第73話「実戦形式」
午後。
黒影衆の修行場。
蒼真、蓮司、凛、レイの四人が並んで立っていた。
少し離れた場所には影宗がいる。
「今日は実戦形式で行う」
蓮司が木刀を構えた。
「相手は?」
影宗が腰の刀に手を添える。
「俺だ」
四人の空気が変わった。
蒼真が風影刀を抜く。
「師匠相手でも、本気でいいんだな?」
「もちろんだ。ただし殺傷は禁止する」
凛が少し緊張した表情を浮かべる。
「四人で一緒に?」
「ああ」
レイが二本の短刀を構える。
「分かった」
影宗が目を閉じる。
「始め」
瞬間。
影宗の姿が消えた。
「どこだ!?」
蓮司が周囲を見回す。
その背後に影宗。
「遅い」
ガンッ!
木刀が蓮司の背中を叩く。
「ぐっ!」
蓮司が前へ転がる。
「蓮司!」
凛が水を放つ。
「水遁・水弾!」
影宗が横へ跳ぶ。
その隙に蒼真が踏み込む。
「風遁・風刃!」
鋭い風が走る。
影宗は刀で受け流した。
「力は上がったな」
「まだまだ!」
蒼真が距離を詰める。
影宗の刀と風影刀がぶつかる。
ガンッ!
蒼真が押し込む。
その背後からレイが回り込む。
「今だ」
二本の短刀が左右から迫る。
影宗は身体を低くしてかわした。
「そこ!」
凛が水を地面へ流す。
「水遁・水縛!」
水が影宗の足元へ絡みつく。
一瞬、動きが止まる。
蒼真が叫ぶ。
「蓮司!」
「任せろ!」
蓮司が踏み込む。
木刀を大きく振り上げる。
「せやっ!」
影宗は足を引き抜き、木刀を受け止める。
だが――
レイがすでに横へ回っていた。
「終わりだ」
短刀が影宗の肩へ迫る。
影宗は身体を捻る。
ギリギリでかわした。
「まだだ」
影宗が蓮司の木刀を弾く。
続けてレイの短刀を一本弾き飛ばす。
「なっ!」
「レイ!」
蒼真が風を放つ。
「風遁・風弾!」
影宗は後ろへ跳ぶ。
凛がすぐに水壁を展開する。
「水遁・水壁!」
風弾が水壁を押し込み、影宗の視界を塞ぐ。
「今!」
蓮司が走る。
レイも落とした短刀を拾い、反対側へ回る。
蒼真は中央。
凛は後方。
四人の動きが自然に噛み合った。
影宗の逃げ道を三方向から塞ぐ。
「これなら――」
蒼真が踏み込んだ瞬間。
影宗が地面を蹴った。
高く跳び上がる。
四人の頭上を越えて着地した。
「……!」
全員が振り返る。
影宗は刀を収めた。
「ここまでだ」
蒼真は息を切らしながら振り返る。
「今の……避けられたのか」
「ああ」
「でも、最初より戦えてた」
影宗が頷く。
「連携は良くなった」
蓮司が木刀を肩に担ぐ。
「じゃあ、俺たちの勝ちに近づいてるってことだな」
「まだ遠い」
「厳しいな……」
凛が苦笑する。
影宗は四人を見る。
「だが、確実に変わった」
蒼真たちは顔を見合わせる。
一人では届かなかった場所。
それが、四人なら少しずつ近づいている。
その時だった。
森の奥から、枝が折れる音が響いた。
パキッ。
四人が一斉に振り向く。
レイが短刀を構える。
「誰かいる」
蒼真も風影刀を構えた。
風を読む。
木々の間を流れる空気。
その中に、僅かな人の気配が混じっている。
「……いる」
影宗の表情が険しくなる。
「全員、構えろ」
森の奥。
黒い影が一本の木の陰から姿を現した。
黒い衣。
腰には刀。
「随分と楽しそうな修行をしているな」
蒼真の目が鋭くなる。
「迅牙……!」
黒刃の迅牙は刀に手を添えた。
「修行の成果を見せてもらおうか」
四人が身構える。
影宗も刀を抜く。
修行だった時間は終わった。
次は、本当の戦いが始まろうとしていた。
第73話 完




