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影狼ノ忍  作者: 次男坊
第3章「風遁修行編」
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第82話「迅牙の目的」

森には、戦いの余韻が残っていた。


地面には無数の傷跡。


折れた木。


飛び散った水。


そして、迅牙の刀が地面に落ちている。


蒼真は風影刀を構えたまま、迅牙を見据えていた。


蓮司、凛、レイも警戒を解かない。


「夜叉衆として、何をしに来た?」


迅牙は答えない。


「……」


蒼真が一歩近づく。


「俺たちを倒すためか?」


「違う」


迅牙がようやく口を開いた。


「なら、何のために来た?」


迅牙は蒼真を見る。


「確認だ」


「確認?」


「お前たちが、どこまで成長したのか」


蓮司が眉をひそめる。


「俺たちの修行を見に来ただけってのか?」


「それだけなら、俺はここまで戦わない」


迅牙は落ちた刀へ視線を向けた。


「俺が命じられたのは、お前たちの実力を確かめることだ」


「誰に?」


迅牙は少し黙った。


「……夜叉衆の上層部だ」


凛が反応する。


「上層部が、私たちを?」


「ああ」


迅牙が続ける。


「北東村での一件以降、お前たちは夜叉衆にとって無視できない存在になった」


蒼真が刀を握る。


「風影刀があるからか?」


「それだけじゃない」


迅牙が蒼真を見る。


「お前自身だ」


「俺が?」


「風を読む能力」


迅牙は蒼真の足元を見る。


「戦いの中で、お前は俺の雷遁による動きまで読み始めた」


レイが口を開く。


「それが理由?」


「一つの理由だ」


迅牙が答える。


「もう一つある」


森の風が吹く。


葉が揺れた。


迅牙はその風を感じるように目を細めた。


「風影刀だ」


蒼真の表情が変わる。


「やっぱり……」


「夜叉衆は、あの刀を警戒している」


「なぜ?」


迅牙は答えない。


蓮司が一歩前へ出る。


「ここまで来たんだ。いい加減話せよ」


迅牙が蓮司を見る。


「俺が知っているのは一部だけだ」


「一部?」


「風影刀について、夜叉衆の中でも意見が分かれている」


凛が聞く。


「意見が?」


「ああ」


迅牙はゆっくり立ち上がった。


「破壊すべきだという者」


「……」


「監視すべきだという者」


そして蒼真を見る。


「利用できると考えている者もいる」


蒼真の表情が険しくなる。


「利用するって……何に?」


「それは知らない」


迅牙が首を振る。


「ただ、一つだけ確かなことがある」


「何だ?」


「お前が風影刀を持っている限り、夜叉衆はお前を放っておかない」


沈黙が落ちた。


凛が小さく呟く。


「また狙われる……」


「そうなるだろうな」


迅牙が答える。


蓮司が拳を握る。


「だったら、また来たら倒すだけだ」


「簡単に言うな」


迅牙が蓮司を見る。


「俺より強い忍は、夜叉衆にまだいる」


蒼真が聞く。


「四刃衆か?」


迅牙は少しだけ目を細めた。


「知っているのか」


「黒牙のガクや、鉄鬼のゴウとは戦った」


「なら分かるだろう」


迅牙は落ちた刀を拾った。


「俺は四刃衆ではない」


蓮司が驚く。


「……じゃあ、お前は?」


迅牙は刀についた土を払う。


「ただの夜叉衆の忍だ」


レイが静かに尋ねる。


「四刃衆より下?」


「そういうことになる」


蓮司が言葉を失う。


蒼真も黙った。


これまで戦った四刃衆。


そのさらに上にいる者たち。


そして――


目の前の迅牙でさえ、その一角ではない。


迅牙は刀を腰へ戻した。


「今日のところは終わりだ」


蒼真が風影刀を向ける。


「逃がすと思うか?」


「俺は負けを認めた」


迅牙は蒼真を見る。


「だが、今ここで殺し合う理由もない」


「……」


「お前たちの実力は確認した」


迅牙が森の奥へ歩き出す。


蒼真は追わなかった。


「待て」


迅牙が振り返る。


「何だ?」


「次に来る奴は?」


迅牙は少し考える。


「俺より強いとは限らない」


「……」


「だが、俺とは違う」


迅牙の目が鋭くなる。


「忍術を見せることすらせず、お前たちを仕留める奴もいる」


その言葉を残し、迅牙は森の奥へ消えていった。


蓮司がため息をつく。


「……結局、嫌な情報だけ残していったな」


凛が蒼真を見る。


「蒼真、大丈夫?」


「ああ」


蒼真は風影刀を見る。


「でも……」


風影刀の刃に、森の風が触れる。


「俺たちはまだ知らないことが多すぎる」


レイが短刀を収める。


「だから修行する」


蒼真が頷く。


「そうだな」


四人は傷ついた身体を引きずりながら、黒影衆の里へ戻ることにした。


だが――


その頃。


森から離れた場所。


迅牙は一人で歩いていた。


肩の傷を押さえながら、空を見上げる。


「……四人とも、想像以上だった」


そして小さく呟く。


「特に蒼真……」


その表情には、わずかな警戒が浮かんでいた。


「風を読むだけじゃない」


迅牙は歩みを止める。


「戦いながら、相手の動きを変えている」


その先に、黒い影が一つ現れた。


「報告しろ」


迅牙は影へ向き直る。


「……蒼真たちは、確実に成長している」


影は何も答えない。


「ならば、次の段階へ進める」


迅牙はその言葉を聞き、黙って目を伏せた。


第82話 完

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