第64話「夜叉衆の刺客」
山の中。
蒼真は風遁の修行を続けていた。
「もう一度!」
「風を感じろ」
影宗の言葉を思い出しながら、蒼真は目を閉じる。
ヒュウ……。
風が頬を撫でる。
「右……」
蒼真が身体を傾ける。
ヒュッ!
一本の苦無が、蒼真の頬をかすめて木に突き刺さった。
「……!」
蒼真が振り返る。
「誰だ!」
影宗もすぐに構える。
木々の奥から、一人の男が姿を現した。
黒い忍装束。
腰には刀。
額当てには夜叉衆の紋章。
「夜叉衆……」
男は蒼真を見る。
「思ったより早く気づいたな」
蒼真が風影刀に手を伸ばす。
だが、影宗が止める。
「抜くな」
「でも!」
「修行の成果を試すいい機会だ」
蒼真が驚く。
「この男と戦えってこと?」
「そうだ」
夜叉衆の男が刀を抜く。
「俺の名は黒刃の迅牙」
「迅牙……」
「風継ぎになる前に、お前を倒す」
迅牙が姿勢を低くする。
次の瞬間――
シュン!
一気に距離を詰めてきた。
「速い!」
蒼真が横へ飛ぶ。
刀が服を切り裂く。
「風を読んだか」
迅牙が再び踏み込む。
「なら、これはどうだ!」
連続した斬撃。
蒼真は風の流れを感じながら避けていく。
一撃。
二撃。
三撃。
「見える……!」
蒼真は攻撃の直前に身体を動かす。
迅牙の刀が空を切る。
「なるほど」
迅牙が笑う。
「修行しただけのことはある」
蒼真が拳を握る。
「今度は俺の番だ!」
「風遁・風弾!」
ドン!
風の塊が迅牙へ飛ぶ。
迅牙は刀で受ける。
「この程度!」
だが、風弾の衝撃で身体が後ろへ吹き飛ぶ。
「ぐっ……!」
蒼真が驚く。
「効いた!」
「油断するな!」
迅牙が地面を蹴る。
「夜叉衆は、そんなに甘くない!」
一瞬で蒼真の懐へ入り込む。
「しまっ――」
ガキィン!
影宗が刀で受け止めた。
「そこまでだ」
迅牙が後退する。
「……黒影衆の影宗か」
「これ以上は許さん」
影宗の殺気が山中を包む。
迅牙は刀を納めた。
「今日は挨拶だけだ」
「何?」
「夜叉衆は、お前の修行が終わるのを待っている」
迅牙は蒼真を見る。
「完成した時、お前を狩りに来る」
そう言い残し、木々の奥へ消えていった。
蒼真は拳を握る。
「……強くならないと」
影宗が静かに頷く。
「その通りだ」
「次に来た時は、俺一人で戦えるようになる」
風が山を駆け抜ける。
蒼真は風影刀を見つめた。
「もっと強くなる」
第64話・完




