第76話「二刀対雷遁」
レイと迅牙。
二人は互いに構えたまま、動かなかった。
森には、葉が擦れる音だけが響いている。
迅牙の足元で、雷が小さく弾けた。
「来い」
レイが短刀を低く構える。
「望み通りにしてやる」
バチッ!
迅牙が踏み込んだ。
「雷遁・瞬雷歩!」
一瞬で距離が消える。
「……!」
レイは反応した。
右の短刀で斬撃を受ける。
ガキィン!
だが――
迅牙の姿が消えた。
「後ろ!」
蒼真が叫ぶ。
レイが振り向く。
迅牙の刀が迫っていた。
キィン!
レイは左の短刀で受け止める。
しかし、迅牙は止まらない。
「まだだ!」
雷を纏った脚が地面を蹴る。
一気に横へ回り込む。
レイも身体を回転させ、二本の短刀を連続して振る。
ガキン!
ガキン!
迅牙が一歩下がった。
「……速さだけなら、俺の方が上だ」
「そうかもしれない」
レイは冷静だった。
「でも、お前には弱点がある」
迅牙の眉が動く。
「何?」
「速く動くほど、動き始める瞬間に癖が出る」
「……」
「右足から踏み込む」
レイが言った。
「そして、二度目の加速では必ず身体を少し左へ傾ける」
迅牙の目が細くなる。
「よく見ている」
「見ているだけじゃない」
レイが構えを変える。
「利用する」
次の瞬間。
迅牙が踏み込んだ。
「雷遁・瞬雷歩!」
バチィッ!
レイは動かなかった。
迅牙が右から迫る。
レイは一歩だけ後ろへ下がった。
刀が目の前を通過する。
迅牙が左へ回り込む。
レイは左の短刀を突き出した。
ギンッ!
迅牙が刀で弾く。
そこへ右の短刀。
迅牙が身体を反らす。
刃が胸元を掠めた。
「チッ!」
迅牙が距離を取る。
レイの頬に笑みが浮かぶ。
「当たった」
「……一度読まれた程度で勝ったつもりになるな」
迅牙の周囲で雷が激しくなる。
バチバチバチッ!
「なら、読めない速度にする」
「……!」
迅牙の姿が消えた。
「レイ!」
凛が叫ぶ。
だがレイは目を閉じた。
「……」
耳を澄ます。
足音はない。
風を切る音も、ほとんど聞こえない。
それでも――
「そこだ!」
レイが身体を捻った。
ガキィン!
迅牙の刀を受け止めた。
「なに……?」
迅牙が驚く。
レイはそのまま二本の短刀を交差させる。
迅牙の刀を挟み込んだ。
「捕まえた」
「甘い!」
迅牙が雷を放つ。
バチィッ!
レイの身体が痺れる。
「ぐっ……!」
一瞬、腕の力が抜ける。
迅牙が刀を引き抜こうとする。
しかし――
レイは離さなかった。
「この程度……!」
二本の短刀で刀を押さえ続ける。
迅牙の顔から余裕が消える。
「まだ動けるのか」
「二本使ってるんだ」
レイが力を込める。
「一本より、できることは多い」
レイが左足を踏み込む。
身体を捻り、迅牙の刀を横へ流した。
その瞬間――
右の短刀が迅牙の肩へ迫る。
迅牙が身を引く。
ザシュッ!
肩口が浅く斬れる。
「……!」
血が落ちる。
迅牙は傷口を押さえた。
「やるな」
レイも息を荒くしている。
雷による痺れが残っている。
それでも二本の短刀を構えた。
その様子を見ていた蓮司が口を開く。
「レイ、かなり食らってるぞ」
「分かってる」
蒼真も迅牙を見つめる。
「でも、迅牙も無傷じゃない」
迅牙の肩から血が流れている。
蒼真は風を読む。
「……雷遁には限界がある」
「何?」
凛が聞く。
「さっきから雷の強さが少しずつ変わってる」
蒼真は迅牙の足を見る。
「ずっと最大速度を維持できるわけじゃないんだ」
迅牙が笑った。
「よく見ているな、風遁使い」
刀を構え直す。
「だが――」
バチッ!
雷が再び足元を包む。
「その程度の分析で、俺を止められると思うな」
迅牙が地面を蹴る。
今度はレイではない。
蒼真へ向かって一直線に突っ込んだ。
「蒼真!」
凛が水遁を構える。
蓮司も木刀を握る。
レイは二本の短刀を構え直した。
「全員で来い」
迅牙が叫ぶ。
「今度は四人まとめて相手をする!」
蒼真が風影刀を抜いた。
「望むところだ」
風が巻き起こる。
四人と迅牙。
再び、五人の戦いが始まった。
第76話 完




