第71話「レイの二刀」
朝。
黒影衆の修行場。
レイは二本の短刀を握り、目の前に並んだ木の標的を見つめていた。
右に三つ。
左に三つ。
合計六つ。
影宗が離れた場所から告げる。
「すべて斬れ」
レイは構えを低くする。
次の瞬間――
シュッ!
一気に踏み込む。
右の短刀で一つ。
左で一つ。
身体を回転させ、さらに二つ。
最後の二つへ向かう。
しかし――
ガッ!
短刀の刃が木に引っ掛かった。
残った標的が倒れずに残る。
レイは動きを止めた。
「……遅い」
影宗が近づく。
「速さの問題ではない」
「じゃあ何だ?」
「二本の刀を、別々に使おうとしている」
レイは二本の短刀を見る。
「別々に?」
「右手と左手。それぞれで敵を斬ろうとしている」
影宗は木刀を構えた。
「二本を一つの動きとして使え」
レイは黙って考える。
右で攻撃する。
相手が右を防ぐ。
その瞬間に左で攻撃する。
今までなら、それを繰り返していた。
だが――
相手の動きを誘導する。
右で攻める。
左で逃げ道を塞ぐ。
そして、最後に右。
「……そういうことか」
レイが再び構える。
「もう一度」
六つの標的。
レイが走る。
右。
左。
右。
左。
二本の短刀が交互に動く。
だが、今度は単純な連続攻撃ではない。
一方の攻撃が、もう一方の攻撃への道を作っていく。
最後の標的へ。
レイは身体を沈め、二本の短刀を交差させた。
ザッ!
二つの標的が同時に斬れる。
すべての標的が倒れた。
影宗が頷く。
「今の動きだ」
レイは息を整える。
「二本を別々に動かすんじゃない」
「そうだ」
「二本で一つの攻撃を作る」
その時、修行場の端から声がした。
「やるじゃん」
蒼真たちが歩いてくる。
蓮司が倒れた標的を見る。
「俺なら三つ目くらいで止まってるな」
「お前は力任せだからな」
レイが淡々と返す。
「言うじゃねえか」
蓮司が苦笑する。
凛も笑った。
「でも、みんな修行で変わってきたね」
蒼真が頷く。
「次に夜叉衆と戦う時は、今までとは違う戦いができそうだ」
その瞬間。
レイの表情が変わった。
「……待て」
「どうした?」
レイは耳を澄ます。
木々の間を抜ける風。
鳥の鳴き声。
そして――
微かな足音。
「誰かいる」
四人が一斉に森を見る。
蒼真が風影刀に手を添える。
「夜叉衆か?」
レイは首を横に振る。
「分からない」
足音が止まった。
森は静まり返る。
すると一本の木の幹に、短刀が突き刺さった。
四人が身構える。
レイが慎重に近づく。
短刀には夜叉衆の印。
その柄には紙が結びつけられていた。
レイが紙を開く。
そこに書かれていたのは――
「一」
レイの目が細くなる。
「最後の数字だ」
蒼真が紙を見る。
「三、二、一……」
蓮司が刀を抜く。
「つまり、次は敵が来るってことか?」
影宗が静かに答えた。
「おそらくな」
蒼真は風影刀を握り直す。
「なら、こっちも準備するだけだ」
レイは二本の短刀を構えた。
「次は、逃がさない」
森の奥。
誰もいないはずの場所で、枝が一本だけ揺れた。
四人はそれを見逃さなかった。
第71話 完




