第70話「凛の水遁」
午後。
黒影衆の修行場から少し離れた場所に、小さな池があった。
凛は池の前に立っている。
向かいには影宗。
「水遁を強くしたいなら、水を増やすだけでは駄目だ」
「じゃあ、何をすればいい?」
「水をどう使うかを考えろ」
影宗が池の水面へ小石を投げる。
ポチャン。
波紋が広がる。
「攻撃だけではない。守るためにも使える」
凛は水面を見る。
「守る……」
「仲間が攻撃された時、お前なら何ができる?」
凛は少し考えた。
「水の壁を作る」
「やってみろ」
凛が両手を前へ出す。
「水遁!」
池から水が浮かび上がる。
大きな水の壁が凛の前に現れた。
「できた!」
影宗が手裏剣を三本投げる。
シュッ!
凛は水壁を維持する。
ガガッ!
手裏剣が水の中へ入り、勢いを失って落ちた。
「防御はできている」
「なら、これで……」
凛が水壁を前へ押し出す。
ドォン!
大量の水が流れ、木の標的を吹き飛ばした。
「攻撃にも使える!」
しかし、直後に凛の膝が崩れた。
「……っ」
水が一気に地面へ落ちる。
影宗が近づく。
「水を操りすぎた」
「まだ全然足りない……」
「違う」
影宗は凛を見る。
「今のお前に必要なのは、力ではない」
「じゃあ……?」
「少ない水で最大の効果を出せ」
凛は再び池を見る。
大量の水を動かす。
それでは身体への負担が大きい。
なら――
凛は手を水面へ向けた。
一本の水流だけを浮かせる。
細い水流が空中を走る。
それを木の標的へ向けた。
「水遁・水槍!」
バシュッ!
水が鋭く伸び、標的の中心を貫いた。
凛は驚いた。
「さっきより……強い」
「水を一点に集中させたからだ」
凛は笑った。
「これなら戦える」
その時。
森の奥から足音が聞こえた。
凛が振り返る。
「誰?」
木々の間から蒼真、蓮司、レイが姿を現した。
「驚かせたか?」
蓮司が笑う。
凛は少し安心した。
「もう、急に出てこないでよ」
蒼真が標的を見る。
「水槍、かなり威力が上がったな」
「蒼真も風遁があるじゃん」
「俺もまだ修行中だ」
レイが静かに周囲を見る。
「……待て」
三人がレイを見る。
「どうした?」
レイは森の木々を見つめていた。
「誰かがいた」
風が吹く。
木の葉が揺れる。
しかし、人影はない。
レイは地面にしゃがみ込む。
そこには小さな足跡が残っていた。
「新しい」
蒼真の表情が変わる。
「夜叉衆か?」
レイは足跡を調べる。
「分からない」
その時、凛が池の水面を見る。
水面に、何か黒いものが浮かんでいる。
拾い上げると、小さな札だった。
そこには――
「二」
とだけ書かれている。
四人の表情が変わった。
蓮司が刀に手を添える。
「また数字か……」
蒼真は札を見つめる。
「昨日は『三』だった」
レイが続ける。
「そして今日は『二』」
凛が不安そうに尋ねる。
「じゃあ……『一』は?」
誰も答えなかった。
森の奥から、風が吹き抜ける。
蒼真は風影刀を握る。
「修行を急ごう」
四人は互いに顔を見合わせた。
夜叉衆の気配は、確実に近づいていた。
第70話 完




