第74話「黒刃の迅牙、再び」
黒影衆の修行場。
蒼真たちは身構えたまま、森の奥から現れた迅牙を見ていた。
迅牙は刀の柄に手を添えたまま、ゆっくり歩いてくる。
「四人とも、随分と腕を上げたようだな」
蓮司が木刀を構える。
「お前が来ることは分かってた」
「なら話は早い」
迅牙が足を止めた。
「修行の成果を見せてもらう」
レイが低く構える。
「蒼真。一人で相手をするな」
「分かってる」
凛も両手を構えた。
「四人で戦おう」
迅牙が笑う。
「四人か」
刀を抜く。
「面白い」
その瞬間――
消えた。
「!」
蒼真が風を感じる。
「右!」
ガキィン!
蓮司が反射的に木刀を振り、迅牙の斬撃を受け止めた。
「ぐっ!」
迅牙の速度に押され、蓮司の身体が後ろへ滑る。
「速い……!」
迅牙は間髪入れずに二撃目を放つ。
ガンッ!
今度はレイが二本の短刀で受けた。
しかし、迅牙は刀を引いた瞬間、身体を低く沈める。
「遅い」
レイの懐へ入り込む。
「なっ!」
レイが後ろへ跳ぶ。
その瞬間、凛が水を放った。
「水遁・水弾!」
迅牙が横へ跳ぶ。
水弾が地面を抉る。
蒼真が踏み込んだ。
「風遁・風刃!」
鋭い風が迅牙へ迫る。
迅牙は刀を振り、風刃を斜めに受け流した。
「なるほど」
迅牙の目が蒼真へ向く。
「以前とは違うな」
「こっちも同じだ!」
蒼真が風を纏う。
一気に加速。
「風遁!」
迅牙との距離を詰める。
ガキン!
刀と風影刀がぶつかった。
「……!」
蒼真の腕に衝撃が走る。
迅牙が押し込む。
「速くなったな」
「お前もな!」
蒼真は風を足元へ集める。
身体を横へ流し、迅牙の斬撃をかわす。
そのまま背後へ回ろうとする。
しかし――
迅牙も同時に振り向いた。
ガンッ!
再び刀がぶつかる。
互いに距離を取る。
「蒼真!」
蓮司が横から入る。
「俺もいるぞ!」
木刀が迅牙へ振り下ろされる。
迅牙は受け止める。
その隙にレイが背後へ回る。
「今度は逃がさない」
左右の短刀が迫る。
迅牙は身体を捻り、一本をかわす。
もう一本が袖を切り裂いた。
「……!」
迅牙が初めて表情を変えた。
凛がその瞬間を逃さない。
「水遁・水縛!」
地面から水が伸び、迅牙の足へ絡みつく。
「捕まえた!」
迅牙の動きが止まる。
蒼真が風影刀を構えた。
「今だ!」
四人が一斉に動く。
だが――
迅牙は足元の水を刀で切り裂いた。
水が飛び散る。
その一瞬の隙に身体を低く沈める。
「甘い」
シュッ!
迅牙が凛の横を通り抜ける。
「凛!」
蓮司が追う。
迅牙は振り向きざまに斬撃。
ガンッ!
蓮司が受け止める。
「こいつ……!」
蓮司の腕が震える。
迅牙は力を抜かない。
「お前は以前より強くなった」
「だったら――」
蓮司は一歩踏み込む。
「俺も負けねえ!」
木刀を横へ滑らせ、迅牙の刀を受け流す。
迅牙の身体が僅かに崩れた。
「!」
蓮司が木刀を振り抜く。
迅牙が後ろへ跳ぶ。
だが、レイが待っていた。
「そこだ」
二本の短刀が左右から迫る。
迅牙は一歩下がる。
しかし、その背後から凛の水流が迫った。
「逃がさない!」
水流が地面を走る。
迅牙の逃げ道が塞がれる。
蒼真も風を纏って加速した。
四人が初めて、迅牙を完全に囲んだ。
迅牙は刀を構え直す。
「……いい連携だ」
蒼真が睨む。
「今度はこっちの番だ」
迅牙の口元が僅かに上がる。
「そうでなくては面白くない」
その瞬間――
迅牙の構えが変わった。
今までとは明らかに違う。
レイが目を細める。
「……来るぞ」
迅牙の身体が低く沈む。
次の瞬間。
四人へ向かって、凄まじい速度で踏み込んだ。
第74話 完




