第88話「連携崩し」
煙が晴れない。
訓練場の中には、何人もの忍が散らばっていた。
蒼真たちは四体の人形を囲むように立っている。
「数が多すぎる……」
蓮司が刀を構えた。
敵は十人以上。
火遁、水遁、土遁、雷遁。
さらに分身と隠密を使う忍まで混ざっている。
蒼真は周囲の風を読む。
「気をつけろ」
「何か分かった?」
凛が尋ねる。
「本物が何人いるのか分からない」
その直後。
「雷遁・雷走!」
一人の忍が突っ込んできた。
レイが迎え撃つ。
キィン!
短刀と苦無がぶつかる。
「速い……!」
レイが一歩下がる。
そこへ別の忍が背後から迫った。
「レイ!」
蓮司が割り込む。
しかし――。
「水遁・水弾!」
水の弾丸が飛んできた。
蓮司は刀で弾く。
「くっ!」
その隙に雷遁の忍が人形へ走った。
「させるか!」
レイが追う。
だが、地面から土の壁が飛び出した。
「土遁・土壁!」
レイの進路が塞がれる。
「しまった!」
敵は最初からレイを狙っていた。
蒼真が気づく。
「違う!」
「え?」
凛が振り返る。
「敵は人形を狙ってるんじゃない!」
蒼真が叫んだ。
「俺たちを一人ずつ引き離そうとしてる!」
その言葉と同時に、火遁の忍が凛へ攻撃を仕掛けた。
「火遁・火炎弾!」
凛が水壁を作る。
「水遁・水壁!」
炎が水壁にぶつかる。
ジュウッ!
大量の蒸気が発生する。
凛の視界が奪われた。
「凛!」
蒼真が駆ける。
だが、その前に土遁の忍が現れた。
「通さない」
「邪魔だ!」
蒼真が風影刀を振る。
風刃が飛ぶ。
敵は土壁を作って防御する。
その間に、別の忍が蒼真の横を抜けた。
狙いは人形。
「しまった!」
蒼真が振り返る。
しかし――。
蓮司が先回りしていた。
「そこまでだ!」
刀を振り抜く。
敵は苦無で受け止める。
「重い……!」
蓮司が押し込む。
敵が後ろへ飛ぶ。
その瞬間、蓮司の足元に札が落ちた。
「……!」
「蓮司、そこから離れて!」
レイの声。
ドンッ!
爆発。
蓮司の身体が吹き飛ぶ。
「蓮司!」
蒼真が駆け寄ろうとする。
だが――。
「蒼真、動かないで!」
凛が叫んだ。
蒼真の足元にも札が仕掛けられている。
「……!」
蒼真は動きを止めた。
敵は罠を使っている。
ただ攻撃しているわけではない。
仲間を助けようとする動きすら利用している。
「これが……実戦か」
蒼真が呟く。
遠くで蓮司が立ち上がる。
「問題ねえ!」
服は土で汚れている。
額から血が流れている。
それでも刀を握っていた。
「でも、どうする?」
凛が周囲を見る。
「助けに行けば罠にかかる」
レイも敵を警戒する。
「ならば、助けに行かなくてもいい状況を作る」
蒼真が言った。
三人が蒼真を見る。
「敵を倒すんじゃない」
蒼真は風影刀を地面へ向ける。
「敵の動きを変える」
風が巻き起こる。
「風遁・風圧!」
強風が訓練場を横切る。
敵の忍たちが体勢を崩した。
同時に凛が印を結ぶ。
「水遁・水流!」
水が地面を走り、敵の足元を濡らす。
「蓮司!」
「分かった!」
蓮司が地面を蹴る。
敵の攻撃を正面から受けるのではなく、刀で受け流す。
一人。
二人。
敵の位置が変わっていく。
「レイ!」
「任せて」
レイが二本の短刀を構えた。
敵の背後へ回り込む。
一人の忍がレイを追う。
しかし――。
レイは人形の前を通過する。
敵がそのまま追いかける。
「今!」
蓮司が刀を振る。
敵の足元へ土が跳ね上がる。
凛の水遁で地面が泥になっていた。
敵の足が沈む。
「動けない!」
レイの短刀が喉元で止まった。
「一人」
蒼真が周囲を見る。
まだ敵は残っている。
だが、先ほどとは違う。
四人が別々に動いていない。
お互いの位置を意識しながら、敵を誘導している。
「このまま行くぞ!」
蒼真が走る。
「おう!」
「うん!」
「了解」
四人が一斉に動く。
しかし――。
その瞬間。
影宗が手を上げた。
「そこまでだ」
敵も四人も動きを止める。
訓練終了だった。
蒼真は息を整える。
「……まだ敵が残ってます」
「ああ」
影宗は頷く。
「だからこそ止めた」
蓮司が首を傾げる。
「どういうことだ?」
影宗は訓練場を見渡した。
「お前たちは最初、仲間を助けようとして連携を崩した」
「……」
「だが途中から、仲間を直接助けるのではなく、仲間が動きやすい状況を作るようになった」
凛が頷く。
「相手を倒すことだけが、仲間を守る方法じゃない……」
「そういうことだ」
影宗は蒼真を見る。
「蒼真」
「はい」
「お前は風を読むようになった」
「……はい」
「次は、人を読むことだ」
蒼真の表情が変わる。
「人を……?」
「敵が何をするか」
影宗が続ける。
「仲間が何を考えているか」
風影刀を見る。
「それを感じ取れれば、お前たちの連携はさらに変わる」
蒼真は静かに頷いた。
修行は、ただ技を磨くだけではない。
相手を見る。
仲間を見る。
そして戦場そのものを見る。
それが、忍として生き残るための力だった。
影宗が背を向ける。
「明日が最後の訓練だ」
四人が顔を見合わせる。
最後の訓練。
そこで何が待っているのか。
まだ誰にも分からなかった。
第88話 完




