第87話「守る戦い」
翌朝。
蒼真たちは、黒影衆の訓練場に集まっていた。
昨日までとは違い、訓練場の周囲には木製の人形がいくつも設置されている。
さらに地面には、細い糸や札が仕掛けられていた。
「……罠まであるな」
蓮司がしゃがみ込み、地面を見る。
凛も周囲を見渡した。
「昨日より本格的」
レイは無言で木々の上を見る。
その視線の先には、複数の苦無が仕込まれていた。
影宗が姿を現す。
「今日の課題は単純だ」
四人を見る。
「守ることだ」
蒼真が風影刀に手を添える。
「誰を?」
影宗が指を鳴らす。
すると、訓練場の奥から四体の木製人形が運ばれてきた。
「この人形だ」
蓮司が目を丸くする。
「人形を?」
「敵はお前たちではなく、人形を狙う」
影宗が続ける。
「人形を一体でも破壊された時点で訓練終了だ」
「なるほど……」
蒼真が人形を見る。
四体の人形には、それぞれ色の違う布が巻かれている。
「つまり、俺たちは人形を守りながら敵と戦う」
「そういうことだ」
影宗が手を上げる。
「開始」
瞬間。
ドンッ!
遠くから煙玉が投げ込まれた。
「煙!」
視界が一気に白くなる。
「気をつけろ!」
蒼真が叫んだ。
その直後。
シュッ!
煙の中から苦無が飛んでくる。
「右!」
レイが二本の短刀で弾く。
カンッ!
さらに反対側から三本。
「凛!」
「任せて!」
凛が水壁を展開する。
「水遁・水壁!」
苦無が水壁に突き刺さる。
しかし――。
「まだ来る!」
蓮司が叫ぶ。
木々の間から、次々と苦無が飛んできた。
蒼真は風を感じ取る。
「上!」
全員が伏せる。
頭上を苦無が通り抜ける。
そのまま背後の木に突き刺さった。
「敵が多い……!」
蓮司が構える。
煙の向こうから複数の影が現れた。
昨日の四人とは違う。
今日はさらに数が多い。
火遁を使う忍。
水遁を使う忍。
土遁を使う忍。
雷遁を使う忍。
そして、術を使わず隠密に徹する忍たち。
「人形を狙え!」
敵の一人が叫ぶ。
一斉に敵が動き出した。
「来るぞ!」
蒼真が前へ出る。
「風遁・風壁!」
強風が吹き荒れる。
敵の動きを一瞬止める。
だが、その隙に別の忍が地面へ手をついた。
「土遁・土潜り!」
身体が地面へ沈んでいく。
「地下から来る!」
蒼真が気づく。
だが、どこから出てくるか分からない。
その時。
ドンッ!
一体の人形の足元から土が盛り上がった。
「まずい!」
蓮司が走る。
土の中から忍が飛び出し、人形へ苦無を突き出した。
ガキン!
蓮司の刀が苦無を弾き飛ばす。
「させるか!」
敵が後ろへ跳ぶ。
蓮司は追わない。
人形の前に立つ。
「ここは通さねえ!」
その瞬間、背後から炎が飛んできた。
「火遁・火球!」
蓮司が振り返る。
「しまっ――」
水が炎を包み込んだ。
ジュウッ!
凛が水遁で防いだ。
「蓮司、前だけ見て!」
「悪い!」
「謝ってる暇ないよ!」
凛の背後から、別の忍が迫る。
「凛!」
レイが二本の短刀を交差させる。
ガキン!
忍の苦無を受け止めた。
そのまま身体を回転させる。
「遅い」
短刀の柄で敵の腕を打つ。
敵がよろめく。
しかし、レイは追撃しなかった。
「……人形」
敵を倒すより、人形を守る。
それを理解していた。
その時――。
バチッ!
雷が地面を走った。
「雷遁・雷走!」
敵の一人が一気に距離を詰める。
狙いは人形。
蒼真が立ちはだかる。
「行かせるか!」
風影刀を抜く。
雷を纏った苦無と風影刀がぶつかる。
ギィン!
蒼真が押し返される。
「速い……!」
敵はさらに加速する。
「雷遁・瞬雷!」
姿がぶれる。
蒼真は目を細めた。
目で追うのではない。
風を読む。
空気の流れが変わる。
「そこだ!」
風影刀を振る。
敵の苦無が弾き飛ばされた。
「なにっ!」
蒼真はそのまま敵を追撃する。
しかし――。
「蒼真!」
凛の叫び。
蒼真が振り返る。
別の忍が、二体目の人形へ向かっていた。
「しまった!」
蒼真が走ろうとする。
だが間に合わない。
その瞬間。
蓮司が飛び込んだ。
「俺がいる!」
刀で敵の攻撃を受ける。
さらにレイが横から敵の足を払う。
凛が水の縄を飛ばした。
「水遁・水縛!」
敵の身体を拘束する。
蒼真が人形の前へ戻る。
四人が再び人形を囲む。
「……これか」
蒼真が呟いた。
「何?」
凛が尋ねる。
「俺たち、一人で全部守ろうとしてた」
蓮司が頷く。
「だから隙ができた」
レイが敵を見ながら呟く。
「守る場所を決める」
蒼真が四体の人形を見る。
「四人で一体ずつ守るんじゃない」
風影刀を構える。
「全員で、全部守る」
その瞬間。
木の上から大量の札が落ちてきた。
「起爆札!」
蓮司が叫ぶ。
ドドドドドッ!
地面が次々と爆発する。
人形の周囲が崩れていく。
四人は一斉に動いた。
蒼真が風で爆風を逸らす。
凛が水で火を消す。
蓮司が崩れた木材を受け止める。
レイが飛んできた苦無を弾く。
一人では間に合わない。
だが――。
四人なら間に合う。
「まだ終わってない!」
蒼真が叫ぶ。
煙の向こうから、さらに敵が現れる。
その数は、最初より多かった。
影宗は離れた場所から戦いを見ていた。
「さて……」
静かに目を細める。
「ここからが本番だ」
第87話 完




