第63話「風遁の基礎」
山頂。
蒼真は両手を広げ、風を感じていた。
「もっと集中しろ」
影宗の声が飛ぶ。
「はい!」
蒼真は目を閉じる。
風が木々の間を抜ける。
右から左。
そして、頭上から地面へ。
「……分かる」
「ならば、その風を一点に集めろ」
蒼真が手のひらを前へ向ける。
「風遁……!」
だが――
シュッ。
風は弱々しく散ってしまった。
「駄目か……」
「力を入れすぎだ」
影宗が言う。
「風を無理に動かそうとするな」
「じゃあ、どうすれば?」
「自分の中にある風を、外の風と繋げる」
蒼真は目を閉じた。
自分の呼吸。
鼓動。
周囲を流れる風。
少しずつ意識を合わせていく。
すると――
ヒュウ……。
蒼真の手のひらに、小さな風の渦が生まれた。
「できた……」
「まだ始まったばかりだ」
影宗が木を指差す。
「その渦を、あの木まで飛ばせ」
「分かりました!」
蒼真は腕を振る。
「風遁・風弾!」
ドンッ!
風の塊が木へ飛んでいく。
しかし、途中で勢いを失った。
「あと少し……!」
「距離を伸ばすには、風量ではなく流れを安定させろ」
蒼真は悔しそうに拳を握る。
「もう一回!」
何度も繰り返す。
風弾を作る。
飛ばす。
失敗する。
また作る。
やがて――
ドン!
風弾が木の幹を揺らした。
「当たった!」
「よし」
影宗が初めて笑った。
「それがお前自身の風遁だ」
蒼真は自分の手を見つめる。
「風影刀がなくても……」
「ああ」
「俺は風を使える」
「その力を磨け」
蒼真は強く頷いた。
その頃、別の場所では――。
「はあっ!」
蓮司が木人へ刀を振り下ろす。
ガンッ!
「まだ遅い!」
師役の忍びが叫ぶ。
「力任せに振るな!」
「分かってる!」
蓮司は歯を食いしばる。
凛も水遁の修行を続けていた。
「水遁・水弾!」
今までより速い水弾が的を撃ち抜く。
「少しずつ……変わってきた」
そしてレイは、二本の短刀を握ったまま静かに目を閉じる。
「相手の動きを読む……」
三人もまた、それぞれの力を伸ばし始めていた。
しかし――。
山の麓。
昨日の黒装束の男が、蒼真たちのいる山へ入っていく。
その腰には一本の刀。
夜叉衆の紋章が刻まれていた。
「まだ未完成か……」
男は木々の間を進む。
「なら、今なら倒せる」
第63話・完




