってくる。
そして――。
かすかに人の声が聞こえた。
「……助けて……」
凛の表情が変わる。
「今、声が……!」
「行こう」
蒼真が階段を降りる。
四人は慎重に地下へ進んだ。
しばらく歩くと、巨大な地下空間へ出た。
そこには――。
牢が並んでいた。
「……!」
牢の中には、宿場町から消えた人々がいた。
「助けてくれ!」
「ここから出して!」
「何日も閉じ込められてる!」
蓮司が駆け寄る。
「無事か!?」
「怪我人もいる」
凛が牢を確認する。
レイは周囲を警戒している。
「……罠」
「え?」
蓮司が振り返る。
レイが天井を見る。
そこには無数の起爆札。
「触れば爆発する」
蒼真が息を呑む。
「最初から俺たちをここへ誘導するために……」
その瞬間。
パチッ。
地下空間の奥で火が灯った。
一つ。
二つ。
三つ。
暗闇の中から、複数の忍が姿を現した。
その中央に、一人だけ違う装束の男が立っている。
黒い面。
右腕には夜叉衆の紋章。
男がゆっくり口を開いた。
「ようこそ」
蒼真が風影刀を抜く。
「お前がこの町を襲ったのか?」
男は笑った。
「襲った?」
首を傾げる。
「違う」
その瞬間、男の手元に苦無が現れる。
「これは実験だ」
蒼真たちの表情が変わった。
男は続ける。
「お前たちが、どこまで成長したのかを見るためのな」
蒼真が握る風影刀に力を込める。
「……俺たちを試しているのか」
「そういうことだ」
男の背後から、さらに数人の忍が現れる。
蓮司が刀を構える。
「蒼真」
「ああ」
凛が水を纏う。
レイが二本の短刀を構える。
四人は背中を合わせた。
牢の中には、助けを待つ人々。
頭上には大量の起爆札。
そして目の前には夜叉衆。
簡単には戦えない。
男が印を結ぶ。
「さあ」
地下空間に声が響く。
「どう守る?」
第92話 完




