第90話「風を継ぐ者たち」
地下通路。
蒼真たちの前に、十人近い忍が立っていた。
火遁。
水遁。
土遁。
雷遁。
さらに幻術を使う忍までいる。
「最後の試練にしては、数が多すぎないか?」
蓮司が刀を構える。
「数は関係ない」
レイが短刀を構えた。
「四人で進む」
凛が頷く。
蒼真は風影刀を抜いた。
「行こう」
忍たちが一斉に動いた。
「火遁・豪火球!」
「水遁・水龍!」
「土遁・土槍!」
「雷遁・雷弾!」
四種類の忍術が同時に迫る。
「凛!」
「分かってる!」
凛が両手を前へ出す。
「水遁・水壁!」
巨大な水壁が炎を受け止める。
その瞬間、雷が水壁へ向かって走った。
「雷が来る!」
蒼真が叫ぶ。
風影刀を振る。
「風遁・風圧!」
強風が水壁を横へ吹き飛ばした。
雷が地面へ落ちる。
バチィッ!
「今だ!」
蓮司が走る。
土槍を刀で受け流し、敵の懐へ入り込む。
「そこ!」
敵の腕を掴み、力を利用して投げ飛ばす。
そのまま別の敵が蓮司へ襲いかかる。
レイが横から現れた。
「後ろ」
ザンッ!
短刀が敵の苦無を弾く。
蓮司が振り返る。
「助かった!」
「まだ終わってない」
レイが前を見る。
敵がさらに増えている。
蒼真は風の流れを読む。
「右に三人」
凛がすぐに水を放つ。
「水遁・水槍!」
三人の進路を塞ぐ。
「左!」
蓮司が走る。
「任せろ!」
敵の攻撃を受け流しながら、一人ずつ体勢を崩していく。
レイは二人の間をすり抜ける。
二本の短刀が別々の角度から襲いかかる。
「二刀流は……一つの動き!」
一人目の腕を弾く。
その勢いを利用して二人目の足を払う。
二人が同時に倒れた。
「残り!」
蒼真が風を纏う。
「風遁・風纏!」
一気に加速する。
敵の懐へ入り込み、風影刀を振る。
風の刃が床を走る。
敵は跳んで回避する。
だが――。
その着地点には水が広がっていた。
凛が仕掛けていた。
「そこ!」
水が敵の足を絡め取る。
「水遁・水縛!」
動きが止まる。
蒼真が風で敵を吹き飛ばした。
ドンッ!
敵が壁へ叩きつけられる。
最後の一人が印を結ぶ。
「幻術・黒霞!」
地下通路が突然暗闇に包まれた。
「……!」
蒼真たちの姿が見えなくなる。
声も聞こえない。
気配すら分からない。
「蒼真!」
凛の声。
「こっち!」
蓮司の声。
だが、どちらも本物か分からない。
蒼真は目を閉じた。
「……」
見えなくてもいい。
聞こえなくてもいい。
風を感じる。
わずかな空気の流れ。
右。
敵。
左。
仲間。
そして――。
「そこだ!」
蒼真が風影刀を振る。
風が一直線に走った。
「ぐっ!」
敵の幻術が破れる。
暗闇が消えた。
敵の忍が膝をつく。
「……見えないはずなのに」
蒼真は刀を下ろす。
「風が教えてくれた」
影宗から教わった修行。
風を読む。
風を纏う。
風を操る。
そして――。
仲間の動きを感じる。
蒼真が三人を見る。
「みんな」
蓮司が笑う。
「言いたいことは分かるぜ」
凛も頷く。
「うん」
レイは短く答えた。
「行こう」
四人は地下通路の奥へ進む。
最上階へ続く階段を上がる。
そして――。
屋上。
そこには一本の黒い旗が立っていた。
蒼真が旗を取る。
「取った!」
蓮司が拳を握る。
「終わったな!」
その瞬間。
屋上の入口から影宗が現れた。
「そう思うか?」
四人が振り返る。
「え?」
影宗は静かに歩いてくる。
「最後の試練は、旗を取ることではない」
蒼真が目を見開く。
「……どういうことですか?」
「四人全員でここまで来たことだ」
影宗が答える。
「一人で敵を倒す力ではない」
蒼真たちを見る。
「仲間を信じ、自分の役割を理解し、状況に合わせて動く」
蓮司が笑った。
「それが今回の試練ってわけか」
「ああ」
影宗は頷く。
「お前たちは、以前とは変わった」
凛が蒼真を見る。
レイも静かに頷く。
蒼真は風影刀を見る。
以前は、強い風を出すことばかり考えていた。
今は違う。
風を見る。
感じる。
利用する。
仲間の動きを読む。
そして、必要な場所へ風を届ける。
「これで……俺たちは強くなれたんでしょうか」
影宗はすぐには答えなかった。
「強くなった」
そして続ける。
「だが、完成したわけではない」
蒼真は笑う。
「分かっています」
蓮司が刀を肩に担ぐ。
「まだまだってことだな」
凛も笑った。
「修行は続くってことね」
レイが空を見上げる。
「……風が変わった」
蒼真も空を見る。
森を抜ける風。
その向こうから、何かを知らせるような風が吹いていた。
影宗の表情が変わる。
「……そうか」
「どうしたんですか?」
「いや」
影宗は背を向ける。
「里へ戻るぞ」
四人はその後を追う。
しかし――。
同じ頃。
遠く離れた山中。
黒い装束の忍が一人、手紙を受け取っていた。
「修行を終えたか」
手紙を開く。
そこには短い文字が記されていた。
『蒼真たちの成長を確認』
忍は紙を握り潰す。
「ならば……次は実戦だ」
風が吹く。
黒い装束が揺れた。
そして、その忍は森の闇へ消えていった。
蒼真たちはまだ知らない。
次に待っているのが、修行ではなく――。
本当の戦いになることを。
第90話 完




