第89話「最後の試練」
翌朝。
蒼真たちは、黒影衆の里から離れた山中に集まっていた。
目の前に広がっているのは、深い森。
その奥には、古びた砦が見える。
影宗が四人の前に立っていた。
「今日が最後の訓練だ」
蓮司が刀の柄に手を添える。
「今までで一番厳しいんだろ?」
「ああ」
影宗は即答した。
「だからこそ、これまでの修行で身につけたものを全て使え」
蒼真が森を見る。
「何をするんですか?」
「砦の最上階にある旗を取れ」
影宗が一本の黒い旗を取り出した。
「これを持って戻ってこい」
「敵は?」
「いる」
「何人?」
「分からん」
蓮司が苦笑する。
「それ、一番嫌な答えだな」
影宗は続ける。
「敵を倒す必要はない。ただし、四人全員で戻ってこい」
凛が眉をひそめる。
「一人でも欠けたら失敗?」
「ああ」
レイが短く呟く。
「……守りながら進む」
影宗が頷いた。
「開始」
四人は森へ入った。
最初は静かだった。
鳥の声。
木々を揺らす風。
足元の葉が擦れる音。
蒼真が突然、手を上げる。
「止まって」
三人が止まる。
「どうした?」
蓮司が尋ねる。
蒼真は目を閉じた。
「風が変だ」
風が森の奥から流れてくる。
だが、一部だけ流れが乱れている。
「右」
蒼真が指を向ける。
「何かいる」
次の瞬間。
シュッ!
苦無が飛んできた。
レイが弾く。
「来る」
木の上から忍が飛び降りた。
「火遁・火弾!」
炎が飛ぶ。
凛が水を放つ。
「水遁・水弾!」
水と炎がぶつかり、蒸気が広がる。
その隙に蓮司が走る。
「俺が行く!」
刀を振る。
忍は苦無で受け止めた。
ガキン!
しかし、蓮司は力任せに押さない。
相手の力を受け流す。
「そこだ!」
身体を回転させ、敵を横へ崩す。
忍が地面を転がった。
「一人」
蓮司が構える。
しかし、蒸気の中から別の影が現れた。
「水遁・水刃!」
水の刃が飛ぶ。
レイが二本の短刀で弾く。
カンッ!
「二人目」
レイが踏み込む。
だが――。
「土遁・土壁!」
二人の間に土壁が出現した。
「また分断か!」
蓮司が叫ぶ。
蒼真が風影刀を抜く。
「風遁・風刃!」
土壁を切り裂く。
しかし、そこに敵はいなかった。
「消えた?」
凛が周囲を見る。
蒼真は地面を見る。
足跡がない。
「隠密系か……」
その瞬間。
「上!」
レイが叫んだ。
木の枝から忍が落下してくる。
蒼真が風を纏って跳ぶ。
空中で敵と交差する。
キィン!
風影刀と苦無がぶつかる。
敵が身体を捻って着地。
蒼真も着地する。
「速いな」
敵が構える。
「だが、まだ甘い」
蒼真が目を細める。
「……何?」
「お前の足元」
敵が視線を落とす。
そこには凛が作った水溜まりがあった。
蒼真は風を吹かせる。
水が一気に舞い上がる。
敵の視界を奪う。
「今だ!」
蓮司が飛び込む。
敵の攻撃を受け流し、体勢を崩す。
レイが背後を取る。
「終わり」
短刀を首元で止めた。
敵は動きを止める。
「……なるほど」
敵は苦笑した。
「以前よりは成長したな」
その声を聞いた蒼真が眉をひそめる。
「俺たちを知っている?」
忍は答えなかった。
煙玉を地面へ投げる。
「煙遁……!」
煙が広がる。
だが、蒼真は追わなかった。
「追うな」
蓮司が振り返る。
「いいのか?」
「俺たちの目的は、あいつを倒すことじゃない」
蒼真は砦を見る。
「旗を取ることだ」
四人は再び進んだ。
森を抜ける。
目の前に砦が現れた。
しかし――。
砦の入口には、大量の起爆札。
さらに壁の上には敵の忍たち。
「囲まれたな」
蓮司が刀を抜く。
「数……かなりいる」
凛が水を構える。
レイが短刀を逆手に持つ。
蒼真は砦を見上げた。
「正面突破は無理だ」
「じゃあどうする?」
蒼真は周囲を見る。
右側には崖。
左側には細い川。
そして砦の裏には、風が抜けている。
「裏から行く」
蓮司が笑う。
「そう簡単に行かせてくれるかな」
その瞬間。
砦の上から大量の苦無が降ってきた。
「来る!」
四人が散開する。
凛が水壁を作る。
「水遁・水壁!」
蓮司が苦無を弾く。
レイが二本の短刀で次々と撃ち落とす。
蒼真は風を纏う。
「俺が道を作る!」
風圧で敵の足元を崩す。
「今!」
四人は一気に走り出した。
だが、砦の裏へ回った瞬間――。
地面が崩れた。
「なっ!」
四人の身体が落下する。
「蒼真!」
「凛!」
暗闇の中へ、四人が次々と落ちていく。
ドンッ!
地下に広がる空間。
四人は何とか着地した。
蒼真が立ち上がる。
「……地下通路か」
壁には古い忍術の紋様。
そして、奥には階段が続いている。
蓮司が立ち上がる。
「砦の地下にこんなのがあるとはな」
凛が壁を見る。
「誰かが作ったみたい」
レイが奥を見つめる。
「敵が来る」
遠くから足音が響く。
一つではない。
複数。
蒼真が風影刀を抜く。
「ここからが本番だ」
四人は背中を合わせた。
修行の集大成。
それぞれが身につけた力を、今度は本当の意味で一つにする。
階段の奥から、忍たちが姿を現した。
第89話 完




