第86話「忍術の連携」
四人の訓練忍が同時に印を結んだ。
「火遁・豪火球!」
「水遁・水流弾!」
「土遁・土弾!」
「雷遁・雷撃!」
四方向から忍術が飛んでくる。
蒼真は周囲を見渡した。
「正面から受けるな!」
四人は散開する。
火球が木を焼き、水流弾が地面を削り、土弾が地面を跳ね、雷撃が木々の間を走り抜けた。
しかし、それだけでは終わらなかった。
水遁の忍が地面へ大量の水を流す。
「水遁・水流陣!」
地面一帯が水で覆われた。
「まずい!」
凛が叫ぶ。
その瞬間、雷遁の忍が水面へ手を伸ばした。
「雷遁・雷網!」
バチバチバチッ!
雷が水面を走った。
蒼真たちは慌てて木の上へ飛び移る。
「さっきより威力が上がってる!」
蓮司が下を見る。
「水と雷を組み合わせてるのか!」
「それだけじゃない」
レイが周囲を見た。
土遁の忍が手を地面へついている。
「土遁・土壁!」
四方から土壁が立ち上がった。
逃げ道が塞がれる。
そして――。
「火遁・炎陣!」
土壁の内側を炎が走った。
「閉じ込めてから火を使うつもりか!」
蒼真が風影刀を構える。
「風遁・風壁!」
強風が炎を押し返す。
だが、炎は消えない。
むしろ風によって勢いを増した。
蒼真の目が見開かれる。
「しまった……!」
火遁に風をぶつければ、炎を強くしてしまう。
「蒼真!」
凛が水を放つ。
「水遁・水壁!」
大量の水が炎を包み込む。
ジュウウッ!
蒸気が一気に広がった。
「今だ!」
蓮司が土壁へ走る。
刀を構え、一気に斬り込んだ。
「はあっ!」
ガキン!
土壁に亀裂が入る。
しかし、完全には崩れない。
その隙を狙い、雷遁の忍が飛び込んできた。
「雷遁・雷走!」
「蓮司!」
レイが割り込む。
二本の短刀で雷を纏った苦無を受け止めた。
ギィン!
激しい火花が散る。
「速い……!」
レイが押し込まれる。
「だったら――」
レイは片方の短刀を下げた。
雷遁の忍が一気に踏み込む。
その瞬間。
レイは身体を横へ流した。
「……ここ」
敵の腕を短刀で受け流す。
雷遁の忍の身体が前へ流れた。
そこへ蓮司が踏み込む。
「任せろ!」
刀の柄で敵の腕を打ち上げる。
レイの二本の短刀が交差した。
「終わり」
だが――。
雷遁の忍は姿を消した。
「影分身……!」
レイが振り返る。
本体は遥か後方。
敵はすでに印を結んでいた。
「雷遁・雷弾!」
雷の塊が放たれる。
レイと蓮司が左右へ飛ぶ。
その雷弾は二人を通り過ぎ――。
背後の土壁へ命中した。
ドンッ!
土壁が崩れる。
「道ができた!」
蓮司が叫ぶ。
「違う!」
蒼真が叫び返す。
崩れた土壁の向こうには、水で覆われた地面が広がっていた。
そして、その先に炎。
「雷を水へ流すつもりだ!」
凛がすぐに理解した。
「また同じ連携……!」
蒼真は風を読む。
敵の動き。
術の流れ。
地形。
すべてを一つずつ確認する。
そして気づいた。
「……水を消す必要はない」
「え?」
凛が振り返る。
蒼真は水面を見た。
「敵は水を使って雷を広げてる」
「だったら……」
「水の流れを変えればいい」
凛が頷いた。
「私がやる」
凛は両手を水面へ向けた。
「水遁・水流転!」
水面の流れが変わる。
雷が流れる方向も変わっていく。
「今だ!」
蒼真が風を放つ。
「風遁・風刃!」
風の刃が水面の一部を切り裂いた。
雷の通り道が分断される。
「雷が止まった!」
蓮司が叫ぶ。
その瞬間、蒼真は走り出した。
「敵の術を消すんじゃない!」
風を纏う。
「利用する!」
蒼真は土壁へ向かって風を放つ。
土壁が崩れ、土煙が舞い上がる。
「煙を……!」
蓮司が意図を理解する。
レイもすぐに動いた。
「見えなくする」
二人が土煙の中へ飛び込む。
訓練忍たちの動きが止まった。
「どこだ……?」
その一瞬。
土煙の中から蓮司が飛び出した。
「ここだ!」
訓練忍が反応する。
しかし、蓮司は攻撃せず、そのまま横へ移動した。
敵の視線が蓮司を追う。
そこへ――。
「水遁・水槍!」
凛の水槍が飛ぶ。
訓練忍は土壁を作って防ぐ。
「土壁!」
水槍が土壁に突き刺さる。
その瞬間、蒼真が風を叩き込んだ。
「風遁・風圧!」
土壁が大きく揺れる。
「今!」
レイが背後へ回り込む。
二本の短刀が、訓練忍の首元で止まった。
「……そこまでだ」
影宗の声が響いた。
四人の訓練忍が動きを止める。
蒼真たちは息を整えた。
影宗がゆっくり歩いてくる。
「今の連携は悪くない」
四人が顔を見合わせる。
「だが、まだ足りない」
「……足りない?」
蒼真が聞き返す。
影宗は四人の周囲を見渡した。
「お前たちは、敵の術を利用することを覚えた」
「だったら十分じゃないんですか?」
蓮司が尋ねる。
「忍の戦いは、一人の術だけで決まらない」
影宗は地面を指差した。
「地形」
次に木々を見る。
「天候」
そして四人を見る。
「仲間の位置」
最後に訓練忍たちを見る。
「敵の性格」
影宗の目が鋭くなる。
「これら全てを戦いながら判断できなければ、本当の実戦では生き残れん」
蒼真は黙って聞いていた。
今までの戦いとは違う。
忍術そのものだけではない。
その術が、どこで、誰によって、どう使われるのか。
それまで読む必要がある。
「次の訓練では、もっと厄介な条件を加える」
影宗が告げた。
凛が首を傾げる。
「条件?」
「ああ」
影宗が振り返る。
「お前たちは、仲間を守りながら戦え」
四人の表情が変わった。
「一人でも判断を間違えれば、全員が不利になる」
蒼真は風影刀を握り直した。
修行は、さらに厳しくなろうとしていた。
第86話 完




