第69話「蓮司の剣」
昼。
黒影衆の第二修行場。
蓮司は一本の木刀を握り、巨大な丸太を前に立っていた。
「これを斬れって?」
向かいに立つ影宗が頷く。
「そうだ」
蓮司は木刀を構える。
「任せろ!」
踏み込む。
「せやっ!」
ドンッ!
木刀が丸太に叩き込まれる。
丸太は揺れた。
だが、傷は浅い。
蓮司は木刀を見つめた。
「……硬いな」
「お前の剣は力に頼りすぎている」
「力がなきゃ斬れないだろ」
「力だけでは、強い相手には読まれる」
蓮司は黙った。
以前の戦いを思い出す。
自分より大きな相手。
何度斬り込んでも止められた。
速さではレイに及ばない。
特殊な術では凛に及ばない。
そして蒼真には風遁がある。
「俺には……剣しかない」
影宗が蓮司を見る。
「だからこそ、その剣を磨け」
蓮司は木刀を握り直した。
「どうすればいい?」
「相手の力を利用しろ」
影宗が木刀を構える。
「攻撃してこい」
「分かった!」
蓮司が踏み込む。
影宗の木刀とぶつかる。
ガンッ!
力では蓮司が押している。
しかし影宗は真正面から受けない。
木刀を僅かに傾ける。
蓮司の力が横へ流された。
「なっ――」
身体が前へ崩れる。
影宗の木刀が肩に触れた。
「今のが、力を流すということだ」
蓮司は悔しそうに立ち上がる。
「もう一回!」
再び踏み込む。
今度は力を抑える。
影宗の木刀とぶつかった瞬間、手首を返す。
ガッ!
相手の木刀を横へ流した。
「……!」
蓮司の目が見開かれる。
「今の……」
「悪くない」
「もう一回!」
何度も繰り返す。
打ち合う。
流す。
踏み込む。
かわす。
少しずつ蓮司の動きが変わっていく。
夕方。
丸太の前に戻った蓮司は、静かに構えた。
大きく振りかぶらない。
腰を落とす。
一歩。
そして――
「はっ!」
斜めに振り抜く。
ザンッ!
丸太に深い切れ込みが入った。
蓮司は驚いた。
「……斬れた」
「力を抜いたからだ」
「力を抜いた方が強い……」
蓮司は自分の木刀を見る。
「なるほどな」
そこへ蒼真たちがやって来る。
「蓮司、終わったのか?」
「ああ」
蓮司が振り返る。
「ちょっと新しい剣を覚えた」
蒼真が丸太を見る。
「これ……お前が?」
「そうだ」
凛が笑う。
「すごいじゃん」
レイは丸太の切れ込みを確認する。
「前より鋭い」
蓮司は笑った。
「まだまだだけどな」
蒼真が拳を握る。
「俺たちも負けられないな」
「当然だ」
四人の間に、以前とは違う空気が生まれていた。
それぞれが、自分自身の弱点と向き合っている。
そして森の外。
木の枝に黒い札が一枚結ばれていた。
そこには一文字だけ刻まれている。
「三」
誰かが、修行場を監視していた。
第69話 完




