第66話「風遁・風刃」
森の中。
蒼真は風影刀を抜き、目の前に並べられた木の板を見つめていた。
影宗は少し離れた場所で腕を組んでいる。
「昨日は風を操った。今日は、その風を攻撃に変える」
「風を……攻撃に?」
「そうだ」
影宗が一本の木の枝を拾い、軽く放り投げる。
枝が宙を舞った。
「斬れ」
蒼真は風を集める。
風影刀を横に振った。
「風遁!」
風が刃となって飛んでいく。
しかし――
ザッ!
枝の横を通り過ぎ、後ろの木にぶつかった。
「外れた……」
「力みすぎだ」
「力を入れないと威力が出ないだろ」
「違う。風は力で押さえつけるものじゃない」
影宗は地面の葉を一枚拾った。
「これを斬ってみろ」
葉を空へ放る。
ひらひらと舞い落ちる葉。
蒼真は目を閉じた。
風を読む。
葉の動き。
空気の流れ。
そのすべてを感じ取る。
そして――
「風遁!」
刀を振る。
スッ――
葉が二つに裂けた。
「……できた」
「今の感覚だ」
蒼真は何度も葉を放ち、風刃を飛ばしていく。
一枚。
二枚。
三枚。
少しずつ狙いが安定していく。
だが、木の板を相手にした瞬間――
ドンッ!
風刃が板を大きく削った。
「おお!」
蒼真の表情が明るくなる。
「威力も上がってる!」
「だが、まだ浅い」
「浅い?」
「実戦では、それでは足りない」
影宗が木の板を三枚重ねた。
「三枚すべてを斬れ」
蒼真は刀を握り直した。
深く息を吸う。
「……風は、力で押さえつけない」
昨日の言葉を思い出す。
風を感じる。
流れを読む。
そして――
「風遁・風刃!」
振り抜いた瞬間、鋭い風が一直線に走った。
ザシュッ!
一枚目。
二枚目。
そして――
三枚目。
三枚すべてに、一本の切れ目が入った。
蒼真は息を呑んだ。
影宗は静かに頷く。
「成功だ」
「……!」
蒼真は拳を握った。
「風遁・風刃……」
新しい技。
自分の力で初めて生み出した攻撃技だった。
だが――
その直後。
森の奥から、木が倒れる音が響いた。
ドォン!
蒼真と影宗が同時に振り向く。
「誰かいる」
影宗の声が低くなる。
蒼真は風影刀を構えた。
木々の隙間。
そこには誰の姿もない。
ただ、地面に一本の黒い短刀が突き刺さっていた。
刀には、夜叉衆の印。
蒼真の表情が変わる。
「夜叉衆……」
影宗は短刀を見つめた。
「警告か」
「また来るってことか?」
「おそらくな」
蒼真は風影刀を握り締めた。
「なら、もっと強くならないと」
森を風が駆け抜ける。
その風は、昨日までとは違っていた。
蒼真自身の意思を乗せた風だった。
第66話 完




